夢のまた夢、外の世界
この小説は、東方プロジェクトの二次創作物です!
東方紺珠伝のキャラも、少しだけ出てます。
私は霧雨 魔理沙。ある地域のある高校に通っている、一年生だ。
友達は……いない。なんだか言葉遣いが変とか、髪の色が変とかで、昔からいじめられている。でも、勉強はそこそこ出来るし、最近はそのいじめもやんわりしてきたから、別に何も考えずに毎日を過ごしていた。
ある朝目が覚めると、曇り空だった。
「あーあ、今日も無色な一日が始まるんだなあ…」
小さく呟いて、自分の心を写したような空を見上げる。しばらくして我にかえると、私は急いで制服に着替えて一階に降りていった。
キッチンに行くと、トーストのいい匂いがした。お母さんが挨拶をする。
「あら、魔理沙。おはよう。今日も無理しないでね」
「うん」
私がいじめられていることを知っているお母さんは、いつも「無理しないでね」と言う。私は大丈夫なのに… いつか必ず、あいつらを見返してやるから。
そのまま黙々と朝ごはんを食べて、学校に行く時間になった。
「じゃあ、行ってくる」
「…頑張ってね」
短いやりとりだ。
通学路を一人で歩いていると、同じクラスの人の声が耳に入ってきた。どうやら後ろに二人ほどでいるようだ。
「ねえ、知ってる?今日、うちらのクラスに転校生が来るんだってー」
「え、ホント?どんな名前なの?」
「職員室で先生たちの話を盗み聞きしたの。名前は……博麗 霊夢だって」
みんなに目もくれず教室に入った私は、さっきの人たちの会話が本当だったことを知った。なぜなら、黒板の前に先生と二人でいたその人は、全くと言っていいほど面識のない人だったから。
赤いリボンを頭に飾った彼女は、面倒くさそうに先生の説明を聞いていた。
………………どこかで、見たことがある。この人は。
朝のHRの時間になりみんなが席に着くと、先生が転校生の説明を始めた。
「今日は、このクラスに転校生が来ることになりました。博麗 霊夢さんです。みんな、仲良くしてあげt」
すると驚いたことに、その言葉を遮って霊夢が勝手に話し始めた。
「私は別に仲良くしてくれなくてもいいの。こっちの人たちには興味ないし、すぐに元の場所に戻るから。ただ、人探しに来ただけよ。それで、その人を連れて行く。それだけ」
彼女はあっけにとられている全員をぐるっと見渡し、私のところで視線を止めた。
「……必ず連れ戻してあげるわよ。魔理沙」
放課後。
教えていないのに名前を当てた霊夢は、一人で本を読んでいる私のところに歩いてきた。
「あんた、こっちでも本が好きなの?」
びっくりした私が素早く振り向くと、霊夢はにやにやしながら答えを待っている。
「こっちでも…って、どういうことだ?」
彼女は鼻で笑うと、顔をぐっと近づけた。
「本当に覚えてないのね。……幻想郷のことを」
「幻想…郷…?」
「そうよ。聞いたことがある単語…そうでしょう?」
「ああ。どこかで…」
「何度も言うけれどね。あんたは絶対に連れ戻す。その幻想郷に」
意味のわからないうちに、放課後は終わってしまった。
数日後。
放課後、特にすることの無かった私は、次の授業の準備をしていた。
「次は国語……ん?」
机の中に、教科書が見当たらない。忘れ物をしたら、授業が始まったときに先生に言わなければいけない。
「うー… 恥ずかしいから嫌なんだよなぁ…」
でも、無いものはしょうがない。私は黙ってチャイムを待つしかなかった。
「それで、忘れ物をした人ー」
授業が始まり、先生がチェックをした。手を挙げたのは、私一人だ。
「…教科書を忘れました」
すると、クラスの何人かがクスクス笑っているのが目に入った。そうか。今朝確認をしたときは教科書があったのに、今無いのはそういうことか。いつものいじめだ。どこに隠したのかな…
でも、今は何も出来ない。私がうつむいた、その時。
「ほんっと、生徒も教師も体たらくなものねえ。これだったらハクタクの方が優秀よ」
霊夢がわざとらしい大声で言った。先生を指差しながら席を立つ。
「生徒のいじめに気がつかないなんて、あんたそれでも教師なの?呆れたぁ」
「なっ?博麗さん?」
戸惑う先生を尻目に、霊夢は私の方へ歩いてきた。
「魔理沙。思い出しなさい。あんたは、こんな卑劣な人たちの中にいるべき者じゃない。あんたがもともと住んでいた場所も、そこで今もあんたを待っている人たちも全部思い出して。紫も、咲夜も、アリスも、早苗も、みんな魔理沙が戻ってくるのを待っているの。人間代表の魔法使いである…魔理沙をね」
「あ…」
一瞬、頭の中に何かが浮かんだ。ぼやけてたけれど、なんとなくわかる。傘をさした金髪の人。メイド服を着た人。赤いカチューシャを着けている人。緑色の髪の人。その他にも大勢の人が、手を振っていた。霊夢が少し微笑む。
「軽く思い出したわね。いい?魔理沙。これは夢の中なの。あんたは外の世界の夢を見ている。私は、その夢に入ってあんたを連れ戻そうとしたんだけど…」
彼女は言いながらロッカーの方に歩いていき、六角形の箱を持って戻ってきた。
「あんたの幻想は、あんたが壊さないとダメみたい。どうすればいいか…わかるわよね?」
その箱を私に渡すと、霊夢は促すように私を見た。私の方はというと、何かが口を突いて飛び出そうとしていた。何か、言いたい。言うべきことがある。私は、頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。
「恋符……」
「いい調子よ、魔理沙。その次に言うことは?」
「恋符…マスタースパーク‼︎」
箱から黄色い光が勢いよく飛び出したかと思うと、教室やクラスメイトたちが次々と砕け散っていった。揺れる世界の中で、霊夢が私の手をつかんで叫んだ。
「紫!今帰るわ‼︎スキマを開けて‼︎」
「…ん…?」
魔理沙が目を覚ました。もう大丈夫だろう。
「ふふ、目が覚めたわね」
「霊…夢?」
外の世界の夢を見て、何日も眠っていた魔理沙。永遠亭の医者は放っておけば大丈夫と言っていたけれど、信用しなかった紫が私を夢の中に送り込んだのだ。成功したみたいで何よりだ。
「あのさ…」
魔理沙が私に何かを聞こうとしたが、その時にはもう、私は魔理沙宅から出てきていた。扉の前に立っている人に話しかける。
「ホント、迷惑なことをしてくれるわね… もうこんなイタズラやめてよね。
…ドレミー・スイート」
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