5 回想 夏の記憶 1
仮面を被ったのか、それとも元々付けてた仮面を剥がされたのか分からない。
だけど、惹かれあったのは確かだ。
高校2年の夏のインターハイ県予選、ベスト4をかけ優勝候補の高校と対戦した。
早いパス回しと、正確なシュートで翻弄され、結果は惜しくも負けてしまった。
試合後、学校へ帰った彼らは部室に集まった。
3年のキャプテンが天井を仰いで言う。
「あぁ、これで俺たち、3年の部活が終了だ。」
「でも、俺たちだけじゃ、ここまでこれなかったよな。」
3年の先輩は、やりきった顔で言った。
「そうだな。今日も、蓮のシュート、何本決まったかわかりゃしねぇ、半分以上は持っていってるんじゃね?」
「間違いなく、そうですね。」
蓮は、さも当然だと言わんばかりに答えた。
「しれっと言いやがって~。」
はははと笑いながら、先輩は蓮の頭をグリグリしている。
「痛いっす。先輩。」
「それに海斗。お前もよく周りが見れてた。熱くならずに冷静な指示があったからこそ、相手をあと少しまで追い詰められたんだ。」
くくくと笑いながら、他の先輩も海斗の頭をグリグリしてきた。
「あっ、いたたたっ」
「この痛みを忘れるな!そして2年、1年!!今以上のいいチームになって来年は、全国までいってくれ!」
「ウス!!!」
後輩たちはできる限りの大きな声を出し、先輩からの意志を受け継いだ。
「・・・思った以上に、しんみりするな。」
帰り道、海斗は沈む大きな夕日を見ながら言った。
「ん?なに?先輩たち?」
蓮は、アイスを食べながら海斗の横に並んで歩いている。
「なんて言うかさ、先輩たちいつも仲が良くて、結構熱い人ばっかだったから。」
「確かにね。むさ苦しいのが居なくなって清々する反面、居て当たり前だったのが急にいなくなって物足りないっていうか。」
「清々するって、お前・・・。」
呆れ顔で蓮を見ると、彼はものすごく寂しそうな顔をしていた。
憎まれ口は、相変わらずだなと思い海斗はクスっと笑った。
「あー、海斗!今、俺の顔見て笑ったな。」
「あぁ、ごめん、蓮の変顔が面白かったから。」
「変顔なんか、してねーし!」
帰り道の途中公園を通ると、今日はバスケットゴールのあるコートには誰もいなかった。
「ね、海斗、久々やらねぇ?」
「なに?タイマン?」
蓮は、バックからボールを取り出すと
「ん!」
と言って、海斗に見せた。
「お前、ボール持ち歩いてんの?」
またも呆れ顔でいうと、蓮はキラーンとした笑顔で言った。
「おう、携帯、財布、バスケットボール、俺の三種の神器。」
「何それ。」
海斗は笑いながら、通学カバンと部活のバックをベンチに置いた。
蓮との身長差は10センチ。189センチもあるデカイ蓮のディフェンスをするのは、ほんっと苦労する。
何故なら、サイドステップもフェイクもダメだと分かれば、力技で来る。
「ったく!どんだけ押してくんだよ~」
「空中戦なら、海斗に負けねぇ。」
「くそ~。」
どのくらいしてたのだろう。真っ暗になるまでやって、外灯が辺りを照らしてた。
はぁはぁ息を付きながら、二人はコートに座り込んでいる。
「あぁ~。負けた~。蓮は隙がないな。」
ぐったりとした海斗は、コートに大の字に寝転んだ。
「いつも試合とかでは、あっさり抜かれるくせに、俺とやる時はぜんっぜん崩せない。」
はぁ~と大きな溜息をつく。
「海斗の事は、わかるから。」
隣に座っている蓮が、寝ている海斗を上から覗き込んできた。
「わかるって、何が?」
外灯が、蓮の顔に影を落とす。
「全部?」
「なんで、言ってるお前が疑問形なんだよ。」
「全部じゃないか・・・。でもわかる。海斗の息遣い。フェイクのタイミング、ステップのリズム。それに、パスをどこに出そうかとか。」
「・・・。」
「コートのどこにいても、海斗のいるとこは」
蓮の顔が近づいてくる。
「わかる・・・」
柔らかくて温かな感触が唇に触れた。
海斗は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
「でも。全部じゃない・・・」
そう続ける蓮を海斗は凝視した。外灯の影で蓮の表情が読み取れない。
「海斗の気持ちは・・・わからない。」
そう言うと蓮はもう一度、唇を合わせた。