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私の中におっさん(魔王)がいる。  作者: 月村伊織
第一部
6/111

異世界でした。

書き直しました。

 私は俯いたまま、頭を上げられなかった。きっと私の顔は今、青ざめてる。

 鞄をぎゅっと握り締めた。

 握り締めたってなにが変わるわけじゃないけど、今は、私の世界の物はたったこれだけだ。

 ただ自分の世界の物に触れていたかった。


「嬢ちゃん、とりあえず屋敷に帰ろう。でなきゃ落ち着いて話も出来ねぇよ、な?」


 花野井さんが優しく言いながら、私の肩に触れた。


「……はい」


 頷くしかなかった。



 * * *



 先を急ぐということで、私は花野井さんにおんぶされることになった。

 急ぐにしたって、早足とか走るとか出来るのになんでおんぶされなきゃならないんだろうと不満に思ったけど、なんだかみんながぴりぴりしてる気がして、口に出せなかった。


 花野井さんの背中は広くて、大きくて、たくましい。

 緊張から、胸の高鳴りを押さえられなかった。

 男性におんぶされたことなんてないもん。


 ドキドキしながら、背中に密着する。だけど、不思議と胸の中心と背中がくっついた途端すごく落ち着いた。

 人の体温って、心地が良い。


「出発するぞぉ!」

「あ、はい」


 私が返事を返したと同時に、花野井さんは急加速した。


「えっ――キャアアア!」


 ぐんっと体が後ろへ引っ張られる。風圧が私をふるい落とそうと猛スピードでぶつかってくる。


(うそでしょ! 軽く五十キロは出てるよ!?)


 私は必死に花野井さんにしがみついた。


(なんなの!? とても人間業とは思えない! こんな人間いるはずないっ! やっぱり、ここは私の世界とは別の世界なんだぁあ!)


「おっ! 嬢ちゃん積極的だな! 背中に意識集中しちまうぜ」


(こんな時にセクハラかっ!)


 背中の密着を剥がそうにも、そんなことをすれば即座に振り落とされる。だけど、文句を言おうにも、口を開くだけで舌を噛みそうになって口も開けない。

 

(もうイヤァ! 吐く……吐くぅうっ!)


「おい、体力馬鹿。小娘が死にそうだぞ」

「え!?」


 何故か並走していた毛利さんが私のグロッキーに気づいたおかげで、私は花野井さんから降ろされた。



 * * *



「うえぇえ――おえっ!」


(最悪だ。よりによって、人前で吐くなんて……! 恥ずかしい! 死にたいっ!)


 大丈夫か? すまねぇなと背中を擦ってくれる花野井さんには申しわけないけど、毛利さんみたく離れていてくれるほうがありがたいわ。


(口周りを拭きたいけど、ティッシュもハンカチも鞄に入れてなかったんだよなぁ……。え~いっ! もう! セーターの裾で拭いちゃえ!)


 ごしごしと拭くと、紺色のセーターに薄黄色の液体がついた。

(なんか、すっごい惨めな気分……)


「もう大丈夫です。すみません」


 花野井さんにぺこりと頭を下げると、花野井さんは申し訳なさそうに眉根を寄せた。

 そこに、遅れて風間さん、雪村くん、クロちゃんが走ってきた。

 ちらりと、風間さんが私を一瞥した。


「もうすぐ屋敷につきますから、私が谷中様をお連れしましょう」

「えっ、で、でも私――」


 吐いちゃって汚いから――言い終わる前に、風間さんは私の脇の下に腕を入れた。そして、抱き上げられる。

 これって、お姫様抱っこ――急に恥ずかしくなって、顔の温度が急上昇するのがわかった。

風間さんがくすっと笑った。


(ううっ! 笑われた。変な子と思われたかな……)


「可愛らしいですね。谷中様」

「へ!? あ、いやその……え!?」


 可愛いなんて、男子に言われたことないよ!

 まあ、百パーセントお世辞なんだろうけど。沢辺さんみたいな子にならともかく、私に可愛いなんてねぇ……。でも、嬉しいものは嬉しいんだなー!


 うきうき気分で少し顔を上げると、すぐそばに美しい顔がある。風間さんがにこっと微笑んだ。


(うっわああ!)


 頬が一気に紅潮する。

 やっぱ、恥ずかしいから下ろして欲しいっ! こんなにきれいな顔をこんな間近で見たらヤバイよ! 申し訳ないよっ!


「ちょっと待て、風間。俺が彼女を連れて行こう!」


 雪村くんがびしっと挙手しながら、スタスタと近づいてきた。


「しかし、雪村様――」

「良いから良いから!」

「きゃ!」


 どこか心配そうな風間さんを遮り、雪村くんは私を強引に下ろした。お姫様抱っこをする前に、雪村くんに腰をつかまれて宙に足が浮く。

 胸が彼の胸板にくっついた。


「ブフォ――!」

「えっ!」


 突然、雪村くんが鼻血を吹きだして倒れこんだ。私もそのまま雪村くんに引っ張られて、一緒に倒れこむ。


「きゃあ! ――痛ぁ!」


雪村くんの上で起き上がると、彼は両鼻から鼻血をたらして白目をむいてた。


「大丈夫!?」

「だから言ったんですよ。雪村様」


 心配する私をよそに、風間さんは呆れたように言って、雪村くんを背負った。


「大丈夫ですよ。気絶しただけですから」


 風間さんはやんわりと笑った。


「あ~あ……めんどう増やしちゃって、これだから坊ちゃんはさ!」


 思い切り嫌味を言ったクロちゃんは、呆れ果てたように雪村くんを見ていた。


(気絶って、もしかして私、そんなに臭ったのかな?)


 汚物がついた袖口をくんっとかぐと、


「うえっ。すっぱい!」


(ごめんね、雪村くん)


 私は風間さんの背中で項垂れる雪村くんに手をあわせた。でも、なんか幸せそうな顔に見えるのはなんでだろう?



 * * *



 結局私は、走らないという条件つきの花野井さんにおんぶされて森を出た。

 お礼を言うと、花野井さんはにかっと笑って、俺も悪かったなぁと私の頭をまたぐしゃぐしゃと撫でた。

 本当、明るくて太陽みたいに笑う人だなぁ。アニキって呼び方がやっぱり一番しっくりしそう。

 私は歩き始めた花野井さんの大きな背中を見つめた。

(よし! やっぱり勝手にアニキって呼ぼう! 心の中だけだけど!)


 * * *


 森を抜けて坂道を上って行くと青色の門があった。私が通った門だ。私はてっきりその門を通って屋敷に戻るんだと思ったのに、彼らは迂回しようとした。

 

「あの、入らないんですか?」


 私が門を指差して聞くと、風間さんが後ろから答えてくれた。


「青龍の門は結界が一部破られてしまったので、先程雪村様が簡易の結界を張りました。簡易のものは通り抜けが出来ないため、そこから入るには簡易結界を破らなければならないのです」

「結界、ですか」


 この世界にはそんなものもあるんだ。でも、まだ異世界だなんて実感が湧かない。結界の話を聞いても、ちょっと疑っちゃう自分もいる。


「それにしても、やはり貴女には屋敷が見えるのですね」

「え?」

 私は塀の中に視線を移す。庭の木の葉がちらほら覗き、奥にある屋敷の瓦が僅かに見えた。普通に、見えるけどな。

「この青龍の門の結界を破ったのも谷中様なんですよ」

「……私、ですか?」


 そんな覚えないけど……。

 怪訝に風間さんを仰ぎ見たけど、風間さんは微笑んだだけで、何も答えてくれなかった。



 * * *



 そのまま迂回して、赤い色で塗られた門の前までやってきた。門はくすんだ赤い色で、柱には鳥の彫刻がほどこされていた。

 閉じられた門と塀の先には屋敷の屋根も見えなかったけど、庭木の赤い葉が覗いていた。

 

「雪村様、お願い致します」

「ふえ? えっなに?」


 風間さんが自分の背中を揺らして雪村くんを起こした。


「お願いします。雪村様」


 風間さんは少し強く言って、雪村くんを下ろす。


「え……え~と、なに?」

「結界です」

「ああ、はいはい。結界か!」


 雪村くんってちょっとにぶいのかな?

 不意に、私の隣でイラついた気配を感じた。ちらりと横目で見ると、クロちゃんが軽く

舌打ちした。

 私は苦笑しながら前に向き直る。

 クロちゃんって、見た目と違って短気っぽそう。まあ、フード被っててあんまり顔も良くわかんないけど。


 雪村くんはレザージャケットについていた前ポケットから札を取り出した。その紙には文字が書いてあって、まるで呪符みたい。

 その紙を人差し指と中指の間に挟んだ。


一時解除許可イリョカ

(――え?)

 

 雪村くんが言葉を発した瞬間、私の耳におかしなことが起こった。

一時解除許可いちじかいじょきょか』と『イリョカ』という、二つの言葉が同時に聞こえた。


『イリョカ』は雪村くんの声で『一時解除許可』は、誰か、別人の声で……。

その声は、低く、渋い声だった。

(気のせいだよね)


 胸騒ぎがしたけど、私は首を振ってそれを払った。そのとき、何故か門がぼやけだした。その〝ぼやけ〟が門と塀と空の一部を覆う。

 まるで、巨大なシャボン玉にでも包まれていたみたい。

 

 門を覆っていたぼやけはものの数秒で晴れた。その途端、門の色が鮮やかに見え出した。

 さっきまでくすんでた門の赤色が、鮮明になる。

(なんで? 結界がなくなったから?)

 呆然としている私に、毛利さんが門を潜りながら声をかけた。


「早く入れ」

「あ、はい」


 私は気のない返事を返して門を潜った。

 潜り終えると同時に、シュン! と微かに音がして、門はまたくすんだ色へと変わった。



 * * *



 中に入ると、すぐに屋敷があるというわけではなかった。一面に広い芝生が広がっている。でも、少し様子がおかしい。


 庭木が風にあおられて折れたようになってたり、芝生が毟り取られたような状態だったり、芝の上に土や砂が被さったりしている。

 まるで、竜巻の被害にでも遭ったみたいだった。


「覚えておいでですか?」

「え?」

「昨夜、谷中様が降り立った場所ですよ」

「……えっ、私が!?」


 驚きながら風間さんを見上げると、風間さんは、「ええ」と頷いた。


「結界が張ってあったので、この程度で済んだようですね。そうでなかったら、跡形もなく屋敷は吹っ飛んでいたでしょう」

「そうなんですか……。それは、なんか、すいません」

「いえ。お気になさらないでください! そんなつもりで言ったわけではないので」


 風間さんは少し慌てた風に手を振った。

 私は一応、ぺこりと頭を下げる。

 全然覚えてないんだけど、人様の物を破壊したっていうのはいけないもんね。


「谷中様のせいではありません。それに、被害を食い止めたのはひとえに雪村様のおかげですから。――ですから、あまり主にきつくあたらないでいただきたいのですよ。黒田様」

「え?」


 私は前を歩くクロちゃんを見た。クロちゃんは振り返って、皮肉たっぷりに笑う。


「風間さんってほ~んと、過保護なんだねぇ。でもさ、それは本人次第だよ。ぼくは本当のことしか言わないからねぇ」


 風間さんはあいかわらず柔和な笑顔だし、クロちゃんもにっこり笑ってる――んだけど、なんかすごくピリピリとしてる。


「あ~あの! 風間さん、主ってなんですか?」


 私は無理矢理話題を変えた。

 風間さんはクロちゃんから目線を逸らして、私に向けた。


「主とは、仕える者のことです。私は雪村様に仕えております」

「ってことは、執事みたいなことですか?」

「ええ。執事ですよ」

「えっ! 本当に執事だったんですか!」

「はい」


 風間さんは不思議そうに小首を傾げた。


(執事なんてはじめて見たよ! イギリスにしかいないもんだと思ってた! コスプレじゃなかったんだぁ……)


 私は少し後ろを歩く風間さんを横目でちらちらと見てしまう。

 たしかに見た目も言動も執事って感じ。

 そんな風にしているうちに、屋敷の玄関まで来ていた。


 玄関の扉は大きくて立派だった。木材の扉に赤みをおびた綺麗なガラスのようなものが数枚、装飾として埋め込まれている。

 緑や青、赤、黄色といった色のついたガラス球のような物もはめ込まれていた。


 玄関の扉を花野井さん――こと、アニキが開けて、私達は屋敷の中へと入った。迎え入れてくれた玄関の土間は広々としていて、物が何も置かれてなかった。

 靴箱もない。

 

 その先には、長い廊下が続いていた。

 私は、彼らの、主に風間さんの案内するままに廊下を進んだ。


「ここで良いでしょう」


 そう静かに告げて、風間さんの足は止まった。

 障子を開けると、その部屋は十畳程度の和室だった。あいかわらず照明器具も家具もない。

 部屋に入った私達は、自然と輪になるように座った。

 風間さんはジャケットの内ポケットから、雪村くんが出したような紙を取り出した。さっきの紙よりも茶色っぽく、書いてある文字も違うみたい。


「フッ!」


 風間さんが気合を入れると、紙が滲むようにして消えていき、それと同時に巻物が現れた。

 その巻物を私の目の前に広げる。

 

「世界地図になります」

(すっごーい! 手品みたい! この世界の人って、こんなことまで出来るの!?)

 感動してたら、アニキが私にそっと耳打ちした。


「物体を別の場所に飛ばせるのは『空間把握・操作能力』保有の三条家の人間だけだからな。いわゆる、結界師だ」

「へえ……そうなんですね」


 小さく呟いて頷く。

 あれ? でも、三条家の人間にしか出来ない――ということは、たしか雪村くんが三条って名字だったはずだから、風間さんと雪村くんって血縁者ってこと? 全然似てないけど……。それに二人って主従関係なんだよね?


 私は二人を交互に見た。

 風間さんは柔和でいてしっかりした人って感じ。雪村くんはのほほ~んと暢気な顔をしている。似てるのは目の色くらいで、顔立ちも性格も全然違う。どっちもイケメンって点では一緒だけど。


「地図、ご覧になられないのですか?」

「あ、すみません!」


 風間さんに困ったように促されて、私は慌てて地図に視線を移した。

陸の大きさ、広さなんかはわからないけど、私の世界よりも国が少ない。全部で九ヶ国しかない。


それに、私の知っている世界地図とはだいぶ違う。まるで、龍のような形をしていた。日本の地形にかなり近い。日本は龍が身体をそらせているような形だけど、こちらは逆に少し丸まっているような形だ。


 怠輪という国が龍の頭のような形をしていて、ちょうど眼の位置に陸がないのかぽっかりと空いていて、眼があるように見える。これは海なのかもしれないし、琵琶湖のような湖なのかも知れない。


 怠輪たいわに続く陸はなく、隣国の千葉せんようとの間には海が隔たっていた。なんか、怠輪は北海道みたいだ。


 千葉せんようらん岐附ぎふという国が、ちょうど龍の背のような形で陸続きになっている。

 地図で見た感じだと、三ヶ国とも大国みたい。

  

 岐附と功歩こうふの間に海あって、岐附と功附を結ぶように美章びしょうという半島があった。美章国は龍の手の位置にあって、少し飛び出ているので、本当に龍の手みたいだ。

 見ようによっては、大国に挟まれた小国のようにも見える。

 実際に地図上では岐附や功歩に比べて小さい。


 私達が今いる国が、倭和やまとだから……。つらつらと見て行くと、倭和国は、岐附と美章から離れた位置にあり、周りを海に囲まれている。ここは、島国なんだ。

 地形が歪な丸い形だから、なんとなく龍の玉のようにも見える。国の面積は一番小さい。


 功歩と陸続きなのが、べいという国だ。

 地図で見る限りは、功附よりも少しだけ大きそうだった。


 瞑と離れて、海を渡るとえいという国がある。

 龍の尻尾のような形だけど、国自体は岐附や爛と変わりない大きさに見える。大きさは違うけど、位置関係的に日本に置き換えるなら、沖縄の位置って感じ。


「あの、この世界の名前はなんて言うんですか?」

「……世界に名などあるのか?」


 気軽に聞いたら、毛利さんに怪訝に返されてしまった。(もちろん毛利さんは無表情だったけど、そんな感じがしたのよね)

 たしかに、私も自分の世界の名前聞かれても答えられないもんな。日本ですって国名答えちゃうと思うもん。


 本当に違う世界に来ちゃったんだなぁ……。瞑とか、永とか、倭和国とか、全然知らない国名ばっかり。だけど、意外だな。オーストラリアとか、アメリカとかカタカナの国名はないんだ。

(ん? カタカナ?)

 ちょっと待って。私、なんで文字読めてるの? 言葉だって通じてるし……変じゃない?


「あの、私、本当に違う世界からやってきたんでしょうか?」

「何故ですか?」


 風間さんが怪訝に訊きかえす。


「私、文字が読めるんです。それに言葉だって通じてるし」


 国が違えば言葉だって当然違う。違う世界ならなおのことだ。


「それは、おそらく魔王のせいかと思われます」

「魔王?」

「白い空間で会ったという鎧姿の男性が、貴女とぶつかり消えたんですよね?」

「はい」

「おそらくその男性を魔王が吸収し、男性の知識を魔王を取り込んだ貴女が無意識に使っているのでしょう」


 その言葉を聞いて、私の脳裏にさっきのことが浮かんだ。門の前で聞こえた低い男の人の声。気のせいだと思ったけどあれが、あの人の……魔王の声なんだ。

 なんか、気味が悪い。

 自分の中に得体の知れないものがあると思うと、無性に気持ちが悪かった。

 しかも、鎧のおじさんを吸収したというってことは、私の中にあの人がいるってことだ。

 あの、死体のおじさんが……。


「うっ!」


 急にめまいが襲ってきて、私は咄嗟に畳に両手をつく。


「大丈夫ですか!?」

「……大丈夫です」


 声を上げた風間さんに私は短く返した。

 顔を上げると、すぐそばに心配そうな顔つきの雪村くんとアニキの顔があった。


「一気に色んなことがあって、疲れたんだろ」


 優しい声音で言って、アニキは肩に手を回し、そのまま私を抱き上げた。大きなてのひらにちょっとだけどきどきする。


「もう寝ろ。あとで飯持って行く」


 アニキは少しぶっきらぼうに言って、優しい眼差しを向けてくれた。

 本当にお兄ちゃんみたいな人だなぁ……。


「ありが――」


 お礼を言おうとしたとき――ぐぎゅるるる。私のお腹の虫が、これでもかと高らかに鳴った。

(うわああ! なんで鳴っちゃうの! 恥ずかしい!)

 熱い頬を両手で覆う。


「ハッハッハッハ! 飯が先だな!」

「……お願いします」

「おう!」


 快活に返事をしたアニキは、廊下をダッカダッカと豪快に歩いた。私もそのリズムに合わせて微振動する。

 私はアニキを見上げた。豪快で、がさつで、見た感じ少し怖いけど、でも、アニキがいてくれて本当によかった。なんだかこの人がいると、すごく安心する。

 密かにほっと息をついて、ふと足先を見ると、雪村くんが隣を歩いていた。

 心配そうな顔つきで、私を見てる。心配してついてきてくれたんだ。


「ありがとう」


 私がお礼を言うと、雪村くんは意外そうに驚いて、次の瞬間何故か泣き出しそうになった。


「いや、俺達の方こそ、ごめんな」


 そう一言告げて、俯いてしまった。

 聞けば私がこの世界へ来たのは事故のようなものだったらしいし、責任を感じているのかも知れない。


「気にしないで」


 私が笑うと、雪村くんは顔を上げて申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 そんなに、気にしなくて良いのに。故意じゃないんだから。




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