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次の日の博物館。
鷹野は、意外な光景に目を見張った。
海斗が、彼によく似た中年の男性を連れて博物館へ来ていた。
まだ海斗の勤務時間には早い頃だ。
微妙な距離を保ちながら、それでもいくつかの標本を、海斗が指でさして中年男性に説明をしている。
彼は、うんうん頷き、時に感心しながら海斗の話を聞いていた。
鷹野は、その様子を見ながらなんだか、ほっこりとした気持ちになった。
「親子っていいもんだなぁ。」
小林が、それを聞いて鷹野と同じ方向を見る。
「あれは、雪宮君のお父さんですかね。」
「だろうね。目元がよく似てる。」
「だったら、珍しいですね。」
小林が、面白そうな顔をした。
「なぜ、珍しいんだい?」
「だって、雪宮君、知り合いには絶対に言わないって言ってましたよ?」
「そうなのかい?」
「はい、川口さんにも、誰にも内緒でってしきりに頼んでましたから、間違いないです。」
「そうか・・・。」
初めて、自らここへ招待したのが自分の父親という事は、けっこういい話が出来たのかもしれないな。
「それじゃ、これで持ち場へ戻りま~す。」
小林は、エントランスへ歩いて行った。
「俺も、もう一度、あたってみるかな・・・」
鷹野は、遠い日を思い出していた。
彼の場合は、結局、和解は出来なくて大学の時、家を出た切り一度も実家に帰っていない。
海斗は、鷹野を見つけ歩み寄って行った。
「こんにちは。」
「やぁ、今日は親父さんと一緒かい?」
「えぇ。俺が働くところがみたいんだそうです。」
「そうか。スタッフならではの、案内をして差し上げたらいいよ。」
鷹野はにっこりと笑った。
「あの、親父が、景さんに挨拶したいって言ってるんですけど。」
「えっ!?僕に?」
「そうです・・・だめでしょうか・・」
「いや、えっと、そ、そんな事はないよ。うん。うん。・・・」
コホンと咳払いをすると、顔を引き締めて言った。
「是非とも。・・・あ。海斗。ネクタイ曲がってないかな?」
「えぁ?大丈夫ですけど?」
「あぁ。そうか・・。さあ行こう。」
「??」
海斗は、怪訝な顔で聞く。
「景さん・・・なんで緊張してるんです?」
言われて、鷹野はぶわっと顔を赤くした。
「そりゃ、親の挨拶は緊張するでしょ。」
「そんなもんですか??」
「・・・・」
二人が全面ガラス張りの休憩室へ行くと、海斗の父親は窓から庭を見ていた。
「こんにちは!今日はようこそお越しくださいました。」
「いえいえ、こちらこそお忙しい中お邪魔して、すみません。」
鷹野は、おもむろに名刺を取り出すと父親に差し出しながら自己紹介をした。
「当館のスタッフの鷹野と申します。」
「海斗の父です。息子が大変お世話になっております。」
お互いペコペコと頭を下げているのが、海斗には可笑しくて笑いそうになった。
「こちらこそ、雪宮君は優秀なアルバイトでとても助かっているんですよ。」
「いやいや、息子の方こそ、いい指導をして頂いているみたいで、本当に息子の成長には驚かされました。」
「雪宮君は、覚えがいいですからね。」
海斗は、傍で聞いていて、背中がが痒くなる。
「あ~、もういいじゃん!本人の目の前でそんな事言わないでよ!」
「ははは、海斗、照れてるのか。」
父親が笑いながら、海斗に下の売店まで買い物を頼んだ。
海斗は、ブツブツ言いながら地下の売店へと降りていく。
休憩室には、他に誰もおらず二人っきりになった。
「鷹野さん」
「はい?」
鷹野は呼ばれて、背筋がピンと伸びるのが解った。
「不器用な息子ですが、どうぞ海斗の事をよろしくお願いいたします。」
海斗の父親は、深々と頭を下げていた。
「雪宮さん、頭をあげて下さい。」
父親が、頭を上げると鷹野はにっこりと笑い頷いた。
「こちらこそ・・・、彼は可愛い弟のような存在です。
だから僕は海斗君を傍で見守って行きたいと思ってるんです。」
海斗の父親は、少し驚いた顔をしていたが、何かを理解したのか頷いた。
「よろしくお願いします。」
そう言って、また頭を下げた。
海斗の勤務時間が来ると、父親は帰って行った。
「あ~。緊張して肩が凝ったぁ。」
鷹野が、疲れた顔で言う。
「え?何かあったんですか?」
海斗がキョトンとして言うと、
「海斗~、お前だろうが!」
「なんで?親が挨拶に来たくらいで?」
「それ、それ!それが原因。まったく、お前は・・・」
呆れ顔で鷹野は溜息をついた。
あはははと笑う海斗の顔は、憑き物が落ちたようだ。
「海斗。親父さんとの話、いい結果のようだな。」
海斗は、頬を緩ませ、赤くなりながら嬉しそうな顔をして、はいと頷いた。
「!」
鷹野は、一瞬呼吸が止まった・・・。
“なんだ・・・今の・・・”
鷹野の心臓がうるさくなり始める。
“今、一瞬・・・海斗が可愛くみえた・・・”
それは、弟では無い、別の可愛さで・・・




