34 回想 夏の記憶 20
「ほう。」
蓮の父親は、机の上で組んでいた手を解き、椅子の肘掛へと移した後、その身を椅子の背凭れへと委ねた。
「蓮は、私と駆引きをするのかね?」
父親は、先ほどから余裕の顔だ。
「駆引きだなんて、僕はただ、僕自身が自由になる理解と了承を乞いているだけです。」
蓮は、まだ父親を見据えたままだ。
手持ちのカードは全部切った。
後は、もう押し通すか、それとも・・・。
父親は、ふうんと言ったっきり、何やら暫く考えていた。
静まり返った部屋には、僅かに動く空調が聞こえるだけだ。
蓮は、その時間が、とても長く感じた。
ようやく父親が大きなため息をしながら、組んだ足を組み替えて言った。
「ふむ。お前の揺らぎ無い気持ちはよく分かった。」
その言葉を聞いて、蓮が身を乗り出した。
「では!!」
もしかしたら、叶うかも知れない!
「まぁ、待て。」
蓮は嫌な予感がして、額に手を当てた。
「なんだと言うのです?」
蓮は、ものすごくイライラした。
「財産と引き換えに自由をくれとお前は言うが、まぁ、悟の件に関しては、私がお前たちに迷惑を掛けたのだ。済まないと思っている。
だから、という訳ではないが今回はお前にチャンスをやろうと思う。」
「チャンス?」
「そうだ。ビジネスに置いては、交渉が大事な場面も多い。
お前も鍛え上げれば、何とかなりそうじゃないか。」
“なんだか怪しい雲行きだ。このオヤジは、俺に何をさせようって言うんだ?”
「お前・・・アメリカへ行って勉強して来い。」
「はっ???」
“何の事を言ってるんだ?この色ボケおやじ!”
心の中で、散々悪態をつく。
「何故、アメリカなのです?」
「ヨーロッパでも良いが、お前はアメリカの方が向いている気がするな。」
どこにも向いていない。第一、日本語以外喋れない。
「そうではなく、何故海外へ行かねばならないのです?」
父親は、ふっと笑い言った。
「そのうち、分かる。」
むっとした蓮の顔を見て、父親は付け足して言った。
「お前が25歳までに、何とか一人前になればお前の恋愛には、一切口出しはしない。
それに、今あるもの、すべてもお前に譲る事にしよう。」
ー!!!!ー
「な・・・なんで・・・」
「簡単な事だ。経営者という職業は、世襲制だけで乗り越えられるほど、この世は甘くないという事だ。
だが、逆に才能があって、その才が開花すれば自ずと道も開かれる。
冬の寒さに耐えた花ほど美しいのは、桜を見れば充分だろう?」
俺は、ビジネスの話をしに来たんじゃない。
「じゃぁ・・・海斗との事は、認めてくれるんですか?」
「それは、お前が25歳にならないと、どうにも。今は返事は出来ないな。」
「・・・」
上手く逃げられた感がある。
「なに。25歳までに一人前になれば問題ないさ。まぁ、簡単じゃないがな。」
「はぁぁぁぁ。」
蓮は、大きな溜息をついて、ソファにうずくまった。
さて、どうしたものか・・・
海斗は・・・海斗ならどうするんだろう・・・。
蓮は、無性に海斗に会いたかった。




