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召喚されし者達  作者: カール・グラッセ
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空気が読めない者と騎士

召喚された直後にジュリウスへ詰め寄り、先頭に立って騒いでいたおっさん達の中で一番偉そうにしていたおっさんが馬車から降りた真一の目の前に歩み寄ってきた。

真一からすれば仲良く話したこともないようなおっさん。しかもジュリウスへ詰め寄る印象しかないようなおっさんが笑顔で立っていることで更に拍車を掛けて顔が引き攣りそうになるのを堪えるのに必死なのにそのおっさんは笑いながら声を掛けた。


「田中君!ワシは君はやる男だと思ってたよ!」


そのおっさんが笑うたびにぽっこりと出た腹が派手に揺れる。


(あのお腹、俺の中年太りの腹より酷いわ… ってか、体脂肪率量ったら明らかに太りすぎと表示されそうだな…)


多少現実逃避気味になりつつ思考が明後日の方向へと向かっていこうとしてる真一の意識だったが、おっさんはそんなことは露知らず笑顔で話し続ける。


「敵の大群をものともせず、ばったばったとなぎ倒し八面六臂の大活躍だそうだね!さすがワシが見込んでいただけのことはある!」


「あ、はい。どうも…」


「いやはや、今ロキシードでも噂される英雄殿とは思えん謙虚さ。いや素晴らしい!」


「いえ、私は部下に恵まれてますし、運がよかっただけですから…」


「ふむ…」


「それで、すいませんが私はあなたと面識はありますが自己紹介などお互いしてないはず… 御用のほどは?」


話し出すのも嫌だし、ためらわれるのだがいつまでもおっさんに時間を費やすのも嫌気が差すので思い切って真一が尋ねるとおっさんは一つ頷くとお腹を一層前に出すように背筋を反らして大声で話し始めた。


「実はワシは箱根に別荘を持っておってな!」


「はい?」


「しかもワシはJFFの重役でもある!」


「はあ…」


「そして娘が二人いて二人共、女子高生で且つ可愛い!」


「はあ…」


「ワシと田中君があちらの世界に戻った後、二人のうちどちらかを君の娘に… つまり君をワシの義理の息子になってもらおうかと思っておる!」


「…は?」


「どうじゃ?」


自慢話を突然始めて、その後娘のことを簡易説明。次の瞬間に自分にあてがう話を持ち出す。で、どうだと言われてもさっぱりわけが理解できず、真一は自分の頭の上にクエスチョンマークが何個も浮かび上がる映像しか思いつかない。


「…と、言われましても意味が理解できてないのでどうじゃ?と聞かれてもさあ?としか言えないですね。」


「…わからんのか!?」


「わかるわけないでしょう。第一、私達は二年前にこの世界に召喚された時は行動を共にしていましたが城から出て行くときにはお互い自己紹介もせずに別れたし、その後も一度も話したことはないでしょう?それが二年後に突然話しかけられて意思の疎通もクソもないですね。会社の新入りが説明下手な上司から仕事のレクチャーされるときと同じかそれより酷いくらい訳わからないです。」


「ワシの娘をやって、ワシの財産もくれてやるからワシが元の世界に戻れるように便宜をはかれと言っている!!」


真一が素直にわからないということを伝えると顔を真っ赤にしておっさんは怒鳴り散らした。

そんなおっさんに対して真一は酷薄な表情でクックと笑いを堪えながらおっさんの肩を片手で叩きながら声を掛ける。それはおっさんのみならず馬車から降りた他の者達などにも聞こえるほどの声量。


「おい、名前も知らないおっさんよ。前の世界じゃどうだったかしらねえ。箱根に別荘。いいねえ… だが、わかるか?こっちの世界じゃ意味がねえんだよ。それとな、俺は前の世界よりも今の世界の方が水が合ってるみたいだし、あんたの娘さん達にも興味がない。こっちの世界じゃあんたはただのしがないおっさんだ。そして…」


おっさんの肩を思い切り握りしめながら真一は底冷えのするような声色に変えながらおっさんの耳元で囁いてやる。


「俺はこちらの世界じゃ魔王と呼ばれる者の一人なんだよ。親しくもない相手にいきなり親しげに話しかけられるのはできるだけやめてもらいたい。そんな時間も惜しいしな。」


そして、握り締めた肩を適当に突き飛ばしながら顎をしゃくり、馬車から降りた他の者達を連れて人族の本陣奥へと向かい歩き始める。

そんな真一の隣へと歩みを進め耳元に話しかけるのはミントだった。


「ご主人様。あの者もそうですが、他の者達もあまり信用できそうになさそうです…」


真一はケラケラと笑いながらミントの頭を撫でた。


「そうかそうか。信用、信頼に足る人物かどうかあの辺りの連中をどう扱うかなど、多少迷ってはいたがやはり使いものにもならんか… ミント、そんな判断をするためにわざわざ指輪を外して教えてくれたのか。すまない。それとありがとう。」


力強く、しかし優しくミントの頭をしきりに撫で続けながら真一は礼を言った。


「さて、あまりこんな入口で時間を食うわけにもいかない。進むとしよう。」


ひとしきりミントの頭を撫でたあと、真一を先頭にその集団は人族の本陣を歩き始めると一人の兵士が真一達の前に近付いてきた。その兵士は騎士のような鎧や兜を装備していてマントまで付けていた。前の世界で表すと中世ヨーロッパにいた騎士そのものだ。その騎士は突き飛ばされて転がされているおっさんには目もくれず真一に対して質問してきた。


「人族の魔王、真一様でいらっしゃいますか?」


「そうだ。」


真一が返事を返すと騎士は片膝を地面へと付き、頭を下げ言葉を続けてきた。


「主人より案内役を仰せつかっております。私の後ろへ続いて来ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


(うっわ… 何これ… 騎士に頭下げられてるよ…)


などと思っていたのだが、そんな場合ではないと気付き頭を振りながら真一はその騎士に対して質問を返した。


「失礼だが、お前が言う主人というのはどなたになる?俺達はレオナルド様やジュリウスさんに会いに来たんだが。」


すると騎士は顔はそのまま下を向いたまま姿勢もそのままで真一へと返した。


「私の主人はジュリウスです。問題なさそうなので私が歩く後に続いていただけますか?」


「わかった… と、言いたいところだが、そのなんだ… 俺はつい最近までしがないおっさんをしていた。あまりそのような丁寧な態度を取られると戸惑ってしまうのだが…」


その騎士は立ち上がり真一を見ると軽く首を傾げるような仕草をした後、いまだ地面に尻餅を付いて真一を後ろから睨みつけているおっさんを一瞥すると真一に不思議そうに質問した。


「さきほどのやり取りが聞こえたので魔王様に対する態度として取らせていただいたのですが…?」


ボッシュを含め馬車から降りた他の者達はみんな真一をジト目で見るし、周辺で事の成り行きを見ていた他の兵士達も静かながらに呆れたような目で真一を見ている気がしないでもない。言われた当の真一は思わず後ろにいる座り込んでいるおっさんを見て目が合った。おっさんは睨んでいた目を真一に見られたため慌て喚き逃げ出し、真一は溜息を吐きながら騎士に向き直った。


「…人族の魔王はシャイなんでな。不躾な者に対してはいくらでも偉そうになれるんだが、丁寧に対してくれる者には偉そうになれないんだ。」


肩をすくめるようにして説明すると、騎士は笑いながら頷いた。


「わかりました。主人より魔王様がどんな方か聞いていましたが、思っていたよりも仕え易そうな方なので安心しました。」


騎士の言い方に引っかかりを覚えた真一は首を傾げたのだが…


「ぶっ… シャイ… 真一様が… シャイ…?」


「私達と始めて会った時にはそれなりに雰囲気があったような…」


「じゃが、魔王殿はシャイと仰ってる。」


「えっと、真一様はシャイっとメモメモ…」


「…」


ボッシュ達の反応の方に気を取られてその引っかかりを口に出すことはできなかった。

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