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 冬休みが近づいた日曜日、海斗は一人で街へ出掛けていた。

ブラブラしながら服を見て回り、気に入ったものがあると何点か買った。

ショウウィンドウを見ながら歩いていると、ガラス越しに自分の姿が映った。

ふと、立ち止まる。

『こんな服、お前に似合いそう!』

ぼんやりしていると、幻聴が聞こえそうだった。

それどころかすぐ側に立っているような感覚すら残っている。

実際振り返っても、そこには誰もいないのだけど。

海斗は、はぁと溜息をついて首を振ると足早にその場を離れた。

 立ち止まるのが嫌で、そのままずっと歩いていた。

ショッピングビルやショップが並んだ通りを過ぎると、向こうに大きな建物が見えた。

「博物館か。」

小学生の頃までは、よく通っていた。

「久しぶりに行ってみるか。」

博物館は、エントランスまで小道が続き、道の両側は公園の様な広い芝生があり、所々にソテツが植えられていた。

変わらない風景に、なんだか小学生に戻った気分だった。

「ふふっ、懐かしいなぁ。」

あの頃、自分が何をしていたのか、今考えても、普通の小学生だった。

「あー。そう言えば、化石を掘るとか言ってたっけ。」

思い出してクスリと笑った。

ようやく、エントランスが見えてきた。そこには男の人が立ってた。

「!」

海斗は、一瞬、息が止まった。


「えぇ、はい。そうなんですよ。うん・・・。」

エントランスの横で携帯で話しているのは、始発に乗り合わせる、サラリーマンの彼だった。

「そういう事情なら、仕方ありませんが、しかし、困りましたね。」

海斗は、目が離せず、でもゆっくりとエントランスに向かった。

「これから、また新たにアルバイトの募集を掛けてとなると、時間を費やしますしね。」

“アルバイト?”

海斗は、エントランスに手をかけたまま、じっと彼の方を見ていた。

海斗の視線に気がついた彼は、

「えぇ、ではまた。」

と言って、携帯を切った。

「あの。」

気がつけば、海斗は彼に声を掛けていた。

「はい、いらっしゃいませ。何かお困りなことでも?」

そう言って、彼はにっこりと笑った。

「いえ、そうじゃなくて、今、アルバイト募集って聞こえたんですけど。」

海斗は、しどろもどろになってきた。

立ち聞きした話を不躾にしようとしている自分が恥ずかしくなって、顔が赤くなったのがわかった。

「あぁ。ちょうど冬休みの間だけ、学生にアルバイトをしてもらおうと思いましてね。ある程度の人数は揃ったのですが、一人欠員が出来てしまったのです。」

「あのっ、俺、いや僕?、・・・私にでも出来ますでしょうか。」

彼は、意外そうな顔をしていたが、

「そうですね。親の承諾と高校の許可証それに履歴書があれば、面接しますよ。」

と言ってにっこり笑った。

「時間は午後4時から7時までの3時間で、仕事内容は、博物館にいらしたお子様を対象としたイベントのお手伝いを頼もうと思っています。大丈夫そうですか?」

確か、冬休みの部活は朝からだから昼には終わる。

「はっ、はっはい!!」

海斗は、頭を下げた。

「これ、僕の名刺です。何かありましたら、こちらへ。」

『○○博物館・学芸員・鷹野景』と書かれていた。

「たか・・の・・さん」

思いがけず名刺をもらえた。

「俺・・・いや・・・、僕は 雪宮海斗です。」

「雪宮海斗君ですね。許可証は、もしかすると、こちらの採用通知が届いた後の発行になるかも知れませんが、あらかじめ下話は、担任の先生にされておいた方がいいと思いますよ。」

「はい。あの、いきなりですみませんでした。ありがとうございました!」

「いえ。こちらこそ。ご連絡、お待ちしていますよ。」

鷹野はにっこり笑って海斗の二の腕をポンポンと触れた。

海斗は回れ右をすると、そのまま博物館へは行かず早く家に帰って親の承諾をもらう事にした。

そして、元来た小道を急いで歩きながら、ふと思った。

“今日は日曜日で、私服を来ている。募集は“学生”で、自分からは高校生だとは言ってないのに、なぜ鷹野さんは俺の事を高校生だと思ったのだろう。

きっと、鷹野さんも始発のバスに乗り合わせるメンバーだと気がついているのかも知れない。

そうであって欲しい。”

振り返ると、鷹野は携帯でまた誰かと話してた。

話し声は遠くて聞こえない。

「あぁ。館長?先程は電話の途中ですみません。アルバイトの件、もしかしたら、どうにかなるかも知れません。」

すこし上ずった声の鷹野がいた。


 冬休みの体育館はバスケ部、バレー部、バドミントン部の3つの部活が時間を分割して使用する事になっている。

バスケ部は朝から組み込まれていて、昼にはコートを他の部に明け渡さなければならない。

最後のシュート練習をしていると、ぞくぞくと次の部活のメンバーが体育館へ集まってきた。

今日は、次は男子バレー部が使用するらしい。

彼らはステージの上に上がり、ストレッチや筋トレを始めた。

『ウォーミングアップは、ステージでする。』

ちょっと不思議な光景ではあるが、これがここの高校の体育館使用の部活がする伝統なのだ。

体育館が空くまで待っているよりも、出来る事を先にしておこうという趣旨らしい。

北山が、男子バレー部に声を掛けた。

「片岡ぁ~、ぜんっぜん、体が曲がってないぞ!それで前屈やってるつもりかぁ?」

突然北山は、コートに足を出して座ったかと思うと、グニュと体を曲げてみせた。

見事な体の軟らかさである。

「こうだろう!!こうっ!」

片岡は、慌てた様子でうっせー!と返した。

それを見ていた東が言った。

「ここまで曲がると気持ちわりーな。」

「深海に巨大なタコがいるじゃん、そんな感じ。」

と、続けて真田も言う。

「先輩、シュート練習の邪魔だから、早く立ってください。」

一年にとどめを刺され、それでも北山はハハハと笑いながら立ち上がった。

「さーて、最後は走り込んで終わりにするか!」

「ウッス」皆が一斉に返事をした。

学校の外回りを本気で5周した所で部活終了だ。

走り込んだ後、ぐったりとして道路にしゃがみ込んだ。皆、はぁはぁと大きく息をついている。

体力を使い切ったあとは、悩みや欲求さえも消耗してしまった様に感じて心地よかった。



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