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33  回想  夏の記憶 19

 蓮の家では、夜になり父親が帰って来た。

昼間は、海斗と一緒だったソファは今は一人で座わり、反対側には両親が座っていた。

『ちょっとここに座りなさい。』と母親に言われ座った時は、父親に一発殴られる覚悟だった。

だが、殴る様子は見られずに、父親はただ黙って座ってる。

昼間の事は母から聞いているのだろう。

「あなたからも、男性とお付き合いすることを辞めるように、仰って頂けませんか。」

母親は、業を煮やして父親を急き立てた。

「僕は、本気で海斗の事が好きなんです。この気持ちは、誰にも止められるものではありません。

だから、どうか僕の事は諦めてもらえませんか?」

堂々巡りの様なこんな会話をずっと続けている。

ここで折れては負けだが、もう心底うんざりする。

黙っていた父親は、ようやく口を開いた。

「蓮、明日から2日間、私と共に来なさい。」

それだけ言うと、彼は自室へと向かった。

「ちょっと、あなた!!」

母親は、明らかに動揺しているようだ。

「何とかしなければ・・・何とか・・・」

彼女は思い詰めたように、ブツブツと繰り返すばかりだった。


 翌日、蓮は父親に連れられ、彼の所有する土地やらビルやらマンションやらに連れて行かれた。

その日は遠くまで来た為、家に帰れずに母親が各所で経営するうちの、一軒のホテルに泊まり豪華なディナーを食べた。

次の日には、今度は都心へ戻り父親の経営する会社に案内された。

最終目的地の社長室に通されて、黒張りのソファに腰を降ろした蓮は、疲れた顔で天井を見ながら言った。

「あなたの仰りたい事は、分かっています。前にも一度同じことがありましたから。」

「そうか?」

父親、ここでいう社長は優雅な社長椅子に座り、机に手を組んで座っている。

「“お前は、この2日間で見たすべての物を手に入れることが出来るのだぞ。”そう言われました。

“だから、行動を自重せよ”と。とても分かりやすい説得でした。」

「あの時は、なんでそうなったのだったかな?」

父親は、懐かしそうに言う。

「あの時は、僕が私立の中学でなく、市立の中学に行きたかったのですが、お二人から反対されて家出をし、連れ戻された時にそう説得されたのです。」

「ふむ、昔から無茶ばかりやりおるな。だが、市立に通った。」

「中学では、バスケで全国へ行きましたから。それが市立に通う為の約束でした。」

「あぁ。そうだったか。」

「・・・。」

二人の間に沈黙が訪れた。

「昨日・・・。お母さんに、“誰が後継者を残すの”と言われました。“それは、女性のプライドですか?”と言い返すと、頬にビンタをされました。」

「はぁ。また、なんでそんな事を言うんだ。」

父親は困惑顔で言う。

「その話の時に・・・海斗が傷ついた顔をしたから・・・。」

母親にそう言うと怒るだろう。だが分かってて煽るような事を言った。

「まったく。それでは母さんにビンタを張られてもしかたないぞ。」

蓮は、この部屋に入って初めて父親をまっすぐに見た。

「僕は、このビンタは、とばっちりだと考えています。」

ん?とした顔で父親は蓮を見た。

「僕が男を好きだと言っても、あなたがお母さんより焦ってないのは“悟”がいるからでしょう?」

「・・・。」

「いざとなれば、悟を正当な後継者にすればいいとお考えなのでは?

でも、そうなるとあなたが持っているすべての富を愛人の子に取られるとお母さんは考えている。

“愛人に全てを奪われた哀れな正妻”それが、あの人のビンタの本当の理由だと思っています。」

「なかなか手厳しいな。」

「でも、僕は財産より自由が欲しい。」

「何が言いたいのかね?」

蓮は、感情が読み取れないような顔で父親を正視した。

「僕が、昨日今日と見てきたものを、全て悟に譲ると言えば、あなたは僕に自由をくれますか?

それくらい、僕は本気です。」


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