32 回想 夏の記憶 18
海斗と蓮は、蓮の家の広々としたリビングのソファに並んで座っている。
弾力があってゆったりと座れるこのソファは、何事もなければ随分寛げたであろう。
目の前には蓮の母親が腕を組んで座っていて、その顔は少し青ざめている。
海斗は、初対面の蓮の母親に対する居心地の悪さと、隠していた関係がばれた事による後ろめたさを感じていた。
「あなた達、部屋であの様にふざけるのは、良くないと思います。今後は謹んでいただかないと。」
視線は、斜め横を向いていて、二人に視線を合わせようとはしない。
どうしたものか、困惑した様子がその態度に現れている。
蓮は、そんな母親を正視しながらきっぱりと言う。
「ふざけてなどいませんし、今後もやめる気はありません。僕たちは本気です。」
「蓮、あなた何を言っているの?そんな事が許されるはずがないでしょう!」
蓮の母親は、彼を睨んで怒鳴りつけた。
だが、蓮は怯む様子など見せない。
「何を言うかと思えば。今まで、息子に手料理ひとつ食べさせたことがないくせに、今更、親の顔で説教なんて辞めてください。
これは僕の恋愛で、僕の事情です。恋をするのに誰の許しがいるんです?
そんな事までお母さんに干渉されたくありません。」
海斗は、ずっと蓮を見ていた。
それは、海斗の知らない蓮の顔だった。
タメ口じゃない蓮なんて、見たことない・・・。
先生にも、先輩にも、目上の吉川さんにも敬語を使わなかった。
時に敬語を使わないのはどうかと思ったけれど、でも今は逆に尊敬というより隔たりを感じる。
“どれだけ、寂しい思いをしたんだろうな。”
海斗は胸が苦しくなった。
「そんな事、大人になってから言いなさい!それに、蓮、あなたはこの家を継ぐ唯一の息子なのよ。
あなたが継がなくて・・・誰が・・・誰が次の後継者を残すの?」
それを聞いた蓮は冷めた目で言った。
「それは、女のプライドですか?」
パチンッ
母親は蓮の頬を叩いていた。
「違うわ!」
彼女は怒りで震えていた。
「男が男をなんて、考えただけでも・・・あぁ・・。
雪宮君、悪いけどあなたは、これ以上蓮に付近づかないで頂けますか。」
そう言う母親の声は、ものすごく嫌悪感を含んでいて、海斗は何も言い返すことが出来なかった。
最悪の帰り道だった。
頭の中が真っ白で、どう帰ったか覚えていない。
空を見上げると、青い空が灰色に見えた。
「・・・」
心が曇ると空まで曇って見えるんだな。
これから、僕等はどうなってしまうのだろうか・・・。
蓮の母親の言葉が頭から離れない。
『誰が次の後継者を残すの?』ってつまり、子供の事だよな。
それは、自分の家でも同じ事だ。
確かにそうだ。男同士じゃ子供は産めない。
でも、そんな事を言われたら、俺たちではどうしようもないじゃないか。
・・・、俺は間違っているのか?
この“愛”は、あってはならないものなのだろうか?
家に帰ると、どうやら蓮の家から連絡が入ったようで、海斗の母親も帰ってきていた。
「海斗。」
心配そうな顔を見ると、熱いものが込み上げてきた。
かあさんも、俺に“孫”を期待した?
「かあさん・・・ごめん・・・。」
体を小さく震わせて、耐えるように泣いた。
“一生懸命育ててくれた両親に対して、俺は、親不孝をしてしまったかも知れない”
と自分を責めた。




