附都城
書き直しました。
あの後、私達はすぐに旅立った。
最終的に鉄次さんは私の中に魔王がいるって信じてくれたけど、亮さんは信じてくれたかどうか分からない。
ただ、確実に、私は亮さんに嫌われていると言うことだけは、はっきりした。旅立って六日。亮さんは、ずっと私を睨んだり、険のある目で見たりする。
騎乗翼竜に乗ってる時も、食事の時も。目が合うたびに、「なんだコラ! やんのかワレ!」という目つきで見てくる。
気まずくっても、何とか仲良くなろうと、休憩の時に話しかけようとしたら、舌打ちされたし!
ひどい。ひどすぎる! 私、なんかした!? と、泣き叫びだしそうになる度に、アニキと鉄次さんがフォローしてくれたけど、その度に、亮さんは舌打ちをしてきた。
ホント、なんなんだろう。この人!
憤慨する気持ちと、傷心が私の中で爆発する前に、私達は目的の地、附都へと辿り着いた。
* * *
附都は、華やかだった。
時代劇で見るような江戸の町並みの中に、そこかしこに石造りの家が並んでいる。人通りも多く、全体的に活気がある。
町の入り口に関所があったけど、ほぼ素通りだった。
長蛇の列が出来ているのにも拘らず、三人はすたすたと歩いて行き、先頭の関所の前にいた番兵に何かを見せると、すぐに通してくれた。
割り込んだみたいで並んでいた人達には申し訳なかったけど、私も三人に続いて関所を通った。
街を見渡していると、ふとあることに気がついた。
ドラゴンを連れて歩いている人が、私達以外にいない。
(なんでだろう?)
でも、そういうものなのかな。
私は街を見回しながら、前を歩くアニキに声をかけた。
「どこに向かってるんですか?」
「とりあえす城だ。報告しなくちゃいけねぇからな」
振り返って、アニキは笑む。
私はお城の方向に目を向けた。
お城は街の中心にあって、地面を高くしてあるので、街の外れからでもよく見える。どうやら日本風の形のお城だけど、石壁と木材で造られているみたいだ。
「お城って、私も行って良いんですか?」
「お前が行かないでどうするんだよ。魔王なんだろ。見えないけどな」
「こーら! 亮!」
「……ふん!」
素朴な疑問をぶつけただけなのに、亮さんは攻め立てるように早口で、しかもぼそぼそと小声で文句を呟いた。
鉄次さんが叱ってくれたけど、亮さんは鼻を鳴らしてそっぽ向く。
本当に、何が気に入らないんだろう。
アニキって呼ぶことだったとしても、それはアニキが許可してくれたわけだし、私とアニキの間のことなんだから、亮さんに関係ないじゃない。っていうか、この人はそれ以前に私のことが気に食わないように思える。
だって、初対面から睨まれてたしね!
私がムッとしていると、アニキがそっと隣に来て顔を近づけて小声で耳打ちした。
「すまねぇな。あいつもあいつで、色々あんだよ。少しの間勘弁してやってくれ」
アニキが謝ってくれることじゃないと思うんだけど。
でも、心遣いが嬉しいから、ま、大目に見てやろう。
きっとこの先、そんなに顔を合わせることないだろうし。っていうか、そうあってくれなきゃ、私が困る!
* * *
お城の門はさすがに立派で、門の柱は石柱だった。門の前にいた番兵は、日本風と中国風を合わせたような鎧を着て、槍を持って立っている。
門を潜るときはすごく緊張したけど、アニキ達と一緒だからか、通る時に番兵が敬礼をしていた以外は、ほぼ素通りだった。
芝の生えた庭を少し歩くと、本殿へと続く階段があった。
その脇には、大きなお屋敷がある。もちろん石壁に瓦屋根の屋敷だった。
「そこは三関の御家よ」
何気なく見ていた私に、鉄次さんがそう教えてくれた。
「三関……っていうと、将軍の次の位の人ですね」
「そうよ。よく知ってるわね」
「倭和にいた時に教えてもらったので」
「そう。ほら、あそこにお屋敷が見えるでしょ」
鉄次さんが指を指した方向を見ると、階段を上がり切った先に、大きな門構えのある、お屋敷が見えた。
三関のお屋敷よりも大きい。
「あそこが花野井将軍の御宅よ」
「すごい! っていうか、軍人さんって、お城に住んでるものなんですね」
私が感動していると、後方から鼻を鳴らした音が聞こえた。
小馬鹿にしたような音。アニキは先を歩いてるし、鉄次さんは私の横だ。ってことは、やっぱり……。
(気にしない、気にしない。無視しよう!)
「岐附ではそうよ。爛や千葉でもそうだけど、他の国ではちょっと違うみたいね。普通は、三関はお城の近くに住むものなんだけど、岐附は今は将軍が少ないからね。三関も城に置いてるのよ」
「へえ。もしかして、先の大戦で将軍の方が亡くなられたと月鵬さんにお聞きしましたけど、それでですか?」
私が質問した瞬間、場にぴりっとした緊張が走ったのが分かった。
鉄次さんが、ちらりとアニキを盗み見て、振り返らないように視線を後ろに送った。
(あれ……私、何かまずいこと訊いたのかな?)
窺うように鉄次さんを見ると、鉄次さんは苦笑を漏らした。
そういえば、月鵬さんもこの話の時にすごく哀しげな目をしてた。月鵬さんの知り合いかもと思ってそれ以上聞けなかったんだよね。みんなも知ってる人だったのかも知れない。
(悪いこと訊いちゃったかなぁ?)
「……そうね。確かに亡くなった方はいたけど。でも、ちょっと違うわ」
「え?」
「将軍はね、大戦の前に減らされたのよ。現在の王様によってね。まあ、それが結果的に良かったのかどうかと言ったら――」
「おい。カマ。喋りすぎだぞ」
亮さんはさっきまでの突っ込み的な感じじゃなくて、真剣な口調で鉄次さんを止めた。振り返ると、亮さんは眼鏡を押し込み、鋭い眼差しで鉄次さんを睨んでいる。
「は~い。悪かったわよ。黙ります!」
ふざけた調子で言う鉄次さんだけど、どこか、しくじったというような焦心が窺えた。
(やっぱり、身内の死ということで、色々な感情があるんだろうな)
私は気まずさから、深く聞くことはしなかった。
* * *
――つ、疲れた。
息を切らしながら階段を上がりきると、大きな門が私達を出迎えた。門は開かれており、その先に、アニキの屋敷へと続く緩い下り坂が伸びている。
門を潜って右手側に、本殿へと続く上り坂が真っ直ぐに伸びていた。
石柱には、薄緑色の石柱にはドラゴンの姿が彫られていた。翼を持たない地竜のようで、目玉が十字になっている。ヤモリみたいな目だ。
前脚が長く、後ろ足が短い。首はひょろっとしているけど、長いわけではない。私がじっと石柱を見ていると、「珍しい?」と、鉄次さんが声をかけてきた。
「はい。見たことないドラゴンですね。まあ、ドラゴン自体あんまり見たことないですけど」
私が苦笑すると、鉄次さんが指を前に突き出して弾むように語った。
「これはね、国竜なのよ」
「国竜?」
「そ! 岐附のシンボルとされるドラゴンよ。守宮竜と言って、前脚に体重をかけて走るの。物凄く速いのよ。多分世界一ね!」
「へえ! 世界一! すごいですね!」
「まあ、あたしドラゴンにそんなに詳しくないから、多分だけどね」
鉄次さんは困惑したように笑って(多分、私が予想以上に感動したからだろうけど)話を続けた。
「でも、残念なことに滅多にお目にはかかれないわね」
「そうなんですか、それは残念です」
「そうよねぇ。運良く見つけても、警戒心が強くてあっという間に走って逃げちゃうそうよ。でも、そんなに体は大きくないんですって」
「へえ、どれくらいですか?」
「そうねぇ。案外小さいとしか聞いてないけど、多分一メートルないくらいじゃないかしら」
考え込むように顎に手を当てて、鉄次さんは顔を上げた。
私は「そうなんだ」と頷く。
今まで大きめなドラゴンにしかあったことがないから、一メートルないと聞くと、小さいような気がしちゃう。
鉄次さんは歩きながら、
「大概の国ではその国を代表するドラゴンがいてね。そのドラゴンの姿を象ったエンブレムが将軍に渡されるの」
「じゃあ、アニキは持ってるってことですね」
「そうよ! ちなみに、この坂道を上ったところには、王家のエンブレムが彫られているのよ」
楽しみにしてね! と、鉄次さんはウィンクした。
(きっと、王家なんだから神々しい龍か、かっこいいドラゴンなんだろうなぁ!)
私はわくわくしながら歩き出した。
* * *
本殿前の門の石柱は、どの石柱、どの門よりも立派だった。木枠と鉄のアーチ状の門。本殿を取り囲む鉄製の柵。
純白の柱には、梟の彫り物が施されている。
門前には番兵が二人、威厳をかもし出して立っていた。
「ドラゴンじゃなくて、梟なんですか? 王家のエンブレムって」
がっかりしながら指差すと、アニキが振り返り、鉄次さんが微苦笑した。けど、答えてくれたのはこのどちらでもない。
「ドラゴンのわけがないだろ。なんで王家のエンブレムが、ありふれたドラゴンであるんだ。ヨルムンガンドとかならまだしも」
非難するように、早口で捲くし立てたのはやっぱりこの人。亮さんだ。
「亮。もうちょっと言い方ってもんがあるだろ」
「そうよ! アンタはなんでそう喧嘩腰なの!」
「ふん!」
アニキが注意し、鉄次さんが亮さんを責めると、亮さんは不満そうに鼻を鳴らした。
「あの、どういう意味なんでしょうか?」
「は?」
私が亮さんに恐る恐る質問すると、亮さんはちょっと驚きながら聞き返した。私が話しかけるとは思ってなかったみたい。
「えっと、さっきの言い方だと、梟の方が偉いっていうか、珍しいっていうか、そんな感じがしたので……」
「伝説上の生き物だ。珍しいに決まってる」
「伝説なんですか? ……梟が?」
「そんな事も知らないのか」
目をぱちくりさせる私に、亮さんは呆れた視線を送った。
「だから、彼女は異世界からきたんだって説明しただろ?」
アニキが少しイラついたように亮さんを見る。
「それは聞きました。だけど、異世界からきたんならなんで言葉が分かるんです? おかしいじゃないですか」
「だから、それは魔王がいるからなんだって」
「そうよ。けんちゃんが言ってたでしょ。本当にこの子は、疑り深いんだから!」
説明する二人を横に、亮さんは、胡乱な瞳を私に向けた。
そんな目で見られたって、私だって魔王のことなんて説明できないし、異世界から来たって証明も、証拠もどこにもない。
スマホも鞄も全部焼かれちゃったんだから。
それに、どうせこういう人には、私が居た世界の話をしても、空想で片付けられてしまうんだ。
このまま無視して関わりたくない。でも、だけど、悔しい。ちょっとくらい抵抗したい。ぎゃふんと言わせてやりたいっ!
「私の世界では、梟は普通に居ましたよ」
「へえ、じゃあ、どんなだ?」
「えっと、ちゃ、茶色かったり、白かったりとか……」
「は~ん」
「うっ……! えっと、えっと、ミミズ食べたりとか!」
「伝説上の動物に詳しい奴ならそれくらい普通に知ってる」
「えっと……えっと」
「知らないなら黙ってろ。浅い知識をひけらかすほど、恥ずかしいことはないと思うけどな」
「うっ……!」
(完敗だああ……!)
だって、梟のことなんて、姿形くらいしか知らないもん!
だからって、だからって、そんな言い草はないじゃない! 悔しい! メッチャ悔しい! もう、亮さんなんて、大嫌いだっ!
「りょ~う。そんなにコイツに当たるなよ」
窘めるように、アニキが亮さんの肩に手を置くと、亮さんはその手を勢いよく払いのけた。
「俺は、貴方にも怒ってるんですよ」
眼鏡を軽く上げて、アニキを睨んだ。
気まずい雰囲気が流れて、アニキが苦笑して踵を返す。その後を鉄次さんが、亮さんを促しながら追った。
私はびっくりして、口が開いたままになってしまった。
(仲が良いと思っていたのに……)
いや、もしかしたら、仲が良いからこそなにかあるのかも知れないけど……。
さっきのアニキの苦笑は、どこか悲しげで、思い出したら、私までなんだか寂しくなった。
** *
本殿に入ると、すぐに広い廊下が広がっていた。
外観は日本のお城に似ているので、履物を脱いだりするのかと思ったけど、そこは、石壁に瓦屋根の屋敷と同じく、脱がないで良かった。
廊下が大理石のような、つるつるとした石で出来ているのに、内壁は木材で出来ていて、木の良い匂いが漂ってくる。
日本のお屋敷と、洋館を合わせたような感じで、なんだか馴染みがなくて、変な感じがする。
そこに、待ってましたと言わんばかりに、数人の男性が早足でやってきた。全員平安時代の貴族みたいな和服の上に、やっぱり派手目な着物を羽織っていた。
そして、全員烏帽子を被っている。と言っても、とんがっている烏帽子じゃなくて、コンパクトな感じ。
先が少し折れ曲がってるから、風折烏帽子というやつかも知れない。
その内の一人がとことこと近寄ってきて、アニキに向って会釈した。顎鬚を長細く生やした男で、全体的にほっそりとしていた。男は中年か、初老か、それくらいの年齢に見える。
「お待ちしておりました。花野井殿」
「伝書はちゃんと届いたみたいだな」
「もちろんでございます。それで、魔王はどちらに?」
「まあ、それは後でな」
「さようでございますか。やはり、謁見してからでございますな。いやはや、気が急いてしまいましてなぁ。魔王などとは、お伽話でしたが故」
お伽話……やっぱ、そんなレベルなんだ。
私の中に、そのお伽話が存在してるって、なんか複雑。
「さあさ、では謁見の間へ急ぎましょう」
男はそう言って、アニキ達を廊下の奥へと促した。
そこで初めて私に気がついたのか、私と目が合うとあからさまに、コイツ誰だ? と、訝る目をしていた。
場違いなのは、自分でもよく分かってる。
私は少し居た堪れない気持ちになりながら、アニキ達の後ろからついて行った。
* * *
謁見の間の扉は、驚くほど豪華だった。
黒色の石で出来た扉に、煌びやかな屏風を貼り付けたようで、とてもキレイだ。
「入れ」
中にいる誰かのくぐもった声と共に、扉は開かれた。石でてきているなて微塵も感じさせないくらいに、スムーズに開いて行く。
一気に緊張が走る。
(これから、王様に会うんだ)
元の世界では、一生会うことなんてなかった存在。そう思うと胸がドキドキする。緊張と同時に、少しだけわくわくしてしまう。
アニキ達が歩き出すのを見届けて、それに続いて扉の向こうに一歩踏み出した。
白く澄んだ廊下を十メートルほど歩く。
映画とかだと、謁見の間と言うと、大臣とかがたくさんいるから、たくさんの人が待っているものだと思っていたけど、見る限りじゃ誰もいない。
強いて言えば、私の後ろからついてくる先程の線の細い男の一派だけだ。
私の意識が後ろに向いている途中で、アニキ達が急に立ち止まった。思わずぶつかりそうになって、足に急ブレーキをかける。
前につんのめりそうになったけど、アニキにぶつかることなく止まれた。
(どうして止まったんだろ?)
アニキ達は背が高いので、私からは前に何があるのか見えない。彼らの隙間から、首を伸ばして先を見ようとした、次の瞬間、いきなり視界が開けた。
目の前には数段だけの短い階段。その上にある豪華な椅子の上に誰かが座ってる。瞳に曇りがなく、きりっとした眼差しが高潔な印象を与えた。
思わずその人に魅入ってしまう。だけど、私には到底、この人が王様だとは思えなかった。だって、その人は十歳かそこらの少年だったんだから。
「オホン!」
咳払いが聞こえて、私は我に帰った。慌てて振向くと線の細い男が跪きながら、咎める目つきで私を見ていた。
はっとして、辺りを見回すと、アニキ達は跪いていた。私も急いで跪く。
(こういうことは、教えておいて欲しいよ! どのタイミングで跪くとか知らないんだから!)
私は顔を真っ赤にしながら、密かに目の前のアニキ達を睨んだ。
「面を上げよ」
透き通るような声がして、顔を上げる。
「父上、碧王が、病に臥せっているため、代理ですまぬな」
なんだ。王様じゃないんだ。
「いえ、ありがたき所存です」
「それで、例のものは手に入ったのだろうか?」
「はい」
ギクリと、心臓が跳ねる。
例のものってやっぱり、魔王のことだよね。
アニキがこちらを振り返った。目線で私に立つように指示を出す。私は、恐る恐る立ち上がった。
「皇様。この者が、魔王でございます」
「……この者が?」
皇王子は、私を見るなり怪訝に眉間を寄せた。
(そりゃあ、そうだよね。物だと思ってたものが、人物なんだもの。そりゃ、驚くよ)
私の背後からも息を呑む音が聞こえた。
「……花野井。確か、魔王はエネルギーの塊であるという話だったな?」
「はい」
「それを遺体に入れて、扱えるようにするという話であったが、では、遺体が生き返ったということか? あるいは、まったくの別物か?」
皇王子は、アニキに問うというよりは、自身に問うように言った。
アニキは私を振り返って、跪いたまま、半歩後退して私の横に移動した。そして私を紹介するように、手を広げる。
「この者は、生きたまま魔王を宿した聖女なのです」
渋い声が頭の中で響いた。
『〝アリア〟 〝聖女〟』
ああ、アリアって聖女って意味か。
(……え!? せ、聖女? アニキなに言ってんの!?)
私は驚いて目を見開く。もう、目玉が飛び出るんじゃないかと思うくらい。
「生きたまま?」
「はい」
「では、生きた人間を使ったと申すか?」
「いいえ。この者は、私どもの願いを聴きいれ、天が異世界より使わせた聖女なのです」
アニキ、マジで言ってんの!?
私、ただの女子高生だし! 魔王はいるけど、ただの人間だし!
「異世界から来ただと?」
「はい。儀式を行った際、この者は天より降り立ちました。それは、儀式を行った者、皆が見ております」
「そうか……。にわかには信じがたいが、花野井が言うのならば信じよう」
「ハッ! ありがとうございます」
「詳しい話は後ほどにしよう。花野井、後で我が宮へ来てくれ」
「ハッ!」
皇王子が、すっと立ち上がると、アニキ達も立ち上がった。そして踵を返す。戸惑う私の腕を、アニキがそっと引っ張って退室を促した。
どうやら、線の細い男一派は退室をしないみたいで、私達はまだ跪いたままの彼らの横を通り抜けた。
「ちょっと、びっくりしましたよ! 聖女ってなんですか!?」
謁見の間を出てすぐに私はアニキに詰め寄った。
すると、鉄次さんが含むように訝る。
「そうよねぇ。けんちゃんにしては、饒舌だったじゃない?」
「ああ、あれな――」
アニキが言いかけて、鼻を鳴らす音に遮られた。
「どうせ、月鵬の入れ知恵でしょう。あの女が言いそうな言い回しじゃないですか」
中りをつけたように言って、亮さんが眼鏡をずり上げた。
「まあ、その通りだ」
アニキが苦笑して歩き出した。
私達も後を追う。
「月鵬がな、聖女って言った方が信憑性があるとか、異世界からきたっていうのも、そっちの方が信じてもらいやすいとか言ってな」
「確かにそうよねぇ。聡明な皇王子や、けんちゃんに絶大な信頼を置く碧王ならともかく、大臣達にゆりちゃんを見せても、亮みたく信じてもらえなそうだものねぇ」
「俺を引き合いに出すなよ」
「あの、大臣さんとかにも会わなきゃいけないんでしょうか?」
(そうだったら、何か面倒そうだなぁ……また胡乱な目で見られるのは、正直嫌だもん)
三人はきょとんとした顔で振り返った。
「大臣ならもう会ったろ?」
「え?」
「あの男よ」
「ひょろっとした、がりがりの男だよ。本殿に入って真っ先に将軍に話しかけたやつ!」
「え、ええ~!? あの人!?」
『そう』
私の驚きと共に、三人は同時に頷いた。
アニキ達の話によると、あの線の細い男は、左大臣、右大臣、二人いる中の、右大臣だそうだ。
どうやら、魔王復活の儀式にGOサインを出したのは、碧王という現在の岐附の王様だけど、それは内々に決められたことだったらしい。
まず、アニキの元に、風間さんから魔王復活のお誘いが来て、
アニキは壁王に相談した。そして、碧王が話に乗ったんだけど、それを聞かされたのは、皇王子と、本殿に入った時に出迎えてくれた数人と、右大臣。そして、アニキの側近である月鵬さんと、鉄次さんと、亮さんだけだった。
なんでそうなったかと言うと、いわゆる覇権争いというやつらしい。皇王子には、腹違いの二人の兄がいて、一人はそういったことにまったく興味を示さない人だけど、もう一人は、玉座を狙っているらしい。
そしてそれに手を貸しているのが、左大臣というわけだ。
だけど、すでに後継者は皇王子にと、碧王は決めているらしいんだけど、魔王の力を手にしたら、それが翻ってしまう可能性があるんだとか。
だから、内々にその力を手にしておこうと、そういうわけらしい。っていうか、がっつり政治に首突っ込んでんじゃん、アニキって。
てっきり、軍の人だから、そういうややこしいのには縁がないのかと思ってたのに。
それに、アニキってなんとなく、そういうの嫌いそうだったんだけどなぁ。
私はそう思いながら本殿を後にした。




