29
クリスマスイブの夜は更けていく。
大人たちはアルコールもまわり、いい具合に陽気に酔っている。
「ふぁ~。」
鷹野は大きなあくびをした。
それを見た細胞バカの山田が言った。
「鷹野、そろそろ終宴にしようや。」
ん~と言いながら、鷹野はテーブル席から立ち上がると、足元がフラフラとしていた。
顔には出ないけど、結構酔っているかもしれない。
「タクシーをお呼びしましょうか?」
マスターが声を掛けた。
「いや、いいよ。バス通りまで出たらすぐにつかまるし。それより、岡崎君と小林君は電車だったよね。方面は北行きだっけ?」
「それでしたら、今、店を出て、歩いて駅まで行かれると、北行は丁度いい時刻がありますね。」
マスターが、壁に貼ってある時刻表を見ながら言う。
「んじゃぁ、僕らはそれで帰ります。」
「御馳走様でした!ありがとうございました!」
「佐渡さん!また、メガトロンを語りましょう!」
小林は、マッチョ佐渡と握手を交わしていた。
「うん!また機会があったら会おうな!」
「では、皆さん、失礼します。」
はいはいとか、おうおうとか言われながら、二人は皆に手を振られバーを後にした。
「じゃぁ、僕もこれで。」
「えぇ?鷹野も帰るの?」
竪山は、まだ飲み足りないようだ。
「うん。雪宮君と同じ方向なんで。」
「あぁ、途中まで送っていくのね。」
フラフラ歩く鷹野の方が、若干危なっかしい。
「そういうこと。帰るぞ。雪宮君。」
「あ。はい。」
海斗は呼ばれ、席を立つ。
「海斗、また会おうな。」
川口が言う。
「楽しかったわ。」
竪山も名残惜しそうだ。
「お二人とも、また、会いましょう。」
海斗は、にっこりと微笑んだ。
「では、皆さん、ありがとうございました。」
お辞儀をすると店を出た。
店を出るとぼんやりと鷹野が空を見上げていた。
「ちょっと、寒いなぁ。・・・今夜。ほんとに、降るかもねぇ。」
「そうですね。」
ちょっとどころじゃなく、かなり寒い。
二人は並んで歩いていた。
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「足。ふらついてます。」
「あ~~~。」
大きなため息を吐きながら、鷹野は前方を指差した。
「じゃ、あそこで、少しだけ・・・酔い覚ます」
「あそこって。もう、誰もいないし、中に入れないんじゃないです?」
鷹野が指したのは、博物館だ。
「ダイジョブ。守衛さん・・・いる。」
ふぁ~とあくびをしながら言う。
“夜の博物館かぁ。”
ちょっと行ってみたい気もする。
ダメでもともとと行ってみると、入口には守衛がいた。彼と鷹野は面識があるので、
「ごめん。大事なレポート忘れ物てた~~。」
と言い館内に通して貰った。
館内は、まだ温もりが冷めておらず外より暖かい。
シーンと静まり返り昼間の喧騒が嘘のようだ。
音もなく光るクリスマスツリーは、世界を幻想的なものに変えていた。
下からのライトで照らされた恐竜たちの骨の標本の影が、壁や天井に映し出され今にも歩きだしそうだ。
海斗は、こっちこっちと手招きされ2階の憩いスペースに連れてこられた。
全面ガラス張りでここからは博物館の庭が見える。
庭が見えるソファへと招かれ座った。
「わぁ・・・!!!」
思わず、感嘆のため息が出る。
昼間は芝とソテツとサンタや天使の飾りしか見えない。
だが今は、芝に埋め込まれた無数の灯りが星のように煌き、サンタや天使はネオンが付いてかわいく輝いている。
「いいでしょ~・・・」
ふぁぁとまたもあくびをしながら言う鷹野は、優しげな顔でソファに身を委ねている。
「・・・。これ、見せる為に、ここに連れてきたんですか?」
「ふぅぅ・・・。どう・・かなぁ~。君が、元気ないから・・・。」
「元気なら、ありますよ。」
「ふぅ~ん」
「・・・。さっきの。」
「うん?」
「さっきの、一度や二度失恋したくらいでってやつ。」
「うん?」
「酷くないです?」
「なんで?」
「一度でも本気の恋なら、それがすべてなんじゃないでしょうか?
・・・代替えの恋なんて、効かないし・・・いらない。」
「ふぅ~ん。」
そう言いながら、鷹野は海斗をぼんやりと見つめている。伝わっているのだろうか?
“ふぅ~んって、この酔っ払いめ!”
「じゃぁさ。その代替えも効かない恋って、どんなの?」
「えっ?」
「ふぁぁ。夜語りに、何があったか、聞かせてよ。ーーー・・・。」
トロンとした顔で言う。
どうせ、酔ってるし、きっとこんな話、聞いても覚えてないよな・・・。
鷹野を見ると目を閉じていた。寝たのかな?
鷹野の整った顔は、今は光の加減で美しくさえ見える。
海斗は横顔をじっと見ながら言った。
「“人が人の事を愛するっていうのは”、鷹野さん、男同士・・・も含まれるんですかね?」
鷹野の目は閉じられたままだ。
ふぅと溜息をつくと、海斗は庭へ視線を戻した。




