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冬休みが終わり、3学期が始まった。
海斗は、バス亭に立っていた。
夜明け前で、辺りは濃いブルーに包まれ深海の住人になったようだ。
ほぅっと大きく吐いた息が白く浮かんだ。
海斗は、鷹野からもらったマフラーに首を埋めた。
間もなくバスが到着し、ブザーと共に開かれた扉からステップを登り辺りを見回すと、いつもの席にいつもの様に鷹野がいて、こっちを向いてにっこりと笑った。
海斗は、近づいて鷹野が座っている2人掛けのシートに腰掛けた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
二人の肩や太腿が服越しに触れ合い、海斗はドクンと胸の鼓動が高鳴った。
“嬉しい。とても嬉しい。”
何もない自分たちの、数少ない“密着”
朝のこの瞬間が一番好きだった。
顔がにやけそうになるのを会話で誤魔化す。
「今日は、進路面談があるんですよ。」
「もう、決めたんだろう?」
「はい、理系をやります。出来れば地質学系でいこうかと思っているんです。」
「そりゃいいねぇ。」
鷹野は嬉しそうだ。
「将来の夢は一番は博物館の学芸員だけど、地質の専門になっても、どこかで接点ありそうな気がするんです。」
「地球の歴史は地層の中に記憶されている、か。
そうだな。そして休日、時間が取れたら、一緒に採掘なんかも楽しそうだなぁ。」
そう言いながら、鷹野は目を細めた。
「だけど、海斗。将来の夢もいいけど、週末行く所があるだろう?」
海斗は、その言葉に嬉しそうだ。
「はい。水族館でオウムガイ、ですね。」
「そうそう、それな。最初にチケット買ったんだけど川口からもペアチケ貰っちゃってね。」
海斗は、あはっと吹きだした。
「じゃあ、俺たち3回は行けますね。」
「あっはは。休みのたびにオウムガイか・・・。悪くないな。」
「俺は、他の魚も見たいです!」
少しむくれて言う海斗に、鷹野はお道化たように言った。
「お、おぉ、それは、もちろん。」
そして、海斗に顔を寄せると、海斗だけに聞こえるくらいの小さな声で耳元で囁いた。
「楽しいデートにしような。」
「!!」
耳まで真っ赤になった海斗は、暖房が効いて暖かい車内にもかかわらずマフラーに半分以上顔を埋めた。
「次は、桜通り3丁目~、桜通り3丁目~、お降りの方はお知らせください。」
朝の楽しい時間の終わりを告げる無常なアナウンスが流れた。
「じゃ、今日も一日頑張れよ。」
ニッカと笑って、海斗の頭をクシャクシャにした後、鷹野は桜通り3丁目のバス停でバスを降りた。
鷹野は、去りゆくバスに手を振って、颯爽と歩いて行く。
海斗もまたバスケ部の朝練に向かった。
生活サイクルは冬休み前とまったく一緒だ。
だけど冬休み前には、想像出来なかった変化が確かにある。
海斗は、ポケットから、鷹野にもらった琥珀を取り出した。
あの日以来、この石が海斗のお守りになった。
“まだまだ始まったばかりの“恋”だけど、ちゃんと育てていくから、お前も見守っててくれよ?”
海斗は、心の中で、琥珀の中の羽虫に語り掛けた。
二人の記憶が紡がれていく。
まだこれから先には色んな事があるのだろう。
しかし、人が人を好きになる事はそれだけで意味があるのだと、教えてくれたあの人を信じて生きていく。
力強く。前を向いて。
今も。
これからも。
ずっと愛して生きていく。
今まで読んで頂き、本当にありがとうございました<(_ _)>
最後の締めが浮かばなくて苦労しました(;´Д`)
この小説を軸にして、なんか書けそうな気もしますが、取り敢えず終了です!
全ての読者様に感謝を!また、小説でお会い出来ることを祈って(*'ω'*)ノシ




