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私の中におっさん(魔王)がいる。  作者: 月村伊織
第一部
4/111

目論見ました。

書き直しました。

「あの、どういうことでしょう?」


 私が尋ねると、風間さんは微苦笑する。


「実は、私共は封印されてしまった魔王という莫大なエネルギーを復活させようとしておりました」

「え?」

「昔話であるんだよ。魔王って物質がね。なんでそんな名前がつけられてるのかは知らないけど、その莫大なエネルギーを手にした者は世界を変えるほどの力を得るって言われてるわけ」


 黒田くん――クロちゃんが、話しに入ってきた。


「魔王を受け入れるための器を用意して魔王の封印を解いたわけ。魔王をその器に入れるために。でも、何故かその器であるおっさんは消えて、キミが現れた」

「小娘、貴様の話によれば、白い空間とやらで出会った中年の男は、我々が用意した器である可能性が非常に高い。そいつが小娘の中へ入ったとなれば――」

「当然、魔王もキミの中ってわけだ」

「……は?」


 何言ってるの、この人達。


「贄の男に魔王が宿っていたかは不明だが、魔王は確実に貴様の中だろう」


 毛利さんは確信を持った口調で言って、風間さんに一瞬視線を向けた。風間さんは気づかなかったみたいで、私を申し訳なさそうに見た。


「我々は魔王を手にし、それぞれの願いを叶えようとしておりました。しかし、何故か貴女が我々のところへやってきてしまった。そして、おそらく、別の世界から……」

「別? の、世界?」


 ますます何言ってるの。風間さんって、残念美人なんだ。それともみんなしてからかってるとか?


「あのう、私本当にそろそろ帰りたいので……。始発多分もうやってると思うんで、駅名教えていただければ、スマホで――あ、そっか」


 ネットで調べれば現在地分かるじゃん。


「すみません、私の鞄ってどこですか? スマホ入ってるので、両親に連絡もしたいし。さっきの部屋にはなかったみたいなので……預かってたりしません?」


 みんなは不思議そうな顔で互いの顔を見合わせた。毛利さんは無表情だったけど。


「申し訳ございません。鞄は見ておりません」

「あのさ、スマホってなに?」


 好奇心が見え隠れしながら、雪村くんが訊く。


「スマホは、スマートフォンの略で……。いやいや、からかわないでくださいよ。スマホ知らない人なんていないじゃないですか」


 苦笑すると、雪村くんはきょとんとして首を捻った。

(えっ、本気!? スマホ知らない人なんているんだ)


「いや、とにかく! 私帰りたいんです。鞄がないんなら、ここがどこなのか教えてください! 自力で近場の駅にでも行くので!」


 幸いポケットに電子マネー入ってるし。――入ってるよね? 不安になって、スカートのポケットに手を突っ込むと薄くて四角い感覚がある。


(良かったぁ。入ってた!)


「ですから、申し訳ございませんがお帰しできないんです」


 風間さんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「貴女がやってきたのは、我々にしてみれば、想定外の事故のようなもので……正直申し上げて、帰し方がわからないのです」

「異世界のやつなんて、初めて見たしなぁ!」


 豪快に笑って、花野井さんが酒瓶を煽る。


「可哀想だが、嬢ちゃん。もうしばらく、ここにいるしかねぇな」

「そういうことだな」

(……え、マジ?)


 真面目そうな毛利さんや、年長者っぽい花野井さんまでそんな、異世界なんて変なこと言うなんて……。

 私は五人を見回す。


(この人達、かっこうとか容姿も少し変だし……もしかして、新手の変な宗教なんじゃ!?)


 もしかして私、昨日登校途中にこの人達に拉致られたんじゃない? それで、妙なことを吹き込んで変な宗教を信じ込ませようとしてるんじゃ?


(ヤバイ! 逃げなきゃ!)


 とりあえず、ここは話をあわせて、油断させて逃げよう。幸い縁側から抜け出せそうだし。


「わ、わかりました。魔王ってやつが私に入っちゃったんですよね? で、帰り方はわからないと」

「はい。申し訳ございません」


 風間さんは深々と頭を下げる。


「じゃあ……とりあえず、私、まだ混乱してるので、さっきの部屋に戻ってても良いでしょうか?」

「そうですよね。お戻りになられてください。あっ、部屋わかりますか?」

「わかります!」


 ついてこようとする風間さんを止めて、私はそそくさと部屋を出た。



 * * *



「ありゃぁ、信じてねえな」

「だね。見え見えだし。ぼく達のこと、頭おかしいやつらだと思ってるよ、絶対」


 嫌味たっぷりに黒田が笑う。


「でもさぁ、あの女の話に出てきた白い空間とかってなんなわけ?」


 軽口を叩くような声音とは反対に、心の中では周囲を試していた。特に、風間と毛利を注意深く見る。

 黒田の質問に、一同は眉をひそめた。


「なんだろうな?」


 首を捻ったのは雪村で、花野井も同様に顎に手を当てて眉を八の字に曲げる。

 風間も微苦笑しながら腕を組んだが、黒田は胡乱気に彼を見た。そして、毛利に話を振る。


「ねえ、なんだと思う? 毛利さん」


 あたりはついてるんだろ。と、内心で挑発する。それを感じ取った毛利は、不快さを感じながら口にした。


「おそらくは、その空間こそが魔王そのものだろう。あのとき、男の死体は消えた。肉体ごと魔王に吸収されたと考えられる。その男に会ったと小娘が言うならば、白い空間こそが魔王である可能性が高い。そして、風間」


 突然話を振られたにも関わらず、風間は微動だにせずに微笑んでいた。


「なんでしょう、毛利様」

「我々が儀式のときに見たあの、小さな白銀の太陽のような光の塊こそが魔王なのではないか?」

「……そうなのかも知れません。なにぶん、私も見たことがないもので……」


 申し訳なさそうに顔をゆがめて風間は頭を下げる。


(ふんっ! うさんくさいんだよなぁ。あいかわらず! それにしても、やっぱりあの光の塊が魔王だったんだね)


 黒田は片方の眉を釣り上げた。そして、毛利を一瞥する。


(やっぱ、毛利は気づいてたか。ほ~んと、食えないんだから)


「しかし、風間よ。大した演技力だな」

「……は?」


 風間は一瞬、笑みを崩す。ぴりっとした緊張を毛利含め、黒田と花野井も見逃さなかった。


「申し訳ございません。不肖故、意味が図りかねます」

「あの小娘を帰す方法はあるだろう」

「……一体、どうやって?」


 風間は初めて笑むのを止めた。柔和な表情を真剣な顔つきに変える。


「俺達がまた儀式を行えばいい」


 風間は強い瞳で毛利を見据える。


「それだけでは、帰せないと思います。彼女が来たのは事故ですから。この世界とは別の世界がいくつあるのかも分からないですし、もしもいくつか存在しているとしたら、一体どこの世界に帰せば良いのでしょう? 失敗すれば次元の狭間に彼女は取り残されてしまうかも知れません。確実な方法はないのです」

「本当にそうか?」


 毛利の声音は、いつものように抑揚のないものではなかった。疑念に満ちた口調で、風間を見据える。

 しかし、風間もまた毅然とした態度を崩さなかった。


「ええ。残念ながら」

「そうか……」


 毛利は呟いたが、疑いの色は消さなかった。風間はにこりと愛想良く笑う。二人の間に漂った微妙な空気を消すように、黒田が声を上げた。


「ってゆうかさぁ、毛利さんはあの子帰しちゃって良いわけ?」


 軽い口調だったが、どこか責めるように聞こえるのは、黒田が侮蔑しているからだろう。


「せっかくの魔王を手に入れなくていいの? 能面みたいな顔して、本当は優しいんだね」

「口を慎めよ」


 無表情だと思えないほど、毛利からは怒気が溢れていた。口調も淡白であり、あいかわらず抑揚がなかったが、誰が見ても明らかに怒っているとわかるほどだ。だが、雪村だけは、ただの言い合いだと思ったらしく、のほほんとかまえている。

 黒田はにやりと口の端を持ち上げた。


「残念ながら、慎む口は持ってないんだ。ぼく」

(噂に違わぬ男だな)


 ふっと毛利は鼻で笑った。それが分かる者はいなかったが、怒りはあの一瞬で治まったらしい。


「でぇ、肝心な魔王の話なんだけどさぁ。どうする?」


 飄々と黒田が話を続けたので、場の空気は和らいだ。


「魔王は彼女の中に入っちゃってるわけだろ。死体だったらぼくらが戦って、勝ったやつがその死体プラス魔王を手に入れるって話がついてたわけだけど、彼女生きてるもんねぇ……どうする?」

「ったってなぁ……」


 花野井は、困ったようすで頭を描く。


「いっそ殺しちゃう? その方が手っ取り早いでしょ」


 こともなげに言ってのける黒田に、雪村が勢い良く反論した。


「そんなのダメだ! 絶対ダメだ! そんなの、可哀想だろ!」

「俺もその提案には乗れねぇな」


 花野井は軽く殺気を発したが、黒田はふっと薄く笑った。


「まあ、アンタ達が反対しようがぼくはどうでも良いけどね」


 したいようにするからさ――と続く言葉を飲み込み、どいつもこいつも甘いんだよと、芽生えている怒りを隠した。そこに、


「当然、方法はあるんだろう。風間」


 突然、確信的な声音がふってきた。言ったのは毛利で、話題をふられた風間は、にっこりとしていた笑みを解いた。真剣な眼差しで、一同を見やる。


「彼女のことは不可抗力ではありましたが、たしかに毛利様のおっしゃるように、我々のうち誰かが魔王を手に出来る可能性はあります」

「どうやって?」


 怪訝に花野井が眉を顰める。


「彼女を、恋に落とすのです」

「はあ!?」


 あからさまに驚いたのは黒田だ。


「ちょっと待ってよ。なんでそうなるんだよ!」

「彼女を絶望の底へ突き落とす必要があるからです」


 風間は穏やかに笑んだ。


「たしかに、黒田様の言うように殺してしまえば手っ取り早いのかも知れません。しかし、元々死体に魔王を宿すのではなく、生きている肉体に宿ってしまっているので、もしかしたらそのまま殺してしまっては魔王は操れないかも知れないのです。今際の際に本人が無意識に魔王を体内に封印してしまう可能性だって無きにしも非ずではありませんか」

「たしかにその可能性はなくはないかも知れないけどさ」


 黒田は渋々頷く。

 何せ前例がない。何が起こるかはわからないのだ。


「彼女の心が絶望に飲み込まれ、何も考えられなくなったとき、付け入る隙がきっとやってきます。心が空になった状態で、雪村様がお書きになった相手を操る呪符を体内へ入れれば、彼女は我々の言うがままの操り人形と化すでしょう。殺す前に試してみても良いではないですか」


 風間はにっこりと微笑む。

 言っていることと表情が合わない、と、黒田は不信感をあらわにしたが、試してみるのも悪くはないと思った。


 その奥で、名が出た雪村は渋面をつくる。

 そんなことに協力したくないと本心では思ったが、口には出さなかった。呪符はもう描かれ、風間が所持していたからだ。それに、風間のすることはいつも正しいと信頼を抱いていた。言い換えるなら、それは強い依頼心だともいえる。そして僅かな劣等感だ。


「だけど、それでなんで恋愛になるんだよ」


 そこは納得がいかないのか、黒田は風間を軽く睨みつける。


「黒田様、人を深く愛した経験はございますか?」

「は?」


 黒田はイラついた調子の声を上げる。


「人を深く愛する。その人を、心底信頼する。その人に、ある日突然手酷く裏切られれば、傷つかない人間などいないでしょう。ましてや、彼女は異世界から来た身です。たったひとりで、見知らぬ土地どころか、見た事もない世界で、優しく接してくれた人間以外になにをたよりましょう」

「つまり、我らは絶好の好機の最中にいるというわけだ。見知らぬ世界で、寄る辺もなく、頼る人間などいるはずがない。そこに現れた俺達には恋愛感情を持ち易い……と?」

「そういうことになりますね」


 風間は少し困ったように笑う。それは、能面のような無表情に隠された含みを感じ取ったからかも知れない。


「なるほどね」


 黒田は面白そうに顎を引いた。


「でもぼく、タイプじゃないんだよなぁ」

「んじゃ、降りるか?」


 めんどうそうに呟くと、花野井がからかうような声を上げた。黒田は、あからさまにムッとした表情をした。


「降りるわけないだろ。ぼくは当初の予定通り、力で勝負しても良いんだけどね、おっさん。ライバル減らした方が得策でしょ?」


 挑発するように口の端を上げた黒田を、花野井は笑い飛ばした。


「ハッハッハ! 良いぜぇ、やるか小僧?」


 黒田の髪をフードの上からわしゃわしゃと撫でる。黒田はその手を強く弾いた。


「魔王召還のために、協力しただけだって忘れないでくれる? 馴れ馴れしいんだよ」


 鋭い目つきで花野井を睨んで、威嚇するように低い声で吐き捨てた。


「あ? ガキがイキがるんじゃねぇぞ」

「ガキをなめんなよおっさん。ぶっ飛ばして恥じかかせてあげようか?」

「ああ!?」


 ピリッとした、一触即発の空気が流れる。

 毛利は馬鹿げていると冷眼視していたが、そこに咎めるような声がした。


「花野井さんは良いの? 生きた人間を使うの反対してたじゃん。女の子を利用するようなことして良いのかよ?」


 雪村だ。


「俺は生きた人間に憑依させるのは、死ぬリスクが高すぎるから反対してたんだ。お嬢ちゃんは無事憑依完了してるみたいだから問題はねぇだろ。それに、生きてりゃ操られてたとしたって慰めることも出来るからな」

「……ヤラシイ」


 にやりと笑った花野井に対し、黒田が軽蔑を込めて言う。


「ああ? ヤラシイって思うって事はヤラシイ想像したんだな小僧」

「うるさいな!」


 やいやいと言い合いを始めた二人を、雪村は複雑な表情で見やる。それを、風間が咎める瞳で見ていた。

 客観的に様子を見ていた毛利は密かに笑み、提案を口にした。


「では、小娘を落とした者が〝魔王〟の力を手にするという事で異論はないな?」


 一同は互いに見合って、静かに頷いた。




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