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さて、シュルトさんにお許しをもらえたまではよかった。けれどその後、私が盾に使ってしまった男性が一緒に夕飯を食べようと言いだした。迷惑をかけた手前私たちは断れず、引きずられるようにして酒場に連行された。


「にしても、兄ちゃん達どういう関係だ? 嬢ちゃんは薬師だろ? そんで兄ちゃんはその護衛か?」

「まあそんなところです」

「こんな小さい嬢ちゃんがなー……」


リドと言うらしい男性は、酒樽に似た木製のジョッキを片手に感慨深いと頷いた。わざとではないのだが騙しているようで申し訳なさが募る。


「あの……大変申し訳ないんですが……私、こう見えても……二十歳なんです……」


限界だった。もう、居た堪れなさすぎて。


「あっははは! 面白い冗談だなー!」

「冗談ではないですよ」

「アタシも本人に確認済み」


二人から畳み掛けられ、目の前の私を穴が開くほど見つめる。そして何度も頭を振る。どうやら事実が受け止められないようだ。


「ご、ごめんなさい!」

「いやいやいや! 嬢ちゃんが謝ることじゃないからな!?」


わたわたと慌てだした男性は隣にいるアリアさんに助けを求める。それに気がついたアリアさんは、お酒を煽るのをやめて肩を竦めた。


「ま、信じる信じないはあんたに任せるよ」


それだけ言ってまた飲み始める。なんの助けにもなっていないような気もするが、リドさんにとっては助けだったらしくへらりと笑った。


「それもそうだな。俺にとっては嬢ちゃんって感じだからそれでいいとするか!」


落とし所を見つけてすっきりしたようで、目の前の料理に手を伸ばし始めた。私は一通りつまみ終わったのでいまはちびちびと果実を絞ったジュースを飲んでいる。


これも子供っぽいと言われる要因なんだろうが、この世界のジュースは生搾りで新鮮なためとても美味しいのだ。


「そういや二人は何を採りに来たんだ?」


ふと食べていた手を止め、リドさんが私たちを見る。どうしようかと迷っていると、シュルトさんが先に口を開いた。


「アルルの洞窟に珍しい薬草があるらしく、それを採りに行くところです」

「アルルの洞窟にある珍しい薬草って……。もしかして星の欠片かい?」

「ええ。それです」


ねえ、と同意を求められ、それはもう必死に首を縦に振った。シュルトさんの顔に『話を合わせろ』と書いてあったから。


「ありゃあ見つけるのも大変な代物だろ? それにあそこはAランク級の魔物がうようよしてるって話だ。生きて帰ってこれる保証はないぞ」


リドさんはやめとけ、と首を横に振った。豪快な見た目に反して随分と堅実な人のようだ。


「大丈夫ですよ。秘策はありますから」

「いいじゃないのさ、リド。行くってんだから準備はしてるだろうし」


二人に諭されればリドさんも黙るしかない。ちらちらと心配そうに私を見つつもこれ以上何も言えないらしい。


「リドさん。心配してくださってありがとうございます。でも、大丈夫です。私も一応戦えますし、シュルトさんはとっても強いんですよ」


それでも納得していない顔のリドさんにアリアさんが呆れたように頭を小突くと、こちらに身を乗り出してニヤリと笑う。


「ねえ、アンジェ。 アタシとリド、雇わないかい?」

「え!? お二人を、ですか?」

「そう。こいつが納得いかないみたいだからね。まあ、そういうアタシもあんたが心配なのさ。出会ったばかりで言えたことじゃあないだろうが、妹みたいに思えてきてねえ。なあ、リド?」


同意を求められたリドさんは深く頷いた。私のように脅されたわけでなく本当のようだ。どうしようかと隣のシュルトさんを仰げば、アンジェさんが決めてくださいと放られた。


「私は大歓迎ですが……。いくつか確認したいことがあります。気分を害したらすみません。まず、お二人の冒険者ランクと報酬はいくらお支払いすればいいのか教えてください」

「アタシはBランクさ。リドはCランクってなっちゃいるが、断り続けているだけで本来のレベルはアタシと同等だよ。報酬はそうだね……さっきの一割を二割にしてくれれば充分」


特殊な鉱石を加工してできた冒険者証明証(ギルドカード)をテーブルの上に置き、アリアさん達がそれに触れる。無色透明な長方形のカードが持ち主の魔力に反応してカードが色づき、個人の名前と扱う武器、職種といった個人情報を浮かび上がらせた。


冒険者ランクは色で示され、魔力を流すと冒険者証明証(ギルドカード)が染まる仕組みになっている。ランクの配色はこの世界では小さな子供でも知っているほどの常識なので、カードさえ見せればどのランクかが一発でわかる。ちなみにアリアさんの冒険者証明証(ギルドカード)はBランクを表す赤色、リドさんがCランクを表す青色に染まっている。


「出会ったときは見せそびれてすまなかったね。ここを拠点にしてるからか見せなくてもわかる奴が多くてさ。これで信用してくれるかい?」

「もちろんです。それじゃあ私も。まあ、本職ではないのでDランクです」


私も懐から冒険者証明証(ギルドカード)を取り出す。色は緑で、Dランクであることを示す。私は必要最低限の依頼しかこなしていないので、成り立てのFランクからひとつしか上がっていない。


身を乗り出して私の冒険者証明証(ギルドカード)を覗き込むリドさんがへえと驚いたように声をあげた。


「珍しいな。薬師で短剣を武器にしてるのって。杖使ってる奴が多いからさ」

「まあ、結局薬草とか採取するときは短剣も使うので。それを武器にしてしまえば早いかな、と」


一番の理由は魔法があまり得意ではないことだけどそれは言えない。ヘクセさんはまた特殊だが、歴代の魔女は魔力を込める性質のためか放つことが主な魔法が苦手である。しかし私が偽装として使っている薬師は魔導師に次いで魔法が得意な者が多く、冒険者証明証(ギルドカード)を提示するときにこの手の質問はよくされる。そのために躱す理由もばっちりだ。


「最後は私ですね」


優雅な手つきでシュルトさんは一枚の冒険者証明証(ギルドカード)を取り出した。三桁いた魔物をいとも簡単に倒してしまったようなので、Bランクは確実、恐らくAランクであろうと期待を込めて覗き込めば。


「……は、う……うそだろ……」

「……生まれて初めてみるよ……」

「え……Sランクぅぅぅ!?」


予想外過ぎて素っ頓狂な声が出た。


まさかまさかのSランク。


冒険者証明証(ギルドカード)を縁取る色は金色で、圧倒的な存在感を放っている。使っている鉱石は同じものなのに、高級なものに見えてくるから不思議だ。


「こりゃ驚いたね……。本当にSランクが存在するのかい」


アリアさんが冒険者証明証(ギルドカード)を手に取りひっくり返したり横から見たりと物珍しげに観察し始めた。


冒険者ランクはFからSまであるが、上に行けば行くほど人数は少なくなる。私のようなDランクは山ほどいるが、Bランクになるとその数はDランクのおよそ半分以下でAランクに至っては二桁もいない。そしてSランクなどほぼ都市伝説レベルの存在だ。


なにせ、Sランクとして認められる昇格依頼がえげつない。本来ならば綿密に討伐隊を組んだ上で挑まなければならない上位魔物にたった一人、あるいはパーティーでの討伐が依頼内容なのだ。とても達成できるものではない。


しかしシュルトさんはそれをやり遂げているのである。魔物の三桁なんて朝飯前のはずだ。Sランク討伐指定の魔物はあれが四桁いても足元にさえ届かないのだから。


「三年ほど前に昇格したので、今では少しだけ手こずりますが……。アルルの洞窟くらいならば、なんとかなります」

「……もしかして、あの時の魔物って……」


呟きが聞こえたのか、シュルトさんは私に微笑みかけた。それは無言の圧力であると同時に肯定でもある。理解してしまった真実は心の内だけに留めておくことにした。幸い二人には聞こえていないことだし。


「少し話は変わりますが、報酬のお話でさきほどの一割を二割にするとはどういうことでしょうか?」


Sランクの話を聞きたい。顔にそう書いてある二人の先手を打つようにシュルトさんが話題をずらした。そこで二人も今ではないと思い出したのだろう、アリアさんが咳払いをして場を切り替えた。


「ここに着く前に黒宝豚に出くわしてね。その時アンジェが倒した黒宝豚からどでかい黒真珠を落としたのさ」


声を潜めたのは周りに聞こえないようにだろう。店内には他の冒険者もおり、あわよくば情報を盗み聞きしようと何気ないふりで聞き耳を立てているのだ。


シュルトさんのSランクの話の時も、騒がしい店内では気にも留めないような音量で話していたはずなのに、冒険者達は皆一様に反応は示していた。もちろん大袈裟ではなく密かに、だが。


「そしてそれを換金した一割をお礼でくれるって話だったわけ」

「黒真珠の換金額が主に金貨一枚だろ? その一割だから……銅貨一枚?」

「多分、銀貨一枚だと……」

「リド……あんた馬鹿だねえ。ちなみに二割だから銀貨二枚。あんたとアタシで銀貨一枚ずつだよ」

「アリアが異常なんだからな!? 平民は乗除なんて高等数術知らないぞ!」

「なに言ってんのさ。アタシの年齢を考えれば加減乗除くらい会得できてておかしくないだろうに」


今思い出したような顔をしたリドさんは閉口する。貴族でさえ覚えている者が少ない乗除を少なくとも四人中二人ができる事実に、リドさんの中で乗除の価値観が揺らいでるようだ。


「ちなみに乗除なら私もできますよ」


シュルトさんがとどめの一言をリドさんに突き刺し、彼は遂に机に突っ伏して俺が馬鹿なの、と呟きだした。


リドさんの名誉のために言っておくと、彼は下手な商人よりも賢い。そもそも一割という単語自体知っている方が異常なのだ。きっと十人の商人に一割引いてと伝えても理解できる商人は三人にも満たない。そんな中で計算は違えど単語の意味が分かっているリドさんは十分すごいのだ。


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