9 回想 夏の記憶 5
ピーと笛が鳴り試合が再開される。
青チームのフリースローから始まった。
「遠野!」
蓮は一年の遠野からパスを受け取り前を向く。
だが次の瞬間、彼の進路を塞ぐように海斗が現れた。
“ーっ海斗!!”
蓮は思わず、ゴクリとつばを飲んだ。
少し顔が怒っている気がする。蓮と違い静かな怒りだ。
“でも、今日は俺の方がずっと怒ってる!イライラする・・・とても・・・とても!”
蓮は、ドリブルで抜きにかかった。右に見せかけて左で抜く!
だが、抜けたと思った瞬間、海斗にボールを奪われた。
「!!」
「真田!」
海斗からの早いパス回しであっと言う間に速攻されてシュートを決められた。
「ちっ」
悔しそうに舌打ちをする蓮に海斗は言った。
「悪い癖が出たな。ドリブルが乱れてる。ボールに体の動きがついて行ってない。」
「うっ」
だが、これはまだかわいいものだった。
ディフェンスに入れば、
「なんだ。そのディフェンスは。突っ立ってて、ガード出来ると思ってんのか。」
シュートを打てば、
「そんなシュート打って入るか。肘が下がってるんだよ。」
コートで海斗を睨んでいると、
「足が止まってるぞ。もう、へばったか?」
言いたい放題だ。だが、今度は蓮も言い返した。
「なんだよ、さっきからイチイチ言いやがって。」
海斗も睨みながら言った。
「言わなきゃ、わかんねーだろうが。俺はお前の最高のプレーを見てきたんだ。
どれがベストな状態かわかってる。だから、逆にだ。
調子が悪い時のお前の欠点も、すべてお見通しなんだよっ!分かったらさっさと立て直しやがれ。」
「!!」
見るに見かねて北山が海斗をつつきながら言った。
「オイ海斗っ、頼むから煽るのやめろ!暴走してるやつに火に油注いでどうすんの?」
蓮はびっくりした顔で海斗を見ていた。その顔は少し興奮している。
“蓮、気が付いているか?俺は、お前と同じ事を言ったんだ”
「やさしくねぇなぁ」
蓮はぼそりと呟いた。そして徐々に調子を上げていったが、結局、赤チームの勝利に終わった。
部室には、蓮と海斗が残っていた。
今日から2週間後に1学期の期末テストが行われる。
その為、どの部もこの2週間は夕方6時上がりが鉄則だ。
どの部室にも誰もいなかった。
夏至がちょっと過ぎた頃のなので夕方6時でも外は充分に明るい。
蓮は長椅子に、海斗は壁にもたれ掛かっていた。
「で?」
海斗は蓮を見下ろしている。
「でっ?て、何。」
「お前が、イラついてる理由だよ。」
蓮は少し迷った挙句、ボソボソと言った。
「海斗が今日、告られてたの、見ちゃってさ。」
「!」
「それで、お前はその女子とどうなったのかと思うと・・・。なんか、こう、イライラッと・・・」
蓮が恐る恐る上目遣いで海斗を見ると視線がぶつかった。
「あの子なら、丁重にお断りしたよ。」
「あぁ、そう・・か。」
ほっとした蓮を見つめながら海斗は意味ありげに言う。
「なぁ、蓮。俺、その子に告白されてる時、どう思ったと思う?」
そんなこと、俺に聞くのか?と思いながら蓮は思考する。
「えっ?えーっと・・・俺って、もてるな!・・・とか?」
ははっと海斗は笑ったが、目が会った瞬間、蓮はドキリとした。
「違うよ。蓮が・・・こんな耳がこそばゆくなるような事、言ってくれたらいいのになぁ・・・って思った。」
「!!」
蓮は長椅子から立ち上がった。ゆっくりと海斗の方へ歩いてくる。
“本当か?海斗?マジで?信じられない。言ってもいいの?ー・・なら、告ってみるまでだよな”
蓮の手が海斗の頬にそっと触れた。
「好きだ。」
海斗の熱を帯びた瞳を見つめながら言う。
指先は頬から唇へ移り、その柔らかな感触を確かめている。
「好きだ、海斗・・・」
顔を近づけ唇を合わすと、この前と違い海斗は応えた。
何度も優しく啄むような口づけを繰り返した。
「っ、海斗っ。お・・前の・・・へん・じは?」
はぁとお互い顔を見合わせる。
「そんなもん、言わなくても・・・わかるだろ!」
真っ赤な顔をした海斗はかわいかった。
「俺だけ言わせんな。」
蓮はそう言うと海斗の顎を持ち上げ、押さえ込む様な激しい口づけを何度も交わした。
二人の息は上がり、頭がぼぅっとなる。
「かい・・っと・・・すき・・・す・きだ・・」
何度も何度も繰り返される蓮の声に心が震えた。
“あぁ、好きだ、蓮・・・蓮・・・俺もお前が好きだ・・・”
「ーれ・・ん・・・す・・・き。」
うわごとのように聞き取りにくい声だったけど、蓮にはそれで十分だった。