30 回想 夏の記憶 16
夏休みが始まった。
今日もバスケ部の朝練が始まる。
だが、早朝なのはラッキーだ。
昼の時間帯だと、少し動くだけで汗が出て止まらない。
「今日も暑くなりそうだなぁ。」
海斗は青い空を見上げた。
うるさく鳴く蝉の声に、頭までやられそうだ。
「野郎ども、始めるぞ。」
北山の大きな声が体育館に響いた。
ストレッチの後、フットワークやコートを使用したダッシュで汗をかく。
体が動くようになると、次はパス練習だ。
海斗と蓮はいつものように、二人で組んで練習を始める。
中学から始めて、もう、どのくらい二人でパスを出し合ったか分からない程だ。
ボールは何度も何度も二人の間を行き来した。それが当たり前であるように。
ツーメンランニングやフォーメンランニングの練習を終えると北山は休憩を取った。
「15分の休憩だ。水分補給、忘れんなよ。」
「ウス」
皆、びっしょりと汗をかいていた。
「あちぃ~。」
東と真田は着ていたシャツを脱いで、タオルで拭いている。
「海斗、顔を洗いに行こうぜ。」
「そうだな。」
海斗と蓮は、外にある水道へ向かった。
6つ蛇口が備えられた水道の水は、最初は生ぬるかったが、徐々に冷たくなっていった。
二人して、バシャバシャと洗う。
校庭では野球部が朝練を始めていて、カキーンとバットで球を打つ音が等間隔で聞こえてきた。
「頑張ってるねぇ。」
「あぁ、うん。明日、試合があるらしいよ。立花が言ってた。」
蓮が、ん?という顔をした。
「立花?」
「あぁ、同じクラスのやつだよ。」
海斗は、フーと言いながらタオルで顔を拭いている。
「・・・」
蓮は蛇口を海斗へ向けると、手を当てて思っいきり水栓を回した。
勢いよく海斗に水がかかる。
「なっ、何すんだよ!」
海斗は蓮を睨みつけた。
「他の男の話、するからだよ。」
蓮は、当然とばかりの顔をする。
「おまっ、どんだけ嫉妬深いだよ!」
海斗は、怒るのを通り越して呆れてしまう。
「ほんっと、シャツもタオルもびしょびしょじゃねぇか。」
ぶつぶつ言いながらシャツの裾を握って絞っていると、蓮の手が伸びてきた。
「な、なに・・・」
手は海斗の濡れたシャツの上から胸をなぞる。海斗はフルっと背筋がなった。
「なんか・・・透けててエロイ・・・」
蓮の目は、色気を含ませて海斗を見つめている。
ー!!!!!ー
「誰がしたんだっ、バカヤロー!!!」
海斗は濡れたタオルを蓮に思いっきりぶつけると、ドカドカとその場を去った。
「おっと・・・」
ぶつけられたタオルを拾い上げる。
“怒った顔もまたいいんだけど。”
蓮は、その後ろ姿を愛しげに見つめながら思った。
“信じらんねぇ、信じらんねぇ、信じらんねぇぇぇ”
海斗は恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら、着替えのシャツを取りに部室へ行った。
朝練が終わり、メンバーはぐったりとなりながら、それぞれ学校を後にする。
「海斗、今日もうち来る?」
最近は、朝練が終わり昼をどこかで食べた後は、蓮の家に行くことが多くなった。
蓮の家は、数人のお手伝いさんがいる程、立派な家だが蓮の両親にあった事は今までに一度もない。
仕事が忙しいのだそうだ。
「うん、宿題持って行く。一緒にやろうぜ。」
海斗の家も両親は共働きだが、父親は技術者で今は海外出張をして家にはいない。
二人共、親の不在に慣れっ子だった。
「じゃぁ、ばぁちゃんに、昼飯作ってもらおうか?」
「いいねぇ、吉川さんの料理、俺好きだ。」
蓮の言う“ばぁちゃん”とは、吉川さんというお手伝いさんで血の繋がりはない。
だが多分、蓮は家族よりもこの人に一番心を許している。
携帯を出すと、しばらくして繋がった様だ。
「あぁ、ばぁちゃん?俺。今日さ、海斗も来るから昼飯2人分頼むわ。うん。うん、わかった。じゃね。」
通話を切ると、
「焼き飯でいいかってよ?」
「おぉ!俺の好物じゃん!」
「ばぁちゃん、海斗の好みもリサーチ済かよ。」
海斗と蓮は、フフフと笑い合いながら昼食を楽しみに帰り道を歩いて行った。




