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38  回想  夏の記憶 24

少し時間を巻き戻したい。

それは、海斗が吉川さんからの電話を受け取る前日。


 蓮は、母親に連れられ、とある山の頂上にあるホテルに来ていた。

“なんで、こんな背広なんて着なくちゃならないんだ。”

移動中の車の中、心の中で文句を言っていた。

母親は何を企んでいるんだろうか?不安がよぎる。

ほどなくして、着いたホテルは、こじんまりとしていたが趣があって周囲の森と溶け込んでいた。

白壁を基調とし、各所に赤煉瓦を使用した作りは、どこかメルヘンな雰囲気だ。

例えば7人の小人がこのホテルから出てきても、不思議には思わないだろう。

「ここで何をするんです?」

蓮は車から降りて、母親の後について歩きながら探りを入れた。

「ここで、お食事をするのよ。とっても親しい方とね。」

“本当に食事だけか?”

蓮は、スラックスのポケットに手を突っ込み半信半疑で母親を睨み付けている。

係員に案内されて、入ったのは和室の離れで、そこには先客が来ていた。

女性が三人。うち二人は中年でもう一人は若かった。

蓮は、嫌な予感がした。

「今回は内々だけの軽い顔合わせということで。」

端に座ったおばさんが、その場を進行させていく。

「こちらは、七乗蓮さん。まだ、高校生ですが成績優秀、この先が楽しみな好青年ですのよ。」

“なにが、成績優秀なもんか。この前の期末では赤点続出ですよ~。”

蓮は薄く笑いながら、心の中で、おばさんにあっかんべーをした。

「そして、こちらは斎藤都さん。○○短期大学で、栄養士をめざして日々勉強なさってるんですよ。さぁ、さぁ、これで紹介が終わりました。お二人とも、質問があれば、遠慮なくおっしゃってぇ。」

蓮はこの食事会の意味を悟った。これは、お見合いだ。

“はっ、なにが親しい方との食事会だ!”

完全にハメたな。連は怒りで台の下で握った拳を震わせた。

母親は無理やりにでも海斗と俺の仲を裂く気だ。

“ふぅ~ん”

蓮はすべてが面白くなかった。

しばらく、のらりくらりと時間を費やすと、仲人は決まり文句を口にした。

「ここは、若い二人で、中庭なんかでお話をされるといかもしれまんせんね?」

ほほほと仲人が笑う。

じゃぁと、蓮の母親と斎藤さんの母親、それに仲人のおばさんが席を立ち、部屋には斎藤都という女性と二人だけになった。二人は中庭へ移動した。

中庭は、花壇があり、夏の花々が咲き誇っていた。

「これって・・・お見合いなんですかね?」

蓮は、一応確認をとってみた。

「そうよ?聞いてないの?でも今日の相手があなたで良かったわ。」

斎藤さんが蓮を見て、にこりと笑いかけながら言った。

「それは、どうも。」

「どんな強面がくるかと思ったの。でも、まぁ、あなたなら、悪くない感じかな。」

相手は年上なのでタメ口だ。

「俺は、申し訳ないけどあなたとは、お付き合いする気なんてさらっさら無いんですが。」

「あらぁ、はっきり言うのねぇ。」

斎藤は、面白そうな顔をして蓮を見つめた。

「出来れば、あなたから断っていただきたいのですが。」

「それは無理よ。」

「なんでですか?」

「あなたのお母様の経営するホテルの融資を、うちの旅館が受けることになってるの。業務提携とかいってね。」

“あのババア!先方が断れない相手を探して俺に見合いをさせたっていうのか!”

「だから、私から断りを入れるのは無理なのよ。」

「・・・。斎藤さんには・・・」

蓮は、斎藤を睨み付けながら言う。

「えっ?」

「斎藤さんには、好きな人とかいないんですか!?」

彼女は蓮の気迫に面喰った。

「・・・いるわよ。」

困った顔をさせる気はなかった・・・。けど、斎藤さんは、少し諦め顔で言った。

「いるけど、どうしようもない事だってあるじゃない?」

「・・・。」

答えは決まった。

“断れないのなら、俺がぶち壊せばいいんだよな?”

「斎藤さん、なんだか顔がテカってますよ?化粧室で直してきた方がいいんじゃない?」

斎藤は、驚いた顔をしたが、目を少しだけ細めると、

「そうね、私はしばらくお化粧室へ行って、化粧を直してくるわ。」

そう言いながら、斎藤は中庭を出てホテルに戻った。

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