人族本陣(1)
真一が騎士と出会っている頃、人族の本陣奥では四人が談笑していた。
「入口近辺の兵士からの報告だと恐らく来たのは使者ではなく、真一殿本人でしょう。」
ジュリウスがそう言うと頷き同意する三人。
「しかし、だんだんあいつ現実離れしてきてるなぁ…」
「真一君が規格外っていうのは以前の世界からでもそうだったけど、こっちにきてからより一層酷くなってるね。」
二人の話を聞いて座っている上体から身を乗り出すようにしてレオナルドが話す。
「ほう。こちらに来る前の真一殿か… そういえば、義理の息子となるのに真一殿のことはそこまで知らなかったな。彼はこちらに来る前はどんな感じじゃった?」
レオナルドから聞かれた武と公彦はお互いに顔を見やってしばらく首を傾げると武から話し出した。
「まあ、俺達もあいつと離れてる期間が長かったんで全部が全部知ってるってわけじゃないんですけどね。多分、何にしても無気力だったと思いますよ。なんつーか… 向こうの世界じゃ俺達みんなしがない中年ですからね。しかも、俺と真一は二人共独身だし。」
武が苦笑していると、ジュリウスが不思議そうに首を捻り質問してきた。
「その前の世界で独身だった理由とかってあるんですか?」
武は少し唸ったあとジュリウスを見返して話し出した。
「俺が言ったってのは内緒にしてくださいよ?マジ殺されるんで… こっちに来る少し前、真一と飲む機会があったから一度飲んでるときに話してたんですがね。あいつ、女性恐怖症と人間不信と両方あったらしいんですよ。それと、俺から言わせてもらうとあいつ自身が鈍感ってのもあるかな~と。ちなみに俺は結婚すると自分の自由に金が使えなくなったり、遊ぶ時間やなんかもなくなるってのが合わないんで結婚してなかっただけです。」
武が笑いながら言うと公彦が今度は聞いた。
「そういえば、武は真一君とよく遊んでたね。二人共飲みにもよく言ってたみたいだからオトナな店とかも行ってたんじゃないの?」
聞かれた武は首と手をを横に振る。
「バッカ。あいつ、そのあたりすっげーかてえのよ。他のやつがそういう店に金を使うのは別になんとも思わないけど自分が金を使うってことにはすっげーシビアよ?以前誘ったらあいつ、俺が店から出るまで入口で文庫読んで待ってるだけだったし… お店もそうだけど、中のお姉ちゃんからもすっげー睨まれてたぜ。以降、あいつと飲む時はそういう店は外してるんだ。」
「へえ。武にしてはあっさり引き下がったんだね。僕はまたいつもみたいに真一君に粘ってお店に連れて行くかと思ったのに。」
公彦がホントに意外そうにして言うと武が凄い勢いで首を横に振った。
「…一回やったらあのバカ、マジで即キレして殴りかかってきやがった。殴られてまであいつとそんな店に行きたくねーよ…」
その二人の話を聞いて顔をしかめるのはレオナルドとジュリウスだ。
「その真一殿に娘を嫁がせる我々は安心していいのか不安に思ったらいいのか…」
「うぅ~~~~~~~~~む……」
武は笑いながら上下に手を振る。
「あ~、大丈夫ですよ。あいつ最初はかな~~~~~~り戸惑ってましたけどね。レディちゃんとアンナちゃんにはベタベタっす。」
「真一君、アンナちゃんには告白したんだっけ?確かに初めてアンナちゃん見てた時に真一君止まってたよね。」
「おお、あれって多分一目惚れってやつだぜ。」
「公彦殿から見る真一殿はどういう方だったんですか?」
話を振られて公彦は改めて首を傾げ回想を呼び起こしながら話し出す。
「う~~~ん、第一印象は凄く真面目な人…でしたね。ただ、根暗でもなく、バカみたいにはしゃぐわけでもないし、遊ぶときには遊ぶけど真面目なときは真面目。ちゃんと決まりごとを守る人… ただ、女の子と一緒っていうイメージは全くないですね。いるのは僕達男連中と常にあった… そんな印象です。」
そんな公彦の返事を聞いてレオナルドとジュリウスは顔を見合わせた。
「ワシらは孫をこの手に抱く日がくるんじゃろうか…?」
「王よ。真一殿に一度ちゃんと釘を差しおく必要があるのでは…?」
そんな話をしていた四人に対して兵士が話しかけた。
「お話中失礼します!騎士様が真一様をお連れになりました!」
レオナルドは厳かに頷き、ジュリウスが兵士へと話しかけた。
「失礼の無いようにこちらへとご案内をしてください。」
「ハッ!」
兵士が下がると四人は顔を見合わせ顔を綻ばせた。
「いろんな意味で規格外の者よな。」
「でしょう?」
「昔からなんですよ。」
「真一殿のこれからに期待しましょう。」
そんな四人の目の前にボロボロの麻の服を着た真一が現れた。