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海斗は自分の部屋のベットの上に仰向けに寝そべっていた。
手には、鷹野からもらった琥珀がある。
石を覗いてみると、呼吸を止めた羽虫が微動だにせずそこにいた。
「これが、俺。」
鷹野に言われた言葉を思い出していた。
止まっていたはずの時間は、動き出した。
“景さんは、その事に気が付いていないんだろうな・・・”
ごろりと身体を動かし横向きになる。
“初詣、一緒に行きたい・・・”
投げ出した身体の横に、これまた放ったようにおかれた携帯がある。
“誘ってみる?ほらほら、よく言うじゃん。一年の計は元旦にありって。
それは今後を左右する訳で・・・”
海斗は琥珀を置くと、今度は携帯のアドレスをいじりだした。
が、結局何もできずに携帯をパタリと閉じて琥珀を眺めた。
もう、こんな事を数時間程繰り返している。
「海斗~!ただいま!」
父親は、朝から年末の買い出しに行って、ようやく帰ってきた。
「あら?お父さんどうしたの?」
少し興奮気味の父親に、台所でずっとおせちを作っていた母親が声をかけた。
「ふっふっふ!当たったんだよ!くじが!」
「あら!なに?テレビ?それとも温泉旅行?」
母親は、ワクワクしている。
「じゃーん!隣町の水族館のペアチケットぉ~」
「あっそ。」
母親は、急に興味をなくし台所へ戻っていった。
海斗は、部屋からリビングに出てきて、苦笑しながら一部始終を見ていた。
「海斗、はい。」
「俺?」
「うん。これ、期間限定のオウムガイも見られるらしいよ?こういうの好きなんじゃない?博物館の人ってさ。」
海斗は、ペアチケットを受け取った。
もしかして・・・これは、チャンスかも!
「父さん、ありがとう!!」
とたん、海斗は笑顔になって自分の部屋に戻っていった。
こういうのは、勢いがいる。そう、ちょっとでも盛り上がってるこの時に電話だ!
海斗は、携帯を握り鷹野へかけた。
『あ、景さん、海斗です。』
『おぉ!海斗、大掃除すすんでるか?』
『え!?えぇ、まぁ、ぼちぼち・・・』
数時間悩んでいたので、ちっともやっていない。
『はは、一年に一度じゃ、なかなか終わらないよな。ところで、どうした?なんかあったか?』
『大したことじゃ、ないんですけど、水族館の・・』
『お!水族館ね。そうそう、僕もね、海斗に言おうと思ってたんだ、水族館のチケットあるから、一緒に行かないかい?』
言おうと思っていた事を先に言われてしまった。
同じ事を考えていたのかと、海斗はほっこりした。
『実はね、景さん、僕もチケットあるんです。』
『あぁ、そうなのか・・・誰か他の人と行くのかい?』
『いや、だから、景さんと。良ければ、どうですか・・・』
『あ。あぁぁ、いいね!うん、いい。うんうん。』
鷹野は電話の向こうで、少し慌てている。
そして、鷹野の大きなため息が聞こえた。
『ごめん。ちょっと変な感じになっちゃって。海斗が言ってくれたことが嬉しかったから。』
それは、鷹野の素直な気持ちなのだとわかると、海斗も嬉しかった。
『・・・うん。』
頬を少し赤らめて、海斗は頷いた。
『それから・・・それから景さん、よければ初詣、一緒に行きませんかぁ?』
少し甘えた声になっていたかもしれない。
いや、きっとそのせいだ。
『・・・っ!』
電話の向こうで、声に詰まった高野がいた。




