表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

24

「私、こんな見た目してますけど子供じゃないんですからね!? なんで私だけ見張り番から外されるんですか!」


すり鉢に薬草を入れ、ごりごりとすりこぎで力任せにすり潰す。苛立ちの溜まっている時にこの作業は最適なのである。しかしそれでも収まらない分を言葉にして吐き出した。


「いやー……俺は起こそうとしたんだ。けど、その度に兄ちゃんが止めてよ」

「ほぅ。シュルトさん!」

「種取りでしたらもうすぐ終わりますので」

「ありがとうございま……じゃなくて! どうして私を起こしてくれないんですか!」

「雇い主に見張りをさせる護衛などいませんよ。我々は雇われている身ですので、主の睡眠を確保するのは当然です」

「うぐぅ………」


正論過ぎて言い返せない。正確に言えばシュルトさんは私が雇っているというよりも借りている状態なので該当しないのだが、そこを突いてしまえば私も自滅してしまうので言えない。


「シュテルツェルトの言う通りだよ。あんたはアタシらの雇い主。金払ってもらってるのに役目を果たさないんじゃ雇われた側としてもいい気はしない」


アリアさんもシュルトさん側についてしまい、余計に何も言えなくなってしまった。


「まあまあ。嬢ちゃんは少しでも俺らの負担を軽くしようと言ってるんだ。それに雇い主抜きの勝手な行動をとったのは俺らだ。もちろん非がどっちにあるかは明白だよな? まあ、心配なのはわかるが」


そこで仲裁に入ってくれたのはリドさんだった。人の良い笑みで二人を説得してくれている。リドさんの言葉に二人は思い直してくれたようで、私に頭を下げた。


「すみません。私はただ、アンジェさんには万全の体調でいてほしいと思っていまして……」

「アタシも冒険者が主じゃないアンジェに慣れないことで負担を強いたくなかったんだよ」


謝ってもらったことで私の怒りもおさまった。そこで自身がとんでもない事をしていることに気がついた。我に返ったと言ってもいい。生きる芸術品とでも言うべき美貌を誇るシュルトさんと気が遠くなるような時間を生きている半魔族のアリアさん。どちらも普通ならば話すのさえ気後れしてしまう存在だ。そんな人達に私は頭を下げさせている。


「嬢ちゃん。気持ちは分かるが謝らない方がいいぞ。その優しさが嬢ちゃん自身の首を締めることになる。ここは強気にいっていい」


反射的に謝ろうとした私の耳元でリドさんが囁いた。開けた口を閉じて、頷く。


「わかりました。でも、次からは私も混ぜてください。見張り番に参加するにしろしないにしろ仲間外れは嫌なので」


無事すり潰せた薬草に蜂蜜を入れ、練っていく。餅のような弾力が出たら果実水を少しずつ注ぎ、とろりとした液状になるまで混ぜる。手を止めずに釘を刺せば、二人は苦笑しながらも頷いた。


「解毒薬、できましたよ」


持ってきていた小瓶に液体を注ぎ、しっかりとコルクを押し込むと一人一人に手渡した。作れた数はちょうど十本。少し心許ないが節約して使えば十分足りる数だろう。


「アンジェが薬師っていうのを今初めて納得したよ。これだけ綺麗な緑色の解毒薬を作るなんてアンジェは相当優秀なんだねえ」

「そう言っていただけると嬉しいです。仕事には誇りを持ってますから!」


自分の分をローブの内側に縫い付けた衣嚢(ポケット)へと仕舞う。両手が空くのでこのローブはとても重宝している。しかも魔法陣のおかげで重さは一切変わらないので行動も妨げない。とても便利だ。


「他には大丈夫そうか?」


リドさんの言葉に頷き、進行を再開する。夜の森とは打って清涼な雰囲気漂う森は歩いていて気持ちがいい。


「魔物も昼はそんなに出ないからなー。足元だけ気をつけておけば大丈夫だろ」


先頭を行くリドさんの言葉に皆が頷き、比較的穏やかな雰囲気で森の中を進む。途中魔物にも出くわしたが、Bランク冒険者の敵ではない。バッタバッタと薙ぎ倒していくその側で私はいそいそと素材を回収していく。


「嬢ちゃん、どんだけ集めんだ?」


私をちらりと見てリドさんが言う。私の背丈ほどの大きさに膨らんだ革袋はもうこれ以上入りそうもないほどパンパンだ。それでも軽量化の魔法陣が編まれているおかげで重くはないのだが、そろそろ容量限界ではある。


「素材はいくらあっても損はありませんよ。この革袋の中身はぜーんぶ、売り物ですけどね」

「金儲けのためにそんなに集めてんのかよ!?」

「ふっふっふっ。あったり前ですよ! お金はあっても困りません! 最悪の事態を想定して稼げるときに稼いでおくんです!」

「嬢ちゃんきっといい嫁さんになるよ……」


思考が飛躍したリドさんを問い詰めたい気もするが、魔物がそれを許さない。倒す間際の断末魔が近くの仲間を呼び寄せてしまったらしい。


「まったく、リドが変な倒し方をするから魔物が寄ってきちまったじゃないか!」

「それ俺じゃなくてお前な!?」


軽口を叩き合いながらもその手は止まらず、破竹の勢いで魔物の群れを蹴散らして行く。二人の連携も最早熟練の域と言った感じで、隙がない。お互い単独で冒険者をしているとは思えない動きだ。


「型を重んじる騎士団ではなかなか見られない独特の連携ですね。見ていて楽しいです」


シュルトさんが魔物を倒し終えた二人にそう声をかけた。肩に大剣を担いだアリアさんは照れ臭そうに頬をかき、まあね、と呟いた。リドさんはこんなの連携なんて呼べねえ、と言いつつも頬が赤かった。


「俺らの連携云々よりまずは今日の野宿場所決め!」


話をあからさまに逸らしたリドさんはブンブンと拳を振りながら先に進んでしまう。慌てて私が追いかけ、その後ろをやれやれといった表情でアリアさんとシュルトさんがついてくる。


野宿の場所は思ったよりもすぐに見つかった。なんと今回は洞窟の中。雨が降る気配があるため多少の危険はあってもここがいいと熟練冒険者二人と王宮騎士に断言された。


「……雨、ですか? 外めちゃくちゃ快晴ですけど」


雲ひとつない空模様を指差し、アリアさんに尋ねる。リドさんとシュルトさんは食料調と焚き火に使う薪の調達に出かけていったので今は私とアリアさんしかいない。


「さっき、雨怪鳥(うかいちょう)が飛んで行くのが見えたからね。あと数時間もすれば天気は崩れるよ。予定より遅れはするが……安全には変えられないだろう?」


日も傾きかけておらず、本音を言えば降るかどうかも分からない雨に備えるよりも距離を稼いでおきたい。しかし、事情を知るシュルトさんが先に進むよりもここを選んだのだからもどかしいながらも従う他ない。


ここで意見を押し通して距離を稼ぎ、結果雨に降られることになればそれこそタイムロスに繋がりかねない。急がば回れという言葉もある。


進みたい気持ちを飲み込んで、アリアさんの言葉に頷いた。





結果として雨は降った。それはもう降った。視界が雨で遮られてしまう水量と勢い。日本だったならば交通に影響どころか高校程度ならば休校にするだろうレベルだ。大学ならば気合でこい、と言わんばかりのメールを送って来るだろうが、行く人はいまい。むしろ教授たちが休講のメールを送ってきそうだ。


まあ、なんにせよまともな神経ならば絶対に表に出ないほどの豪雨が洞窟の外で猛威を振るっているのだ。


アリアさんが入口に結界を張ってくれたおかげで雨水は洞窟には入ってこないため快適ではあるが、音はどうにもならない。音を気にしつつも焚き火や夕食の準備に取り掛かる。


リドさんとシュルトさんが持ってきた薪代わりの枝は雨に濡れる前に拾ってきたお陰かよく燃えた。そのそばに処理を施した川魚を串に刺して焼く。いい焼き色になったところでふぅふぅと息を吹きかけかぶりついた。


塩だけの味付けだが、それが淡白な魚の味とよく合った。二本をぺろりと平らげたところでアリアさんの母特製だというスープが入った木椀が差し出された。


「美味しい……」


久しぶりに口にする温かいスープは、とろりとしていて抜群に美味しい。ほのかな甘みと後から来るスパイスが後を引く。おまけにゴロゴロ入った肉や、摘んだ薬草などが入っており栄養満点だ。


「これは……とても美味しいですね」


木椀を傾けたシュルトさんが驚きに目を見張る。食べたことのない味だったようでどのようなものが入っているのか興味深げにアリアさんに尋ね始めた。


それをぼうっと眺めていると、とんとんと肩を叩かれる。振り返れば、リドさんが水を汲みに行こうと洞窟の奥を指した。


「さっき結界を張りに行ったときに見つけてな。薬草も生えてたから嬢ちゃんと行った方がいいと思ってよ」

「この雨ですからねえ。あとで薬を調合しようと思っていたのでちょうど良かったです」


二人で結界を抜け、目の前にある泉までやってきた。水の精霊の力が働いているのか、水は澄んでいてそこまで見通せる。試しに一口飲んでみると冷たくするりと喉を通った。魔女の森にある泉にも負けず劣らずな美味しさである。


そして泉の周りにはリドさんが言っていた通り、薬草が豊富に生えていた。もともとここにくる人が少ないのだろう、のびのび育った薬草は質もよく、貴重なものも多かった。


「あの子達が持ってきてくれたのもそうだけど、この森は薬草の宝庫ですね」


リドさんが水を汲んでくれるとのことで、お言葉に甘えた私は、数種類の薬草を摘む作業に取り掛からせてもらう。しばらく無言で摘んでいたが、リドさんが最後の革水筒に水を入れ終えたところを見計らって声をかける。


「で、リドさん。何かお話があるんじゃないですか? 私をここまで連れてくるなんて」

「……ゴホっ!? バレてたかあ……」

「そりゃそうです。私一人連れ出すなんてそれ以外にないですよね。リドさんはアリアさん一筋なようなので、間違いもありませんでしょうし」

「まて。なぜそこまでバレてる」

「安心してください。アリアさんは気がついてませんよ」

「……なんて言えばいいんだろうなこの場合」


気づかれてない安堵と気付いてもらえないもどかしさ、と言ったところだろう。ガシガシと乱暴に髪を掻くリドさんに思わずニヤリと笑ってしまう。


「話はアリアさんのことですか?」

「……そういう相談じゃないからその顔はやめてくれ。……大したことじゃないんだ。ただ、この依頼が終わってもアリアと仲良くしてほしいって話で」

「そんなの、わざわざここまで呼んで言わなくても……」

「そうなんだけどよ。あいつの前では言えないしな」


照れたように笑うリドさんにきゅんとしつつも、薬草採取の手は止めない。ちなみにこのきゅんは、恋愛的なものではなく、可愛い動物とか赤ちゃん映像とか見た時と同様である。ようは癒しだ。


「優しいですねえ。アリアさんが良ければ、おこがましいですけどお友達でいたいと思ってます。さて、そろそろ戻りましょうよ。あんまり遅いとシュルトさんに怒られちゃう」

「あの兄ちゃん、すっげえ過保護だもんな……」

「ほんとですよ。私、成人してるのに」

「……いや、あー……うん。そういうことにしておくか……」

「何か言いました?」

「いんや? そうだよなって思ってよ」


絶対に何か言った。


言及しようとリドさんに詰め寄るも、帰るぞーと背中を押され、結局聞くとこができずに二人の元に辿り着いてしまった。


勝手に私を連れて泉に行ったことに、リドさんがこっぴどく叱られたため、その後も何を言ったか聞くことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ