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今日に限って、部活は無いし、博物館もローテーションでお休みになっている。
海斗は家に居たくなくて、街に出かけた。
街は年末年始一色で、皆、新しい年の準備に大忙しだ。
海斗は、街を歩くのをやめ映画館へ行った。
今日は特別デーでは無いのだが、この冬一押しの映画は満席だった。
海斗は特に見たい映画がある訳ではなかったので、小さなホールで上映されるマイナー映画を見ることにした。
主人公の明るいブルーのスーツが印象的なそんな探偵映画だった。
そんな派手なスーツで目立たないのか?とずっとそこが気になって、内容はよく覚えていない。
話的には纏まっていたような気がするのだが、映画館から出た後も、その明るいブルーが目に焼き付いて離れなかった。
そのブルーを見ている内に、海が見たくなった。
だが、海岸から見える冬の海は海斗が想像する海の色とは違い灰色をしている。
「もっとこう、南国の海なんだよな。」
駅前を通ると、隣町の水族館のポスターが貼ってあった。
ポスターは冬のイベント紹介と共に『オウムガイ特別展示』と書いてあった。
「オウムガイか。生きた化石、見てみたいなぁ。」
鷹野の顔が浮かんだ。
「鷹野さん、行くのかな・・・」
そう言えば昨日、鷹野から“景さん”と呼ぶようにいわれたんだっけ。
元はと言えば、海斗が鷹野に名前呼びを強制した結果なのだが。
「景さん・・・」
ぼそりと呟いて、なんだか照れ臭かった。
『親父さんとの事は、親子なんだ。しっかり話をしたらいい。』
鷹野の言葉を思い出し、海斗は覚悟を決めて家に帰ることにした。
「ただいま。」
海斗が家に入ると、玄関にくたびれた男物の靴があった。
どうやら、父親は帰ってきたようだ。
母親はこの時間は仕事で留守だ。
中に入ると、リビングでぐったりとソファに身を埋める父親がいた。
「父さん、お帰り」
「あぁ、海斗か!元気にしてたか?」
父親は、首だげ海斗の方を見てニッと笑った。
リビングのテーブルには、外国のチョコレートが入った箱があった。
「どうだ、食うか?けっこう旨いぞ?」
父親は、チョコレートを海斗に勧めた。
「今は、いいよ。」
「そうか」
と残念そうに言いながら父親はソファから立ち上がり、隅に置いたままのスーツケースから、ごそごそ何かを取り出し始めた。
「これじゃなくて~、あぁ、これでもない!う~ん、どこだどこだ?」
父親は、スーツケースの中身をどんどん外へと置いて行くと周りに山積みにした。
「あぁ!あった!これだ!これ・・・つまらないものですが・・・」
等と言いながら、包みを海斗に渡した。
「また、つまらないものを買ってきたの?」
海斗は苦笑しながら、包みをあけた。
それは、代理石でできた手のひらサイズの入れ物だった。
真っ白な石にメノウ、ラピスラズリが埋め込まれ模様を作っていた。
「これは?」
「それは、あれだ。小物入れ。」
「そりゃ、見ればわかるけど・・・でも、なぜ俺の土産なんだ?」
「だって綺麗だろう?母さんへの土産は買ってしまった後だったから、海斗にあげようと思って買ってきたんだ。」
「つまり、衝動買いって事だね。」
海斗は、呆れながら笑う。
でも、今回はまだいい方だ。以前はよく解らない部族のお面やら、呪われそうな木彫りの人形やらを土産だと言って買ってきた。
「多少、趣味はよくなったんじゃない?」
そう言うと。父親は
「そうか?」
と照れ笑いをした。
ガタガタっと音がして、山積みにされたスーツケースの中身が一部崩れた。
「あぁ、落ちてきたね。」
海斗は何気なく、その山を見てふと視線を止めた。
そこには、数冊の本があって海斗をドキリとさせた。
「これは・・・」
海斗は気になった本を拾い上げた。
父親は、先程と違い、真面目な顔で海斗を見つめた。
「父さん、母さんから聞いた?」
海斗は、俯きながら問いかける。
「ああ。」
父親は、短く答えた。
「父さん・・・。俺さ、普通の恋愛が出来ないみたいなんだ。異性を好きになれなくて・・・。
だから・・・ごめん。」
沢山伝えたい事があった。
“両親の世間体がある事も分かっている。
自分の息子が、男を追いかけ回す事にがっかりしただろう。
ここまで育ててくれたけど、俺は、二人の期待に添えないみたいなんだ。
孫の夢、見せてあげられなくて、ごめん・・・期待を裏切ってごめん・・・”
だが、父親は首を振る。
「父さんこそ悪かったなぁ。」
なんで・・・謝るの?
「お前や母さんが苦しい時に、傍で支えてやれなかった。」
父さん?
「母さんは、どう接していいか解らずオロオロしたと言うし、その話を聞いたのは帰国が決まった、ほんの一週間前なんだよ。」
父さん・・
「海斗は、ずっと不安だったろう。すまなかったなぁ。」
「父さん!!」
海斗は目頭が熱くなった。
「なぁに、叱られるかと思ったのか?」
海斗は頷いた。
「ふっ、馬鹿だなぁ。離れて暮らす事が多いがお前の幸せを祈っているよ。」
父親は、海外では同性同士の結婚もあるし、同性愛者の同僚もいる事を海斗に話して聞かせた。
「海斗や、蓮君だけが持ってる悩みじゃないんだ。少数派である事には変わりがないが、それは特別な事じゃない。だから、海斗は海斗らしく生きていけばいい。」
父親はにっこり笑った。
「うん。ありがとう、父さん。」
海斗は何度も何度も頷いた。




