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私の中におっさん(魔王)がいる。  作者: 月村伊織
~黒田の章~
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芽生え

書き直しました。

 私は昨日買ってもらった服を、ベットの上に並べた。

 昨日買った服は五着。靴下やパンストが五足。靴が一足。パジャマが一着で、計十二着だ。

 クロちゃんはもっと買えば良いのにって言ってたけど、そんなに買ったら後で返すのが大変そうだもん。

 

 一着目は、紺色の長袖のワンピース。

 スカートの裾や、首まわり、袖に黒いレースがついていて、上品な感じ。丈はやや長め。

 二着目は、白いブラウスと、黒いカーディガン。それと、裾がカボチャのようにふんわりと丸くなっている半ズボン。これは、店員さんが持ってきた物だったりする。やっぱり一着は選ばないと、店員さんに悪いもんね。

 まあ、可愛くて気に入ったのも事実だけど。


 三着目は、Aラインの長袖ワンピース。膝上くらいの丈で、色は淡い水色。袖と裾に白のラインが入っていて、胸元に大き目のリボンがついていた。

 本当は、色々着まわせそうなセパレートが良かったんだけど、そうすると、数を買わなければならないから、一枚で着られるワンピースを多く選んだ。


 生地自体がしっかりとして厚みがあるので、今の季節でも一枚で大丈夫そう。カーディガンがあれば、もう少し寒くなっても着られそうだし。

 パジャマはネグリジェ。こんなの着たことなかったけど、女の子女の子してて可愛い。

 ……似合うかどうかは別として。

 靴はパンプスを選んだ。本当は情報収集に歩きに出るかもしれないから、カジュアルな感じの靴か、運動靴が良かったんだけど、さすがにああいうところには置いてなかった。

 美章では家でも土足なので、家にいる時は履き慣れたローファーを履くことにした。

 しばらく並べた服を眺めて、

「よし、これにしよう!」

 私は、三着目のワンピースを手に取った。


「おはよう」

 私が階段を下りようとすると、クロちゃんがちょうど出かけるところだったみたいで、ソファで身支度をしていた。

 クロちゃんの今日の衣装は、黒のパーカーのチャックを全部開けて、中にシンプルな白のシャツ。サルエルパンツに似た黒のズボンに、黄色と白の縞々靴下だ。わりと派手目な格好のクロちゃんにしては、今日は随分と落ち着いている。

 この国のファッションは、日本の原宿辺りに似ているのがあって懐かしい。

(そういえば、クロちゃんは家の中でもフードを取らないな)


「おはよう。今日は早いね」

 クロちゃんは嫌味を含みながら、さわやかに笑う。

「も~。それは言わないでよ! ここのところは早く起きてるじゃない」

 私が言い返すとクロちゃんは、ハハッと笑った。

「掃除頼むよ。家政婦さん」

「だれが家政婦ですか!」

 突っ込みながら階段を下りきると、歩き出していたクロちゃんは私の前を通る足を止めた。

「じゃあ、奥さんが良い?」

 薄緑色の瞳が優しく細められた。

 思わずと胸がときめいて、むずむずしたけど、

「もっと嫌です!」

 冗談っぽく、きっぱりと言うと、クロちゃんは無邪気に笑った。


 そのまま台所に歩いて行き、冷蔵庫から水吸筒すいきゅうとうという水筒を取り出した。

 そして玄関に向う。

「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

 手を振りながら玄関のドアを閉める彼を見送り、踵を返すと不意にドアの開く音がした。

 朝の光が、三和土のない玄関に真っ直ぐに伸びる。

 逆行の人影が、慌てるように室内に入ってきた。

(――誰?)

一瞬びっくりしたけど、なんてことはない。クロちゃんだった。


「忘れ物?」

「うん。そう」

 何忘れたんだろ?

 基本、彼は手ぶらで出かける。

 忘れるような物なんて、持って行かないはずだけど……。

「服」

「服?」

 尻切れトンボに首を傾げる。

 代えの服でも持っていくのかな?


「似合ってるよ、その服。可愛い」

 クロちゃんはやわらかく微笑んだ。

「――行ってくるね」

 呆然とする私を置いて、ドアが閉まる。

 私は慌てて、ドアに追いすがった。

「ありがとう!」

 閉まる寸前に、向こう側から微かに声が聞こえた。

「うん!」

――いってらっしゃい。

 口の中で言い含んだ言葉は、声として発せられなかった。

(それを言うために戻ってくるなんて……)

 魔王のことがあるんだろうけど、それを含んだとしても、感謝すべきことは、感謝しなくちゃね。

 私は閉じられたドアに、深々と一礼した。





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