25
~現在 冬~
バスが桜通り3丁目のバス停に止まった。バスから降りた海斗は、寒さにブルリと震えた。
天気予報では、今夜は雪になるらしい。
「早く行って、昼飯食おうっと。」
学校の近くのコンビニで買ったおにぎり2個と惣菜パンが入った袋をぶら下げながら博物館へと歩いていく。
道沿いにサンタや、トナカイ、妖精たちが出迎えてくれる。夜は光がつく。
クリスマスの2日間は、博物館の建物もひと工夫されていて、昼間の太陽光を使った電気で装飾されると聞いている。
夜はさぞかし綺麗なイルミネーションになるだろうなぁと思った。
オフィスへ行くと事務の人から紙袋を手渡された。
「今日と明日は、これでお願いね。」
中を覗くと、赤に白の服・・・
「サンタ・・・ですか?」
「そうよ。クリスマス気分になるでしょ。」
そう言って事務の女性は笑った。
「私も着たかったんだけどねぇ。内勤には無いって言われちゃって。」
「は・は・ははは・・・」
“内勤には無い?”
「じゃぁ、フロアの人はみんな、サンタなんですか?」
「あら、気になるのなら、その服に着替える前に館内見てきたら?」
事務の女性は、にっこり笑っていってらっしゃ~いと手を振った。
ロッカールームに荷物を置くと、海斗はこっそり館内へ入った。
ここは、メイン展示室の恐竜ゾーン。
見ると、ミニスカサンタのバイトの女の子が子供達のガイドをしていた。
“あ。三国さんだ。”
三国は海斗に気がついて軽く手を振った。
ここの制服は普段はボーイスカウト風なのだが、それよりずっとノリノリだ。
海斗も軽く手を振り返した。
海斗はさらに他の場所へ移動した。ここは鉱石の展示室だ。
難しい顔をした学生サンタの小林が子供の質問に唸っていた。
“分かる、分かる、その気持ち。勉強不足を問われるよなぁ”
普段の勉強では習わない範囲だとしても、である。
そこも通り過ぎてエントランス近くに来た時だった。
「Merry・Christmas!!!」
流暢な英語で白ひげを蓄えたサンタがニコニコ笑いながら、何か差し出している。
「あ。メリー・クリスマス・・・」
ちっちっちと人差を振られ、
「雪宮君、英語、ゼンゼンダメだねぇ。」
ハゥっと言いながら、サンタはデコに手を載せて首まで振っている。
「鷹野さん、そんなに否定しなくても・・・」
ふっふと鷹野は笑うと、もう一度
「はい、これ。良い子へのプレゼント。」
小さな袋を差し出した。どうやら、来館者に配っているらしい。
「・・・・・・。どうも。」
「じゃ、後でな~」
鷹野はそう言うと、新たな来館者へ近づき
「Merry・Christmas!!!」
と言いながら、プレゼントを渡している。
「わぁ~サンタさんだぁ!」
子供たちが喜んでいるのが、たまらなく嬉しそうだった。
そんな様子を遠目に見てたら、
「お!海斗じゃん!」
入館者の一人が海斗に声をかけてきた。
「川口先輩?」
「久しぶりだな!元気にしてたか?」
「あぁ、はい!先輩も変わりないですね。」
川口は2年上のバスケ部の先輩で、今は高校を卒業し他県の大学に進学したと聞いている。
「いやぁ。こんな所で会うなんてなぁ。他のやつらは元気にしてるか?」
「はい!今は北山がキャプテンしてます。東も真田も元気です。」
「そっかそっかぁ、きたやんがキャプテンな。あいつにぴったりだわ。あぁ、蓮は?蓮はどうしてる?あいつも相変わらず生意気なんだろうなぁ、ははは」
先輩は、懐かしそうにその名を呼んでいた。
“蓮”
「あいつは・・・蓮は、留学しちゃいました。・・・」
「おぉ?留学?」
「はい。アメリカ・・・」
顔は笑っているけど、海斗は辛そうだ。
川口はフッと短く息をつくと、
「そうか。じゃぁ、お前も寂しいなぁ。」
優しく言って先輩は海斗の頭を撫でてくれた。
「せん・・ぱい?」
「まっ、今日はクリスマスだし、同じ行事をあっちでもしてるんだから、お前も楽しまないと損だぞ?」
「は・・・。はぁ。」
「一緒に館内、回るか?」
「いえ、俺、今日はここでバイトなんです。」
「えっ?海斗ここでバイトしてんの?偶然!おれも、1年の時、ここで冬休みの期間だけバイトしてたんだよ!」
「え!!そうなんですか?」
「あぁ。今日はクリスマスイブだし、景さん訪ねて来たんだ。」
「景さん?」
「うん。鷹野景さん。」
「あーーーー・・・景さん」
下の名前で呼んでいる先輩にちょっとモヤモヤしてしまう。
「鷹野さんなら、サンタであそこに・・」
「はっははは、あのオッサンなかなか似合ってるじゃん?こっそり行って脅かしてやろっ。」
「おっさん?」
そう言えば、俺は鷹野さんの歳は知らない。
よく知らない人に憧れを抱いていたんだなぁと思うと、なんだか心が重たかった。




