閑話・王女様の物語
中国地方では最近暖かくなってきたのですが、みなさまの住んでるあたりはどうでしょうか?
寒暖差が激しいと体調も崩し易いです。
読者の方々はお気をつけくださいませ。
今回は初の閑話となります。
投稿していく中でちょこちょことこの様な閑話を入れていけたら…と思っております。
よろしくお願いします。
私は子供の頃から昔話が好きでした。
中でも童話や物語は特に大好きです。
そして、その中でも特に好きだったのは『古代勇者の軌跡』という物語。
遠い遠い昔にあった本当の出来事らしいです。
だからでしょうか?
私はこの物語が好きで仕方がありません。
だって、この物語には夢がいっぱいだから!
古代勇者様達は召喚された直後40人を越える人数がいたとかいなかったとか…
それが迫害され絶滅寸前の人族を見て、何人かが人族のために味方になってくれたことからこの物語は人々の間で話されます。
神族と魔族という突然現れた二大種族に対して人族と元々この星に住んでいた種族。
人族は他の種族と力をあわせるけれどなす術も無くおいやられていき、古代勇者様の知恵と力と仲間との団結力で神族と魔族を追い払う。
文字に表すとすごくあっけないですが、本当はとても凄いことなのです。
お兄様はこの物語を聞かせられるたびに機嫌が悪くなってしまいます。
「ふん、古代勇者だろうがなんだろうが、人族が神族や魔族に太刀打ちできるわけがない。物語など所詮物語… いいか、レディ。我は違う!この国をいずれ引き継いだ後は軍を強化して二大種族を逆に滅ぼし、人族の世とする!!」
と、いつも物語を話すジュリウスがいないところで私にお兄様の将来行う偉業の話をしてくださいます。
でも、古代勇者様達はどのような方達だったのでしょうか?
神族の人達は神聖力と呼ばれる力で何かを呼び出す力。召喚ということをやってのけ、何もないところから者や生き物を出してきます。
魔族の人達は魔力を使った魔法を使って、手から火や水、氷、風、雷といったものを飛ばして攻撃してきたり、身に纏ったり、武器や防具に力を宿して戦ったりします。
一方、人族には神聖力はないし、魔力はあるものの魔族の方達とは比べ物にならないくらい少なく魔法は仕えません。稀に魔力を多く持った人が産まれることもあるらしいですが、魔族の方とはやはり比べようがないほど少なく話しにもならないとかジュリウスが教えれくれました。
だからこそ、召喚された古代勇者様達が神聖力を使うはずの召喚ができたり、魔法が使えたりして神族・魔族の二大種族を追い払うということはとても凄いことなのです!
12歳になったある日の夜、私とお兄様は毎日の日課である勉強を終わらせ、夕飯を食べて退出し部屋へ戻ろうと歩いていると文官の方々も武官の方々も慌しく走り回っています。
辺りを走り回っている武官の方の一人を呼び止めてお兄様が事情を聞きだすと…
なんと、古代勇者様が造った『召喚機』が起動しているのだとか!
どのくらい昔に造られたかわからないような『召喚機』が起動する。
しかも、それがちゃんと動くかどうかもわからないということでお城にいる者達は大騒ぎになっています。
武官の方はお兄様に事情を話した後、駆け出し『召喚の部屋』へと行ってしまいました。
その武官さんの後ろ姿を見ていたお兄様は振り返って私に言いました。
「レディ。我らも行くぞ!召喚されし者という得体のしれない者の正体を探るのだ。」
当然私の返事も決まっています。
「はい!」
すぐさま私とお兄様は『召喚の部屋』へと向かいました。
日頃は掃除のためにしか人が行かない『召喚の部屋』なのですが、今は非常事態ということで賑やかです。そしてこの部屋はとても大きい部屋で中には大分多くの人数が入れるようなスペースがあるのですが、お兄様と中を覗いてみると城にいる武官や文官の方のほとんどがこの部屋へと集まっているようでかなり多くの者達がいました。
そんな皆の中心では見たこともないような服装をした人族が何人かいます!
それも、物語にしか出てこなかった古代勇者様達と同じ特徴を持った黒髪黒目の人達!
…でも、気のせいでしょうか?
召喚された方達もそうですが城の者達も凄く雰囲気が悪そうです…
そう思っていると、召喚された方達のうち何人かが集まり大声を上げながらジュリウスへと話しかけていきました。
そんな召喚された方達を見てお兄様は顔を歪めて私に言いました。
「見よ。やはり物語に出てくるような者達なぞ存在せぬ。他の者達もそう思うのだろうな。武器を構えて警戒しておるわ。」
フンッと鼻を鳴らして召喚された方達を見るお兄様ですが私は首を傾げました。
「ん?どうした?」
それに気付いたお兄様は顔を私へと向け聞いてきました。
「召喚された方達の中でも騒いでいる方と落ち着いている方と別れてますね。」
「…ん、まあ。そのようだ…」
「あちらの方達も事情が飲み込めてないのかもしれないのでは?」
「…だとしてもレディ。我らが奴らに対して便宜をはかってやる必要なぞない。召喚されし者達などもはや我が国には必要ないのだ。」
私とお兄様がやり取りをしている間に召喚された方達の中から一人、スタスタとジュリウスの方へ歩いて行く方が見えました。
「ちょ、お前最後になんて言った!?おい、待て!」
歩いて行く人へと慌てて仲間の方が声を掛けてますがその方は溜息を吐きながら歩いていきます。
辺りを見回しながら歩いているその方と一瞬目が合いました。いえ、合った気がしました。
その目を見た時、私は不思議と安心を覚えました。
この方だ!
その後、その目が合った方とジュリウスがお話しして召喚された方達は父上と謁見されることになったようで謁見室へと移動していきました。
私やお兄様も付いていっていましたが、謁見室から休憩室へとさらに移動するときに父上に見つかってしまいました。お父様は片手で頭を抑えて呻きました。
「…ジャック。レディ。お前達は仮にも王族じゃ。にも関わらず今だ安全かどうかもわかっておらぬ正体が不明の召喚された方達へと近付くのはどういうことじゃ?」
父上の言葉にお兄様は頭を垂れ、私も返す言葉もないまま項垂れました。
そんな中でジュリウスが父上へと話しかけました。
「王よ。王子も王女もそうですが、私も伝承でしか聞いたことがないような者達が急に現れたのです。お二人だけを咎めるというのも酷なことです。ここはそこを御理解し穏便に…」
「それもそうか。それはそうとジュリウスよ。召喚された者の中で本当に勇者がいなかったのか?」
「『召喚の部屋』自体がちゃんと起動したので魔水晶もちゃんと反応する…と思っていたらしませんでしたから… 本当にいないのかもしれません。もしくは魔水晶が反応するにはまた何か理由があるのかもしれません。それすらもわからないのでなんとも言いようが…」
「確かに、伝承伝承ばかりでワシで38代目じゃが今までの歴史上動いたことがなかったからなぁ… しばらくは様子見か… しかし、ジュリウス。お前が話しかけていた者。あの者は何かあるのか?お主はあの者ばかりに話しかけていたではないか。」
「『召喚の部屋』で召喚された者達の中であの者が一番落ち着いてもっとも話が通じていたので話しかけていたのです。見立てではあの者があの集団の長であると見たのですが…」
「ふむぅ… 召喚された者達も全ての者達が古代勇者と同じ力をもっているわけではない。ということかの?」
「恐らくは…」
お父様とジュリウスがそんな会話をしている中、お兄様と私はお話を伺っていましたが話の区切りがついたのかお父様がこちらへと向き直りました。
「ジュリウスの進言により、お前達の迂闊な動きもしょうがないものとしておく。じゃが、さっきから話していた通りまだわからぬことだらけでしかも得体もしれぬ。彼等は様子見するので当分は近付かぬように…」
「はい!」「わかりました。」
「…ふむ。それにしてもあの者達の中で勇者がいるかいないかもわからないのであれば勇者と同じことをしてもらえるように話してみるしかないか…」
「と、言いますと?」
「無論、神族と魔族を抑えて人族に安寧をもたらすことじゃ。最近はメサイアも活発が酷くロキシードの付近も安全とは言えなくなった。」
「なるほど…」
「そこで… ジャック、レディ。」
「「はい!」」
ジュリウスと話を再開したお父様が突然こちらへ向き直り仰りました。
「あの者達の中から勇者と同様のことを成し遂げそうな者、もしくは成し遂げた者とお前達は結婚してもらおうと思う。」
その瞬間、私とお兄様の時は止まりました。
そして次の瞬間にはお兄様が反論しました。
「父上!我は確かにこの国を継ぐとなればどのような者でも娶る覚悟はあります。しかし!レディにはそれなりの者をと思っておりました!下手をすればレディは不幸になってしまいます!どうかそれは御再考を!
!」
父上はお兄様を見ると、次に私へと目を向けます。
「…あの者達への餌とするのは忍びない… が、これも王族として産まれたからには義務と心得よ。ジャックよ。レディにしかる者を、と思うならそなたがその者を援助し勇者とさせよ。また同様のことをレディにも言っておく。自分の意中の者を援助し、勇者とせよ。そうすればお前は自分の好意を持った相手と一緒になれる。またこれは召喚された者に限らない。」
その意味を理解したお兄様と私はハッと気付き父上を見返すと父上は笑いながら頷かれました。
つまり、自分達がこの方が伴侶になってほしいという方を援助して古代勇者と同じ事をしていただいていたら誰と結婚しても構わないということです。
「では、退出してもよい。下がりなさい。」
「「はい!」」
私は退出し自分達の部屋へと戻ろうとしましたが、お兄様は足を他へと進めようとしました。
「お兄様?」
思わず尋ねるとお兄様は口元に人差し指をもっていき、静かにするようジェスチャーで伝えてきます。
首を傾げているとお兄様は耳元へと口を近付け伝えてきました。
「もう一度、召喚された者達を見に行ってみよう。」
次の瞬間、召喚された方と目が合ったことを思い出し頷きました。
あの黒い目を見たい。
実は黒髪黒目は古代勇者様達以外には存在せず、神族・魔族にも存在しません。
私自身も古代勇者様の子孫の一人ですが黒髪黒目ではありません。
だからでしょうか?
あの目が見たい、と思ってしまうのは…
吸い込まれそうな黒い瞳…
「レディ?アンナが案内してたのは恐らく休憩室だ。行くぞ。」
「あ… はい!」
正気に戻った私はお兄様と二人で部屋とは違う方向へ駆け出し、やがて見えてきた休憩室の入口へと近付き、その中を覗き込みました。すると中ではさきほどジュリウスへと迫っていたのと同様にアンナへと迫る召喚された方達が見えます。そして、それを一喝していたのは最初にジュリウスと冷静に話していたあの目が合った方でした。
「ふん、なんだあの品性の欠片もないような怒鳴り方は… これだから下郎は…」
どうやら先程の方の怒り方はお兄様には御気に召さない様子だったようです…
でも… やはり、私は… またあの黒目が見たい…
そう思って扉の隙間から中を覗いているとあの方は立ち上がり姿が見えなくなりました。
(あの方はどこに…?)
そう思っていると突然扉が開かれました。
『バンッ!』「うわああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」「ひゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
軽くもたれ掛かっていたせいか、お兄様と私は二人共休憩室の中へと転がり込んでしまいました。
勢いあまり倒れてしまう次の瞬間、優しく抱きしめられ声を掛けられました。
「ぼく?お嬢ちゃん?二人とも怪我はないかな?」
その抱きとめてくれた方はあの吸い込むような黒い瞳で私を見つめ、笑顔がとても綺麗でした。
その休憩室の扉を開けた時、そこからレディ・メイソンの物語は始まりました。