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らくごもの  作者: 桂正雀
8/13

弘也の噂と平手姉妹

入学式から三日あまりたったある日のことです。

 いつも通り弘也は青のブレザーにズボン、そして赤のネクタイという学校指定の制服に身を包み、学校へと向かいました。

そんな弘也が学校に着くと、昨日までとは明らかに違う何かを感じました。

昇降口で弘也が靴を脱いで靴をしまうその短い動作の間だけでも、辺りの視線が弘也に向かっており、そのうちの数人の女子生徒などは時折弘也を指差しながらこそこそ話をしているようにも見えます。しかし男女かまわず弘也が目を合わせようとすると皆が皆、目をそむけてしまう。

そんなことが、昇降口から自身の教室に向かうまでの間ずっと続きました。


弘也が教室に入った時も同様でした。騒然とした教室の中に弘也が入ってくると水を打ったようにしんと静まり返り、自分の席に荷物を置くまでのわずかな時間でさえ誰かの視線を感じるような有様でした。

荷物を置き、トイレに行こうと教室を出ようとする弘也の袖を誰かが後ろから引っ張ります。

後ろを振り返ってみると、無表情の蒼が立っていました。

「時間、ある?」

「ああ。どうした?」

「ちょっと、来て」

言われるままに蒼につられて教室を出た弘也は、二人で空き教室へと入り、そのまま二人でイスを並べて話し始めました。

「変な噂、流れてる。きみの」

「噂、ねぇ……」

イスに寄りかかり、天井を見つめながら弘也は言いました。

「うん。地元でいちばん強い不良だった、とか、地元でいちばん強い不良グルー

プのリーダーだった、とか。あっ、実はヤクザの息子だ、っていうのも、ある」

弘也はその根も葉もない噂を心の中であざ笑いました。

「……それで? そんな噂流れてる奴と一緒にいて怖くないのか? お前は」

頭の後ろで手を組み目線を蒼のほうに向けると、その表情を伺います。

「正直、噂が本当なら、怖い。でも、私を助けてくれたのも、本当」

蒼は、うつむいて呟くようにぼそぼそと喋ります。

「だから、君がいい人だって、信じる」

そして、ふと顔を上げると弘也のほうを見てかすかに微笑んで更に付言します。

「……そうか、この俺を信じる、か」

「……だめ?」

イスを傾けて小ばかにするように弘也が言うと、蒼は眉間にしわを寄せ、困惑したような顔をしてしまいました。

「いや、べつに……」

弘也が口を開こうとしたちょうどそのとき、チャイムが鳴ります。弘也と蒼が席から立ち上がると、蒼の座っていた席から何か紙がひらひらと落ちました。

「おい、なんか落ちた……なんだこれ」

「あっ、だめ! 読まないで!」

その制止も聞かず、弘也はそれに目を通しました。

『忠告は聞き入れてくれなかったみたいだね。一度話がしたいから、今日の昼休み、校舎裏に来てくれ』

その短い文面に、送り主の憎悪にも似た何かを弘也は感じました。

 「おい、なんだこれ? つうか、なんだ忠告って?」

弘也は、蒼を睨んで問いかけました。蒼は、そんな弘也にチラチラと視線を送ります。

 「だめ。きみに、迷惑はかけられない……わたしが、なんとかしなきゃ……」

 「なるほど。俺に関係することか」

 その弘也の一言に、蒼ははっと顔を上げました。

 「……やっぱりそうか。話してくれねぇか? もう隠し通す必要もねぇだろ?」

 今の蒼の反応で確証を得た弘也は、蒼に更に詰め寄ります。蒼は観念して、ポケットから一枚の紙切れを取り出して弘也に見せました。

 『登校の時も、下校の時も、授業中も、休み時間の時も、いつも遠くから君を見てる。今まで黙って見守っているつもりだったけど、君に近づく転校生と親しくしているみたいで、いてもたってもいられなくなったんだ。君とあいつは似合わない。あいつと、仲良くしないでくれ』

それはまるで刑事ドラマに出てくるストーカーからの手紙のような、そんなおぞましさを感じさせました。

「……丁寧なご忠告ありがとうございます、ってところか?」

弘也は鼻で笑うとその手紙を小さく畳み、自分のポケットの中へしまいこみました。

「こんな紙くず、どこにあった?」

「わたしの、下駄箱。朝、来たときに」

「そうか。律儀な奴だよ、お前も。こんなもん残しておくなんてな」

それだけ聞くと、弘也は教室に戻っていきました。


ほぼ恒例化した空き教室での昼食に、弘也は向かいました。

空き教室に蒼の姿はありませんでした。

弘也は怪訝な顔をして部屋を見渡しました。どこかに蒼の荷物が置いてあるのでは、と思ったからです。

(ねぇか……もう少しここで待ってるか?)

弘也はポケットに手を突っ込みます。その瞬間、ポケットにある何かが指にあたり、くしゃっと折れる感触がしました。

(そういうこと、か)

弘也は鼻で笑うと、そのまま校舎裏へと歩いていきました。


校舎の裏を探し回ると、二人の男女の姿が遠目に見えました。

弘也は音もなくその二人に近づきます。そこから弘也には男が壁に手を伸ばし、蒼を囲っていることが見て取れました。

「何で、何でわかってくれないんだ!」

熱を持った口調で蒼に言い寄るその男に、弘也は静かに歩み寄りました。

「あ、た、高橋、くん」

「えっ!?」

辺りを見回すその男の肩を、弘也はちょんちょんと二度つつきます。

「後ろだよ、後ろ」

声のした方向に男が振り返った瞬間、腰から放った弘也の拳が飛び、その男の顔面すれすれで止まります。

その男は力なく地面へと座り込み、弘也の顔をおびえた様子で見上げました。その間に蒼は弘也の後ろへと移動し、その陰に隠れます。

 その男は弘也にも見覚えがありました。転入当日、弘也に声をかけてきた二人組の男の、その肥満体型のほうでした。

 「よう、やっぱりお前だったか」

 「な、何で……」

 指を刺しながら、弘也を指差すその男に、弘也はポケットから紙切れを出すと男に放り投げます。

 「授業中も見てるってことは、クラスの連中以外考えられねぇよな? それも、よほどご執心な野郎だ」

 ポケットに手を突っ込んだまま表情を崩すことなくその男を睨みつけます。その男の顔には、恐怖におびえているような、そんな表情を浮かべていました。

 弘也は蒼の背中をポンと押して、向こうに行くように促します。

 「で、平手はあんたの忠告ってヤツを聞き入れてくれそうか?」

 蒼が消えたのを確認し、弘也はその男の顔をのぞきながら問いかけます。

しかし、その男はそのまま何も言わず弘也の顔を睨みつけます。

 「まあいい。これでお前はあいつに愛想つかされたってだけだしな」

 弘也がそう言ったとたん、その男は血相を変えて弘也に擦り寄ります。

 「……」

 その男の懇願するような目を見て、弘也は更に詰め寄りました。

 「で、どうやって落とし前つけてくれる気だ?」

 「お、落とし前……」

 「ああ。それなりのケジメつけてくれねぇとな」

 弘也は、血相一つ変えず相手の様子を観察しながら話を詰めていきます。

 「……さっきみたいなことはもうしない」

 「……それで終わりか? 犯罪まがいのことやっときながら」

 うつむくその男を見下しながら、更に詰め寄ります。

 「……もう蒼ちゃんに強引な近づき方はしないし、させない」

 「それでいい。俺も手荒な真似はしたくねえからな。……覚えとけよ、お前があいつに与えた恐怖はこんなもんじゃねえってことをよ」

 その男に背を向け、立ち去ろうとする弘也の背後から、その男が弘也におそいかかろうとするのが後ろ目に見えました。

 弘也はその男の突撃をタイミングよくよけると、その男の目の前すれすれに風を切るようなスピードの蹴りを入れました。

 その勢いに男はその場にへなへなと腰を落とします。

 「手荒な真似はしたくねぇって言ったつもりだったんだがな」

 ネクタイに手を掛けながら転んだその男を睨み、弘也はため息ひとつつくとそのまま蒼の消えた方向へと歩いていきました。

 「あっ! えっと……その……」

 蒼は、壁越しにこちらの様子を見るように覗き込んでいるようでした。

 「お前っ、見てたのか?」

 「う、うん……ごめん」

 「あんまり目にいいモンじゃねえから見せたくなかったんだがな」

 弘也は考え事をするように少しうつむき、また顔を上げます。

 「でもま、とやかく言っても仕方ねぇか」

 弘也がそう言うと、蒼は潤んだ目を弘也に向けます。

 「あの、何で……助けに?」

 「ああ、お前は俺を信じるって言ってくれたからな」

 弘也は詰め寄る蒼の目を見て、答えました。

 「それにこたえただけだ」

 「それ、だけ?」

 「ああ。それだけだ。俺は購買に行ってくるぜ。また空き教室でな」

 弘也はそのまま振り返って購買へと歩いていこうとします。その瞬間、蒼は弘也の袖をつかみ、腕を引き寄せました。

 「わたしの、ご飯……。その……一緒に、食べよ?」

 顔を真っ赤にしながら弘也を見上げ、少し潤んだ目で弘也を見つめるその蒼の姿に、弘也は自分の顔に一気に熱がこもっていくのを感じました。

 「……お前がいいんなら、付き合うよ」

 弘也を見つめる蒼から視線をそらし、顔を真っ赤にしながら呟くように言いました。


 「で、これでどうやって食えってんだ?」

 蒼から弘也に渡されたのは、弁当用の小さい箸の、その片方だけでした。

 「こうやって、食べる」

 同じように箸の片方のみを持った蒼は、鉛筆のようにそれを持ってブスッとウインナーを刺し、口へと運びました。

 「ンな行義の悪い真似できるか」

 弘也はそれを見て、はき捨てるように言います。

 「なら、あーんってする?」

 「なっ! ばっ、バカかお前! これで充分で、これで!」

 首をかくん、と曲げながら弘也に尋ねる蒼に弘也はしどろもどろになりながらから揚げを刺すと、そのまま口へと近づけます。

 「あっ、高橋くん、あれ」

 その瞬間、蒼が校舎のほうを指差しまして、

 「隙あり」

 そのまま、ぱくっとから揚げを食べてしまいました。

 「お前な……」

 「ごめん、食べたかった。代わりに……」

 はい、と箸に刺さった卵焼きを弘也に渡しました。弘也はそれを受け取ると、一口に食べます。

 「おいしい?」

 「ああ、まあな」

 「そか、よかった」

 蒼はそれを聞いて、満足そうに微笑みました。

 

 それから二人弁当を食べ終わると、どちらが話しかけるでもなく時間だけが流れてゆきます。

 その沈黙を破ったのは蒼でした。彼女は、弘也の顔を見上げて話しかけました。

 「高橋、くん。あの、さ……」

 「弘也でいいよ、まどろっこしい」

 「うん……弘也くん、ひとつ、聞いていい?」

 「何だ?」

 蒼は一瞬逡巡したようにうつむきます。そして再び弘也を見つめ、まゆをひそめて質問を浴びせかけました。

 「あの、弘也くん、やっぱり怖い人?」

 「あ?」

 弘也が目を細める蒼を見つめると、蒼はビクッと体を震わせてうつむいてしまいます。

 「あの、弘也くん、わたしに優しくしてくれて、でも、その、さっきのはちょっと怖くて、でも、やっぱり親切にしてくれて……」

 それでも蒼は黙ることなく、弘也に視線をチラチラと送り、せわしなく人差し指を上下させながらぼそぼそと呟きます。

 「つまり、俺の噂は本当かどうかってことか?」

 蒼は黙って首を縦に振りました。弘也はそんな蒼を見て、ふっと鼻で笑いました。

 「真っ赤な嘘だ。そんな奴らに関わったことはねぇし関わりたくもねぇ」

 「ほん、と?」

 「ああ。もっとも、この身に火の粉がかかることはあるけどな。そん時は払わせてもらうよ、全力で」

 「じゃあ、やっぱり信じる。きみが、いい人だって」

 蒼は安堵したように笑みを浮かべました。しかしその笑みは消え、また少し不安そうな顔をして弘也を見つめます。

 「でも、あの……じゃあさっきのあれって……」

 「ん? ああ、あれか。昔映画で見てな、それで覚えた。お前、前に言っただろ? 使えるもんは使うべき、ってな」

 「あっ……」

 はっとした顔で、蒼は弘也を見つめます。

 「ああやっておけば奴らは本気でビビるだろうし、お前に乱暴する馬鹿はもう当分はいないだろ」

 「あの……それじゃ、きみが悪者扱いになっちゃって、でも本当はいい人なのに……

 「俺をいい人だって信じてくれる奴がこの学校に一人いるなら、それで充分だ……周りがどう思うと、知ったことじゃねえよ」

 弘也はそれだけ言うと、ベンチから立ち上がって教室へと戻っていきました。


 放課後、図書室での用事を済ませた弘也は玄関に向かい、靴に履き替えて学校を出ました。

 「あ、来た」

 校門に差し掛かったそのとき、弘也の近くに蒼が足早に駆けてきました。

 「お前、帰ったんじゃなかったのか?」

 「きみを、待ってた。一緒に帰ろう、と思って」

 「待ってた? 俺がいつ帰るのかもわからねぇのに、か?」

 「うん。下駄箱に靴があったから、まだいるのかなって」

 弘也のその質問に、蒼はこくんとうなずいて見せます。弘也はそんな蒼を一瞥し、微笑みを浮かべました。

 「行こうぜ。遅くなる」

 弘也のその一言で、蒼は弘也と一緒に歩き始めます。

 うつむきながら、弘也と肩を並べて歩く蒼の顔には、始終照れたような笑顔が浮かんでいました。


 「高橋。今時間はあるだろうか?」

 翌日の放課後、弘也を誰かが昇降口で呼び止めました。振り向くと、そこには毅然としたたたずまいで腕を組みながら立っている女生徒がいました。転校初日、弘也を職員室へと案内した平手凛です。

 「平手凛先輩、でしたか。何の用ですか?」

 「ああ、少し私用でな。どうだ、時間は?」

 凛は弘也にぐっと近づくと、その細く澄んだ目で弘也を見据えます。弘也はそんな凛に、首を縦に振ってみせました。

 「そうか。では、早速」

 凛はうなじで結んであるその長い髪を揺らしながら振り返って、弘也をチラッと見ます。弘也は何も話しかけようとせず、ただその後ろに着いて歩いていきました。

 二人が向かったのは教室棟の向かい側、特別棟にある一室でした。ドアの上に飾ってある案内には『生徒会室』と書かれております。

 数分後、ポットに向かっていた凛は、弘也の方を向きなおしました。

 「本来なら玉露などが振舞えればよいのだが、あいにく予算が許してくれなくてな。ほうじ茶で我慢してくれ」

 弘也の目の前に、湯飲みが置かれました。いれたてのほうじ茶が湯気を立て、そのかおりが弘也の鼻腔に広がります。

 「実は、少し話せる場所が欲しくて案内した次第だ。いささか職権乱用な気もするが」

 自嘲するようにふっと苦笑した凛は、「さて」と改めて弘也を見つめます。

 「先日は、妹が世話になったな」

 「妹さん、ですか?」

 「ああ。私の妹、平手蒼のことだ」

 腕を組みながらあくまで毅然な態度を崩すことなく、凛は弘也に言ってのけました。

 凛のその言葉に、弘也の目は一瞬丸くなります。

 「やっぱり、といった顔をしているな」

 弘也が思っていた顔が表情に出たらしく、凛は弘也にふっと微笑みかけます。

 「さて、本題に戻そう。妹を助けた現場をたまたま目撃した人間がいてな。後で蒼を問いただしてみると、お前が助けてくれた、という。不良と言われていたお前が、とは一瞬思ったがな」

 「それはどうも」

 鼻で笑うように苦笑する弘也に、凛はふっと微笑みました。

 「まあ話を聞け。今朝方、妹に言い寄ったその男を少し締めてみた。そしたらあっけなく吐いたよ。お前に流れる噂の大半をあの男がでっち上げた、ということをな。妹にそれを信じさせて信用を失わせ、離れさせる。いわゆる離間の計のようなものだった、と」

 「……」

 「……呆れて物も言えんようだな。まあ安心しろ。学校の風紀を乱したその男には、生徒会長権限で制裁を加えておいた。これは一種の見せしめの効果もあるだろう。これで、この男は信用を失うわけだ。ブーメランだな、正に」

 弘也は、微笑を浮かべながらそんなことを言ってのける凛に一種の畏怖にも似た感情がふつふつと湧き出ていました。

 「さて、今回の件に関して私には忸怩たる思いがある」

 凛が神妙な面持ちで話を切り替えます。その凛の様子を見て、弘也は姿勢を正しました。

 「学校での妹の様子を伺えぬ不明が今回の事態を招いてしまった、ということだ。この点において、お前が果たした役割は決して小さくはない。そこで、だ」

 凛は、弘也の顔をきっと見つめ二の句を継げます。

 「何か私に、恩を返せることはないだろうか?」

 「……なら、ひとつお願いがあります」

 弘也は同じように凛を見据えると、その口を開きました。


 放課後、学校指定の紺のジャージに着替えた弘也は、体育館内にあるトレーニングルームにいました。後ろには、制服姿の凛が腕を組んで立っています。

 「ふーっ」

 大きく息を吐き、胸の前でクロスした腕を徐々に下ろして腰へと運びます。空気式のスタンディングバッグが、ゆらゆらと弘也の目の前で揺れていました。

 「いや大したものだ。最後の上段の回し蹴り二連続などは見ごたえがあった。私も、もっと体を鍛えなければ」

 「というと、先輩も何かスポーツを?」

 振り返った弘也は乱れたジャージを直して、凛のいる方向へと振り返りました。

 「ああ、合気道を少しな。と言っても、たしなむ程度だが」

 凛は、ふっと微笑みを浮かべて言いました。

 「それにしても、まさ申請手続きの仲介をさせられるとは思わなかったぞ、高橋」

 弘也が言ったお願いというのは、まさにこのことでした。学校にトレーニングルームを設置してはいるもののその使用規模は小さく、申請して使うことが必須の条件であり、その手続きに凛の力を借りたのです。

 「ええ、ありがとうございます。それにしても、よくこんなものが学校にありましたね」

 スタンディングバッグに手を置き、凛に話しかけると彼女は微笑みを返してそのいきさつを語りました。この学校には昔、空手部があったこと。そしてその練習にこれが使われたこと。今はほぼ使われなくなったが、一言声をかけると使用許可が下りること。この三つが、凛の口から語られました。

 「惜しかったな。空手部はこの学校にはもうない」

 「あしかけ七年、そろそろ別の道を探しますよ」

 「そうか、七年も」

 凛は感嘆の目で弘也を見ると、弘也はうなずいてみせます。

 「それに、またこうやってトレーニングさえ出来たら、それで十分です」

 「ふむ、いい向上心だ」

 凛はそれだけ言うと目を閉じ、何か思慮にふけるように黙ってしまいました。

 「……よし。ならば、今後もここを使いたければ声をかけてくれ。力になろう」

 凛は目を開け、快活な笑みを浮かべながら弘也の肩に手を置きました。

 「ありがとうございます」

 凛に対して、弘也は深く頭を下げました。

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