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私の中におっさん(魔王)がいる。  作者: 月村伊織
第一部
10/111

告白されました。

書き直しました。

 その日、私は中央の和室でむっすりとしていた。

 お風呂事件から三週間くらい経っていたけど、いまだに腹立たしくて。


 あのとき、着替えてお風呂小屋から出るとクロちゃんが待っていてくれて部屋まで案内してくれた。

 私達が部屋へ行ったときにはもうランプが燈っていて、布団が敷いてあった。変態の雪村くんと違って、クロちゃんはおやすみと言って、なんとまあ、私の手の甲にやさしくキスをして去っていった。


「クロちゃんってば、王子様かっての」


 口ではちょっと皮肉っぽく呟いてみたけど、本当は嬉しかったりするのよねぇ。私だって乙女だもん。


「ホント、どっかの誰かと大違い!」


 私は抱きしめていた枕を放った。

 あれから何度か雪村くんと会うことがあったけど、必ずクロちゃんが現れて、さっと私を雪村くんから隠してくれる。

 今日は口をパクパクさせて何か言いたげにしてたけど、うじうじうじうじしてる間に結局クロちゃんがやってきて、私と雪村くんを遠ざけた。

 クロちゃんは本当に紳士で守られてるなぁって感じちゃうんだけど、一言ごめんって謝ってくれれば、私だって雪村くんを許しやすいのに。

 雪村くんが申し訳ないって思ってるのは態度や表情ですぐにわかったけど、言ってくれなきゃいつまで経っても許せないじゃない。


「そのうち根負けして、こっちから気にしなくて良いよって言っちゃいそう」


 あんな捨てられた子犬みたいな目されたら、折れるしかない。けど、クロちゃんが覗きなんて卑劣なんだから許しちゃダメだって言うのよね。それもたしかにそうか、なんて納得しちゃったりもして。


「はあ……」


 深くため息を落としたとき、


「おい、小娘、居るか?」


 障子の向こうから声がかかった。

 月明かりに照らされて、畳と障子に人型の影が映る。

 小娘ってことは、


「毛利さん?」

「ああ」


 なんだろう、こんな夜遅くに?


「入るぞ」

「あ、はい」


 私は起き上がって、正座して毛利さんを出迎える。なんか、あの人苦手っていうか、緊張するんだよなぁ。私がこの世界に来てもうすぐ一ヶ月だけど、毛利さんとは特に会話もなかったし。整った顔してるくせに無表情だから、なんとなくとっつきにくいんだよね。

 障子がスーと開いて、毛利さんの金色の瞳が闇夜にキラリと光った。

 佇まいからして凛としていて、眉目秀麗とはこうゆう男性のことを言うんだなぁ、きっと。

 毛利さんは何故か、じっと私を見据えていた。

(なんだろう?)


 毛利さんは、私の前まで来ると、そっと膝をついた。毛利さんが私の膝近くに手を置いて、同じ目線になった。


(顔が近いんですけど!)


 心臓がどきどきと早鐘を打つ。


 毛利さんは目を見て放さない。私も何故か放せない。


(なんか怖い)


 自然と、ごくりと喉が鳴る。何か、嫌な予感がする。


「あ、あの――んっ!」


 一瞬、なにが起こったのか、解らなかった。

 毛利さんの冷たい目がすぐそこにあって、それ以外はなにも見えない。金色の瞳が閉じられて、口内にぬるりとした何かが侵入してくる。


(えっ、うそ。やめて! 気持ち悪い!)


「うっ、う~っ!」


 押しのけようと胸を押すと、後頭部を押さえつけられた。侵入者はさらに深くなる。私は毛利さんの胸を叩いた。でも、びくともしない。

 そのまま、布団に押し倒された。同時に両手を奪われる。

 いとも簡単に片手で両手首を掴まれて、頭の上へと押し付けられた。


「痛い!」


 思わず小さく叫ぶ。

 私の悲鳴にかまわずに、毛利さんは大きな手で浴衣が捲れてあらわになった太ももをなでていく。

 唇が、首筋に触れた。


「ひっ」


 喉がつまった。言葉が痞えて出てこない。

(このままじゃ……私!)

 ガタガタと体が震えてくる。

 やめて、って言うんだ。お願い、声、出て……。叫んで!



  ** *



 ゆりの異変に気づいたのは、毛利がゆりの首筋に唇を落とした直後だった。心音が聴こえない。

 いや、かすかに――ドクン、ドクンと脈打っている。


 異変を察知した毛利はゆりの腕を放した。

 ゆりの瞳は虚ろに闇を写している。

 あの時と同じかと、毛利はわずかに眉をひそめた。


「……!」


 次の瞬間、毛利は後ろへ飛び退いた。

 ゆりの体から、毛利の居た場所まで、半円の何かがとび出していた。

 その物体は淡く光を放つ。


 そこへ一匹の蛾がふわふわと飛んできた。

 淡い光に誘われるように近づいた蛾は、触れた途端、消滅した。

 まるで光に溶けたようだった。


「なるほどな……」


 毛利は静かに呟いた。

 これで納得がいった。

 何故、恋愛でなければならないのか。


 無理に強姦や拷問をして肉体的にダメージを与えようとすれば、エネルギー態に吸収されるか、ゆりが降り立ったときのように、力を撒き散らし、殺されるだろう。

 あの時は風であったが、次は炎で焼き尽くされるかも知れない。


 だから心を許される存在となり、手ひどく裏切らなければ心を失うほどの虚無感は与えられないのだ。たとえ一時的であったとしても。

 その一時が重要なのだと、毛利は悟った。


 その一方で、悲惨な光景を目に焼き付けさせるという手がまだあると考えた。しかし、目の前で無残に人が死んだとて、心を失うほどのショックが獲られるだろうか。

 自らが人を殺すのならばまだしも……いや、それもないだろう。ゆりが誰かを殺すことは想像がつかない。

 

 ならばゆりの家族や親しい者の死ならばどうだろう。

 心を失うほどの虚無は獲られるだろうが、肝心の彼女の家族はこの世界にはいない。

 毛利は密かにため息をついた。


「ならば、やはり恋に落とすしか道はあるまいか」


 毛利は小さく鼻先で笑った。

 若干ながらあの無表情が、笑んだようにも見える。

 

「結局、あの男の策に乗らねばならないか」

 

 どろりと悔しさが滲む。

 毛利の頬を照らしていた光が徐々に小さくなる。数十秒もしないうちに、ゆりの中に光は納まって行った。

 途端にゆりは気持ち良さそうにスヤスヤと寝息をたて始めた。


 毛利は深くため息をついて、立ち上がる。そして、呟いた。


「柳、そいつになにか掛けておけ。風邪でもひかれたら面倒だ」

「は~い」


 柳は快活に返事を返しながら、天井裏から降りてきた。天井の板が外されている。柳はゆりの下から掛け布団を引っ張り出した。ゆりがごろっと畳の上に転がる。


「おい」

「大丈夫。起きませんよ。おねえさんが来てからずっとこっそり監視してましたけど、この人一回寝たら何しても起きないですもん。ほら、すごく気持ち良さそうに寝てるじゃないですか」


 ハキハキと言いながら、柳はゆりを指差す。ゆりは起きる気配を微塵も感じさせずに畳の上で寝ていた。

 呆れたように目を閉じる。


「まさか柳、小娘に――」

「何もしてませんってば」


 食い気味に否定され、毛利は胡乱な瞳を向けた。柳以外の誰かが見ればそれはいつもの能面に過ぎなかったが、柳には理解が出来たようで、にやっと愉しそうに笑う。


「してませんよ。神に誓って」


 もう一度ハキハキとした口調で言った柳に、「神なんて信じておらぬだろう」と、皮肉を言って、毛利はゆりを抱えた。布団の上にそっと置く。柳は愉しげにその光景を見ながら、ゆりに布団を被せた。


「それで、確信は得られたんですか?」

「納得はした。だが、得心はしていない」

「ふ~ん。じゃあ、争奪戦に参加しなければ良いじゃないですか」

「しなければやつらに魔王を取られる。そうなれば、また戦争になりかねん」

「まあ、そうですね。花野井さんも何か裏事情がありそうですし、黒田くんとかヤバそうですもんね」

「風間もな。油断ならん」

「あの人なに考えてんのかわかりませんもんね」


 お前もな。と、毛利は視線を送る。

 あなたもね。と、柳は視線で返した。


「でも、何がひっかかってるんです?」


 毛利は答えない。彼自身でも、まだ言い表しようがないものだったから、答えようがなかった。

 それを見抜いたのか、はたまた気を使ったのか、柳は別の話に切り替えた。


「まあ、でも、おねえさんが風邪ひいたら看病してあげればいいじゃないですか。親密になれますよ。なんなら僕、布団剥がしましょうか?」


 明朗に言って目を細める柳に、毛利は片眉を微妙に上げた。


「煩わしい」


 一言だけ呟いて毛利は部屋を出た。

 毛利が半身だけで振り返ると、柳は愉快そうに笑んで、屋根裏へと消えた。



 * * *



「う……ぅう……」


 光がまぶしい。私は思わず目をぎゅっと瞑った。

(私の部屋ってこんなに光入ったっけ?)

 ぼんやりと思いながら、目を開けていく。


「……あれ?」


 見慣れない格天井。


「ああ、そっか……」


 げんなりした気分で起き上がる。


「私、異世界にいるんだった」


 深くため息をついて、頬を軽く叩く。


「憂鬱になっちゃダメだ。ほら、こうなったら逆転の発想で行こう! 異世界ライフを楽しんじゃおうじゃん!」


 よし! と気合を入れて、私は勢いよく布団から飛び出した。障子を開けて、太陽の光を浴びる。軽く伸びをすると、暖かな力が充電されるような気がした。


「……あれ? なんか太陽高い気がする」

「おはようございます」


 独り言を発した途端に、身近から声がかけられた。

 振向くと、縁側を月鵬さんが歩いてきていた。


「おはようございます」


 返事を返すと、月鵬さんはやわらかく笑んだ。


「お顔を洗いに行かれますか?」

「あ、はい。お願いします」


 月鵬さんの案内で縁側を歩いて行くと、外に井戸があった。昨日は気づかなかったけど、風呂小屋の脇にある。

 そこから水を汲んで顔を洗うらしい。


 頬に水をかけると、水はまだ冷たかった。少し身震いしたけど、おかげで目が覚めた。顔を洗い終わると、月鵬さんが布を渡してくれた。


「もうお昼過ぎですけど、昼食はどうなさいますか?」

「え、また私そんなに寝てたんですか?」

「ええ」


 私は自分自身に苦笑を送る。

(本当、ちょっと寝すぎじゃないかな? でも、まあ、しょうがないか。昨日は色々あって疲れてたし……ん? 昨日?)


「どうなさいました?」

「いえ! なんでもありません! 大丈夫です!」


 私は月鵬さんに片手を突き出して首を振った。残した片手は、ぼっと熱くなった頬へ。

(私、昨日毛利さんに……!)

 思い出してまた顔が熱くなる。

(なんで、なんで、私あんな夢見たんだろう!?)


 恥ずかしさでいっぱいになる。でも、なんでよりによって毛利さんだったんだろう? 毛利さんってたしかに顔は良いけど、無表情なくせに俺様な感じがぶっちゃけ苦手だし。


 その点で言って、風間さんは温和で優しいし、クロちゃんとか紳士だし、アニキも良い人だし……。雪村くんは覗き事件があるから、こんな夢を見ても不思議じゃないし……なんで毛利さんだったんだろ?


(まあ、でも夢でよかった! あんなのが現実だったら、怖くてしょうがないよ)


 しかも、ファーストキスがあんなロマンスの欠片もないようなのなんて、絶対イヤ!

「百面相は終わりましたか?」

「へ!?」


 くすくすと笑いながら月鵬さんが問い掛けてきた。


「もしかして、か、顔に出てましたか?」

「ええ、くるくると表情が変わってましたよ」


 月鵬さんは指をくるくると回す。

 カアア――と、顔が熱くなる。頬を押さえた私を見て、月鵬さんはまたくすくすと笑った。



 * * *



 朝食代わりの昼食を作ってもらう間に、私は屋敷内を散策してみることにした。まず、中央を見て回る。といっても、お風呂は行ったし、トイレは普通の和式だし、部屋は私が使ってる和室しかないから、残ってるのは台所しかない。

 私はこそっと台所を覗いた。


 月鵬さんと柳くんが割烹着を着て台所に立っている。

 カマドがあって、その前に大きな木のテーブルがある。そこで月鵬さんが野菜を切っていた。


 カマドに薪をくべていたのは柳くんで、カマドにはまだ火が点いていなかった。

 柳くんは台所の奥からなぜか鳥籠とりかごを持ってきた。中には小さなドラゴンがいる。それを手のひらに載せて取り出した。


 ドラゴンのサイズはインコと同じくらいの大きさみたい。首と尾が長く、翼が生えている。

 そのドラゴンを薪の前まで持ってくると、ドラゴンがちょうどいいサイズの火を噴いた。


 火を噴き終わると、ドラゴンは「やったよ。できたでしょ!」と言わんばかりに尾を振って柳くんを見る。

 柳くんはポケットから肉の燻製のようなものを取り出し、ドラゴンに与えた。

 ドラゴンは満足そうに食べて鳥籠の中へと戻った。まるで犬みたい。

(この世界ではドラゴンで料理を作るんだ)

 感動しながら、台所から離れた。邪魔しちゃ悪いしね。


 私はスカートのポケットから呪符を取り出した。呪符を貰ったのは良いけど、結局一度も使えずにいる。

 使ってみようと思った矢先、次々と人が中央区画に現れて、代わる代わる話し相手になってくれるから、今まで使えずにいた。


 それに、ここにいると惰眠を貪りたい病がやってきて、ついつい寝てしまう。口やかましいお母さんと、遊びに誘ってくれる友達と、行かなきゃいけない学校という義務がなければ、私ってばいつまでだって寝れちゃうんだもの。

 我ながら呆れちゃう。

 でも、せっかく呪符も貰ったことだし、使わなきゃもったいない。


 私はまたポケットを探った。小さな時計を取り出す。

 別れ際に月鵬さんに、時計竜ウロガンドという時計を貸してもらった。この時計は淵の部分が自分の尾を銜えた龍になっていた。


 時計の数字の部分がウロガンドでは、十二星座になっている。

 十二が『羊』。一が『牛』、二が双子の『双』で、三が『蟹』四が獅子の『獅』で、五が乙、六が天秤の『天』で七が『蠍』八が射手座の『射』で、九が山羊座の『山』十が水瓶の『水』そして十一がうお座の『魚』だった。


 月鵬さんが双の時間にアラームが鳴るように、セットしておいたと言っていたので、あと一時間ある。

どんなアラーム音なんだろう。ちょっとわくわくしちゃう。そんな風に思いつつ、水色の呪符とにらめっこする。

 中央の区画はぐるりと見て回った限り、別の区画へ行く廊下も縁側もなかった。中庭の先に建物の壁が見える。この中央区画は、完全に孤立しているみたい。呪符を使うか、壁をよじ登って越えない限り、ここには来ることも出来ないし、出ることも出来ない造りになっていた。

 だから呪符を使うしかないわけだけど……。


「う~ん。わからない!」


 適当に歩き回れば転移ってやつが出来ると思ったけど、何も起こらない。私は、縁側に腰掛けた。


「そういえば、あの日、東の区画から移動してきたんだよね?」

 だからここにいるわけだし。

「雪村くんどうしてたっけ? っていうか、いつの間に移動してたんだろ?」


 首を捻ったとき、


「何をしている?」


 後ろから声をかけられて、私は驚いて振り返る。

 そこには切れ長な金の瞳……。


「も、毛利さん!」


 思わず声が上ずった。

(落ち着いて! あれは夢なんだから!)

 私は静かに深呼吸する。


「……柳はいるか?」

「はい。台所に」


 良かった。普通に言えた。


「ところで、何を見ていたんだ?」

「あ、この呪符です。風間さんに貰ったんですけど、どうすれば別の区画に行けるのかわからなくって」

「……なるほどな」


 毛利さんが頷いて、そっと手が伸ばした。私の手をそっと握る。


「え、あの?」


 思わず驚いて小さく言葉を吐き出すと、毛利さんはそのまま私を引き寄せた。そのまま立たされて、その反動で毛利さんの胸へとぶつかるように包まれる。


(え!? なんなのこれ!?)


 混乱する中で、ふわりと上品な香りがはなくすぐった。


 良い匂いだな。うっとりとした気分になると同時に、どこかで嗅いだような気がする。たしか、昨夜――。


「おい」

「――っ、はい!」


 我に帰ると、毛利さんの手は既に離されていて、私はずっと毛利さんにくっついていた。


「す、すいませんっ!」


 慌てて離れる。

(いやあ! 恥ずかしいっ!)


「呪符の使い方を教えてやろうか?」

「えっ! あ、はい。ぜひお願いします!」


 ほんの一瞬だけ、毛利さんが薄く笑ったような気がした。まあ、気のせいだよね。


「呪符は、思念を感じ取る」

「思念?」

「このエリアに行きたいと思いながら歩けば良いだけだ」

「へえ……それだけ?」

「ああ――たとえば」


 毛利さんはそっと手を伸ばし、私の手ごと呪符を掴んだ。毛利さんの大きくて、きれいな手に、私の手はすっぽりと包まれてしまう。

 そしてそのまま私の後ろへと回った。

 毛利さんの整った顔が、肩越しに映る。

(うわああ! 心臓が、爆発しそう!)


「試しに南の区画に行きたいとイメージしてみろ」


 毛利さんの声が耳元で囁いた。

 気がつくといつの間にか、お腹に腕を回されて、後ろから抱きしめられる形になっていた。

(ど、どうしよう。これは、さすがに振りほどくべき?)


「はやくイメージしろ」


 こんな状況で、イメージなんて出来るわけないじゃん!


「昨夜の――」

「え?」


 急に落ちたトーンに思わず振向きかけた。

 金色の瞳と目が合う。

 毛利さんの筋の通った鼻と、頬が僅かにぶつかる。

 唇との距離が、僅かだ。


「昨夜のことは夢ではない」

「……え?」


 目の前に影が落ちた。

 やわらかい感触。

 閉じられた金の瞳。

 頬にぶつかる、少し硬くて少しやわらかい、くちびる。


「俺は、貴様を手に入れる」


 真剣な眼差しが、心を射抜く。一気に体温が上昇した。


「だが、昨夜はすまなかった。――イメージして歩け」


 呆然とする私に素っ気無くそう言い残して、毛利さんは去った。私は、その姿を茫然と見送っていた。

 しばらくして、やっと瞬きをする。


「今の、なに?」


 私はその場に座り込んだ。

 夢じゃなかった? じゃあ、昨日本当に?


「っていうか、私、今――告白された!?」


 ボッと顔に火が昇るのを感じる。押さえた頬が、出来立てのホットミルクみたいに熱い。


「どきどきする」


 私はうるさく打ちつける心臓を押さえるように蹲る。

 この胸のドキドキは、恐怖からだけじゃないことは、一向に下がる気配のない体温でわかった。

 




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