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店に入るとすぐに、チカチカと点滅する赤や青のイルミネーションと、かわいいオーナメントでデコレーションされたクリスマスツリーが出迎えた。
奥はそんなに広くなく、カウンター8席と4、5人が座れるテーブル席がある程度である。
店の明かりは暗く落としてあるが、代わりキャンドルライトがメインとなってクリスマスらしい雰囲気を出していた。
内装は黒を基調としていて、なんだか落ち着く。
オーナーの趣味なのか、所々に化石や鉱石を飾ってあった。
店内には、見知らぬ男女が数人いてすでに飲んでいるのか、出来上がっていた。
「やっほー!めりーくりすまーすぅ」
お団子頭の女性が海斗達に手を挙げて、こっちこっちと呼んでいる。
「こ、こんばんわ・・」
「メリー・・・・クリスマス」
若干引き気味で小林と岡崎が挨拶をする。
「やぁ、ようこそクリスマス・パーティへ!おぃ!鷹野、彼等がバイト君達?」
鷹野は顔を向けると、ガタイのいい男が小林の頭をポンポンと叩いていた。
「そうだが。あー、こら、酔っ払い、絡むなっ。」
「あら?この子・・・可愛いわねぇ。」
海斗は、側に寄ってきてにっこり笑うショートの髪の女性に肩に手を置かれた。
「えっ?僕ですか・・・?」
「そうそう!」
「そこ!高校生に手を出すんじゃない!」
鷹野は海斗の肩からショートの髪女性の手を払いのける。
「まったく。油断も隙もない。」
そう言われて女性は、んふふ、と笑った。
「鷹野」
「ああ、わかった。紹介しとく。小林君、岡崎君、雪宮君だ。」
各々、自己紹介を軽くする。
「お団子頭の女が嶋田立夏。ちなみに主婦。」
「嶋田で~す!好きな事は、お茶会と人間観察かな。」
鷹野は呆れながら言う。
「嶋田のお茶会は、井戸端会議のようなもんだろ。お前ら捕まらないように気をつけろよ。
で、次に隣のマッチョが佐渡建。考古学をやってて、専ら新生代。」
「博物館で困った事があったら俺に言えよ!何でも教えてやるぞ」
そう言って佐渡は二カッと笑った。
「ふ。いっそお前も博物館に来るか?」
「いーや。俺は現場がいい。」
そうきっぱり言って手を振った。
「そして、ショートヘアが竪山友美。地質が専門。」
「地学はロマンよ~。大体ねぇ、発掘って言っても掘れる範囲に地層が出てないと、発掘なんて出来ないんだからね。地層の事、もっと知りたければ教えてあげるわよ?」
「そして、奥に座ってるのが、細胞バカの山田庸介。」
言われて初めてその存在に気がついた。
奥にいたのは、タレ目でニヒルな感じの男で、ウィスキーを飲んでいた。
山田は、ウィスキーの入ったグラスを少しだけ上げて、鷹野の紹介に応えた。
地質の竪山がふらりとカウンター席へ移動したかと思うと、しきりとカウンターの上を撫でている。
「はぁ・・・いつ見ても綺麗な梅花石だわねぇ、マスター」
「ふふ、恐縮です。」
ちょっとだけ顎ヒゲを生やしたイケメンのマスターは柔らかい笑みを浮かべて、なにやら作っている。
「お待たせいたしました。」
マスターはカウンターを出ると、店の壁際にセッティングされたテーブルにピザを置いた。
そのテーブルには色んな料理が並べられ、セルフ形式になっている。
サラダ、チキン、パスタが3種、そしてクラッカーの上にチーズや野菜がトッピングされたおつまみ、カットされた果物等が並んで、好きな物を各自で取れるようになっている。
新たに追加されたピザは、クリスピータイプの薄いカリカリ生地にとろけたチーズ、それに絡まるベーコンが美味しそうだ。
「新しく来られた方のお飲み物のオーダーをお聞きしますよ。」
後から来た4人は空いている席に座った。
海斗は、鷹野が手招きをしたので隣のカウンター席に座った。
学生達はジュースを頼み、鷹野はビールを頼んだ。
飲み物が一通り届いたところで、みんなで乾杯をする。
「マスターは、料理もコレクションも私好みなのよねぇ。」
そう言いながらも、竪山はうっとりとカウンターを見ている。
「ありがとうございます。」
「竪山さん、何の話をしてるんですか?」
海斗は鷹野にこっそりと聞いてみた。
「あぁ、カウンターに埋め込まれた石だよ。あそこだけ、くり抜いて梅花石を埋めてんの。」
「梅花石?」
「うん、梅花石は3億年前のウミユリが火山灰に埋もれてできた岩石なんだ。岐阜の菊花石、京都の桜石とかと並んで奇石と呼ばれてるらしいよ。詳しく知りたいなら、あいつに聞いて。」
そう言って鷹野は竪山を差した。
その時、店の扉が開き川口が入ってきた。
「こんばんは~!遅くなりました!」
その声に、カウンターに頬ずりをしていた竪山がぱぱっと起き上がった。
「川口ぃ!元気だったぁ?」
「師匠~!」
川口と竪山がお互い手を伸ばして叩き合っている。
「師匠?」
「そ!俺の師匠!俺の人生を大方決めたのは、この人に会ったからなんだよ。」
よっ!と、海斗に手を上げながら川口が言う。
「えっ・・・と言うと?」
「俺が、今の大学で地質学取ったのは、師匠の話が面白かったからなんだ。」
先輩、この酔っ払いに思っいっきり感化されたのか。ま。人の事は言えない。
「ここの人達さぁ、ちょっと変わってるんだけど、でも話すとすっげー面白いぜ。だから、連れて来たんでしょ?景さん。」
「うん、まぁ、こんなもんでもあると、気晴らしにでもなるんじゃないの?将来とか、ぼんやりしてるうちはさ。参考になるかは、分からんけれどもな。」
海斗は、ふふふと笑ってる鷹野をぼんやりと見つめた。
“進路の話、した事ない・・。けど・・迷っているのは確かだけど・・・。”
「どうした?」
視線に気づいた鷹野が、口の端を上げたままで聞く。
海斗は、上手い答えが分からなくて、首を傾げてしまう。
何か言いたいけど・・・なんだろう・・・。
心がほっこりして嬉しい?
嬉しい・・・とか、なんだか、彼女っぽいセリフだよな・・・と思いながら、海斗はオレンジジュースを口に運んだ。




