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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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人族本陣(4)

真っ先に真一へ声を掛けたのはボッシュだった。


「…真一様。魔術というのは真一様がさきほどの戦闘で神族を一掃したときなどに使ったのも魔術ですよね?」


その一声で他の者達は天使族を壊滅へと追いやった竜巻を思い出し肌に鳥肌をたてた。

そんなみんなの様子に気付かない真一はいつも通り、平然と質問に答える。


「おう、そうだ。」


「その魔術というのは真一様の強さの要でしょう?それを公開というのは…」


ボッシュが少し言いよどみながら尻すぼみをするなか、真一は首を横に振った。


「簡単な魔術ダイナマイトやなんかは俺じゃなくて武や公彦、クオやアンナでも使えるくらいに教えてるぞ?第一俺が直に教えてる奴等もまだ途中段階だし、俺もまだ色々試験的に試してる状態だ。」


その発言を聞いて驚きの声を上げたのはロキだった。


「えっ!?さっき壊滅させた魔術が最大規模じゃないのか!?まだ上があるの!?」


他の者達もみんな同様に驚きながら真一を見ると当人は両手を挙げて首を横に振った。


「隠すわけじゃないけど、さっきも言ったように魔術は俺がやり出して色々と試しているんだ。どこまでできるのかもわからないし、限界があるのかないのかもわからない。一つわかってるとしたら魔力量が少ないからできることに限界はあるとは思う。」


次に手を挙げて発言を求めたのは公彦だった。

真一は一瞬言いよどんだが、そこで公彦に向かって頷き発言を促した。


「真一君。教えてもらいながら疑問に思ってたんだけど、魔術って魔法と違うの?」


「そこからか… 前に教えたと思うけど、俺が使ってる魔術ってのは前の世界でルーン魔術って呼ばれてるものだ。俺が以前から調べていたものだとルーン文字を刻んだ道具を使ったりするやり方とルーン文字を詠む詠唱と呼ばれる二通りある。武が発音難しいって言って詠唱できそうにないからノートにルーン文字書かせてるのは記述の方で魔術が使えるように、と思って書かせてたんだよ。」


「そうだったのか… 俺はまたお前の嫌がらせかと思ったぜ… 高校の教科書丸写しとか思い出して泣きそうだった…」


「それは赤点取りまくってたお前が悪い!」


真一がうんざり顔をした武につっこみを入れていると、今度はレオナルドが手を挙げてきた。

真一が「えええぇぇぇ…」と、呻きながらレオナルドに対して手で発言を促すとレオナルドは椅子から立ち上がった。


「ということは、そのルーン文字というのを学べば誰でも真一殿と同じ魔術が使えるということかな?」


レオナルドのその質問に対して真一は少し考えて返事をした。


「もしかすると私なんかよりももっと凄い魔術の使い手が現れるかもしれません。また、魔術は人族に限らず魔族でも神族でもできます。それはうちのナターシャやセシリーにも魔術ができることから言えます。」


その発言を聞いてリーゼロッテ達が驚いた顔をした後、質問した。


「真一さん、そのあたりのことってホントに私達聞いちゃってもよかったの…?私達がこの後にあなた達を裏切って敵対したら自分の秘密を喋ったことを後悔するかも知れないよ…?」


質問したリーゼロッテが一番慌てつつオドオドと真一に聞くと、横から武がケラケラと笑った。


「あ~。多分、こいつそこまで考えてないだけっすわ。どーせ、その時はその時としか考えてないんだろ?」


武の発言を聞いてみんな真一を見ると真一は大爆笑した。


「まあ、これで裏切られて後ろから刺されたなら俺も見る目がなかったってことだな。」


「いや、でも真一君。ホントそれって実際になったら笑い事じゃないよ?」


そう言いながら公彦も笑う中、ボッシュが溜息を吐いた。


「ホントになったら私の胃がもちませんよ… いや、考えただけで私の胃が… まったく、なんで私の主はこんなバカなんだか…」


「これが真一様ですし…」


と、クオがボッシュに苦笑いを向け、


「こういう方だからこそ、私がお仕えするのが一番なんだと思うけど?」


ミントはボッシュに笑いかけた。

そんな周りの者達を眺めていたレオナルドは目を瞠った。


(あれだけの力を見せておきながら部下からは恐れられるどころか親しまれる。そして、この場において一番影響力があるにも関わらずそれを強調せず逆に懐の大きさを見せている… しかも、恐らく真一殿は天然でそれをしている… やはり、真一殿は…)


斜め向かいではロキも真一を見ていた。


(個人での戦闘力も多分俺より強い。それにさっきの戦闘でのあの風の魔法… いや、魔術か?どちらにせよ、真一以外にできるやつが敵に増えるかもしれないし、味方に現れるかもしれない。希望も絶望も両方の可能性を考えさせられちゃったな… あのヘラ(バカ)みたいに真一に敵対しなくてホントによかった…)


ロキの後ろで裏切ることの可能性を示唆したリーゼロッテは打算を始めていた。


(ロキちゃんよりも強いのは確実… で、この器の大きさ… 実年齢45歳だっけ?それを考えてもやっぱり婚姻は結んでおきたいなぁ… それに面白そう!)


ドワーフ族の長であるリーゼロッテを横目で見ながらランドルフは人知れず静かに溜息を吐いた。


「真一殿、さきほどの戦いで見せてもらった魔術というものがまだ途中というならばやはりここで公開するべきではなかったのではないか?」


今までキンバリーを立てて無口だったランドルフが真一を見直しながら言うと真一はすぐ横に首を振った。


「他の者にはない力が自分にはあるんだ。自分は特別なんだ。などという考え方をしていると言動全てに表れる。つまり、偉そうにしてしまって、いつの日か今味方でいてくれてる目の前のみんなにも愛想を尽かされ敵対される。そんなことはない、と今はみんな言ってくれるだろうけれど前の世界では歴史上でそういう者達が堕ちる様子を示すのにぴったりな言葉で『驕れる者久しからず…』というものがある。公彦みたいに先生をやってるわけじゃないから全文は覚えてないけれど、俺はこの世界に来て色々できているからと言って偉そうにしたくない。みんなに嫌われるのは真っ平だ。」


そう言った真一は両手を挙げて苦笑しながら首を横に振った。

そんな真一に再度声を上げたのは公彦だ。


「真一君、それってさ『驕れる人も~』っていう部分は『謙虚さを忘れたために報いを受けた』というより、『現世の栄華は長続きしない』という意味合いが強いって思ってたけど?」


「おいおい、ここにきてこの場で勉強はやめてくれよ。姿こんなでも一応45歳だぞ?もう授業はいいよ。」


公彦と真一がそんなやり取りをしているとそれを見ていたジュリウスは心の中で感嘆していた。


(やはり召喚された方達の中で一番大器だったのはこの方だった… 落ち着きといい、運の良さといい、思慮深さ。何より優しさというものを持ち合わせているのが一番いい。アンナはいい方を伴侶として選んだものだ… それにしても魔族からの同盟まで引き出すほどとは…)


やり取りがひと段落したところで真一は最後に言った。


「それにな。魔族に俺という人物を見てもらうなら隠し事はなしで、俺は俺らしくあるために自分らしさを失わないために今まで築いてきた自分をここで出していく。レオナルド様もロキも情報公開してくれてるのに俺が黙ってるのは俺自身が嫌なんだ。」


その言葉を聞いてロキを始めとしたリーゼロッテ、キンバリー、ランドルフ達やレオナルドとジュリウスも真一へ笑みを返し、ロキとレオナルドは互いに顔を見合わせ静かに頷き合うとロキが話し始めた。


「人族の魔王からの魔術というものを聞けたのは俺達魔族としては意外だった。それだけにそれを真一が話してくれたのは嬉しい。俺はさっきも言ったとおり魔族は人族と人族の魔王に対して同盟を結ぶよ。」


「ワシも同じじゃ… と言いたいところじゃが、ワシが話したことなぞ身内の恥のみで秘密でもなんでもない。ロキ殿を始めとして真一殿に対しても頭を下げるのはワシよ。ジュリウスよ。人族がこの場で言えるような秘密など何かあったか?」


と、レオナルドは自分の後ろにいたジュリウスへ顔を向け言葉を掛けた。

ジュリウスは目を瞑り僅かに思案した後、目を開いて話し始めた。


「…王よ。古代勇者の遺品が宝物庫にあるでしょう?あれについて話をするのはどうですか?魔族側が知っているかどうか知りませんがもしかしたら真一殿達があの遺品について何か知っているかもしれません。情報というには頼りないですし、公開できるような秘密というならば人族は恐らく古代勇者関連のものしかないでしょう。」


それを聞いたレオナルドはそれまで申し訳なさそうな顔をしていたが表情を崩しロキや真一達の方へと向き直り顔を綻ばせた。


「おお、そうじゃった!!人族にはな、古代勇者達が残した物が大切に保管されているんじゃ。それが初代王の代で壊れてしまったらしいのじゃが物が物じゃしな、捨てるわけにもいかないのでずっと宝物庫に入れているんじゃよ。」


「…今は反乱起こされて城自体がありませんが…」


ジュリウスが冷静に言葉を継ぐとレオナルドは再び顔をシュンとさせ落ち込んだ。


「でしたら、反乱を治めた後でこの場にいる者達に見せていただくというのはどうです?」


そのレオナルドを見た真一が慌てて声を掛けるとレオナルドは顔を上げて頷いた。


「それにはロキ殿を始めとした魔族の方達にも付いて来てもらわねばならぬ… それに反乱を鎮めた後、ロキシードがどのような様子になるかもわからんしの…」


「俺達なら構わないよ。この同盟の話し合いは始まったばかりなんだ。内容を詰めるためっていうのもあるけど、魔術っていうのも教えてもらいたいししばらく同行するよ。」


ロキがレオナルドと真一にそう言っていると一人の兵士が本陣へ走りこんできた。

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