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19  回想  夏の記憶 10

 海斗は、もう数十回も蓮の携帯に電話をかけている。

だが、聞こえてくるのは圏外を告げるアナウンスで、その後留守電へと転送されてばかりだ。

“またか!!!”

海斗は、うんざりしてきた。蓮は意図的に電源を切っているのだ。

今回は、かなりへそを曲げているようだ。

あの後、結局、蓮からは連絡がなかった。

メールも送ったが、圏外ならそれすら見ていないのだろう。

なんで怒っているのか言ってくれないと分からないのだが、そのチャンスを得る方法が思い浮かばない。

こうなったら自分に出来ることは、“待つ事”だけだ。

うだうだ思ってもしょうがない。明日からは期末テストが始まる。

気が散って仕方がないが、取り敢えず勉強をすることにした。


 翌日、1学期の期末テストが始まった。毎日3科目ずつ3日間行われる。合計9科目。

2年で取った選択科目で、その教科ごと分かれて出題される。

期末は範囲が広いので覚えるのも大変だ。

海斗は、ふわぁと眠そうなあくびをした。

やはり蓮のことが気になって、寝付けなかったのだ。

「今日の帰りには、捕まえてやる!」

昨日は、“待つ”ことを決めたのに、もう我慢できない自分がいる。

このモヤモヤを早くなんとか晴らしたいのだ。

“蓮は、俺が居なくても平気なのか?”

何度も何度も眠ることを妨げた不安が湧き上がる。

「クソッ」

早く試験よ、終われ!!

だが、特別教室の掃除当番が、彼の想いを妨げる。

「雪宮、昨日、図書室の掃除当番、忘れてたでしょう!今週いっぱいあるんだからね!」

昨日、海斗を呼び止めた高岡が、腰に手をあてて教室の入り口を塞いでいた。

「あぁぁぁぁぁ~~」

海斗は叫んでいた。


結局、海斗は3日間睡眠不足が続いた。

もう、最後のテストは頭が回らなかった。

終了のチャイムが鳴ると、開放された気分になれた。

当番の図書室の掃除をどうやったか、虚ろで覚えてさえいない。

もう、永遠に寝ていたい・・・・。

海斗は、教室に戻り机に突っ伏した。

ぼんやりした頭で、蓮を思って目を閉じた。

“蓮・・・会いたい・・・お前の声・・・聞きたい”

ーーーー・・・・ーーーー

「・・や・・・・みや・・ゆきみや~」

肩を揺られて、海斗は目を開けた。

どうやら、そのまま教室で寝ていたようだ。

見回りに来ていた先生に起こされた。時間は午後4時を回っていた。

「雪宮?」

「あ・・・」

「寝不足か?徹夜はかえって効率が悪い。夜ふかしも詰め込みもほどほどにしとけよ。」

「あ。すみません・・・」

「今日は、5時からジュウジュウ亭だろう?」

「はい・・・」

「一旦、着替えてから来いよ~」

そう言うと先生は手をひらひらさせて教室を出て言った。

海斗は、一度家に帰ると着替えてクラスのみんなと待ち合わせの場所に向かった。

そのままジュウジュウ亭へ行った。

入口の扉を開けると、

「らっしゃいぃ~」

「いらっしゃ~ぃ」

元気な声があちこちから上がり、みんなを出迎えた。

「よく来たな!入れ入れ~」

入口では、真田がニコニコしながらみんなを中へ入れた。

「加藤も高島もこっちこっち~」

こういうあたり、真田は客商売向きかも知れない。

「もう、みんな入ったぁ?座れてるか?」

座敷に長テーブルが置かれ、座布団がずらりと並んでいる。

テーブルには、みんなの分のお皿と箸とコップが用意され2Lのジュースが数箇所に置かれていた。

「ジュースは店からのサービスだから~」

真田の一声で、クラスのみんなが一斉に店長らしき人に

「ありがとうございます!!!」

と言った。店長は照れて、

「いやいや、今日は真田のダチがたくさん来るって聞いたからね!この店使ってくれて、ほんとありがとう!旨いもん出すから、気に入ったらまた来てな。」

ちゃんとアピールも忘れてなかった。

「はぁ~ぃ、じゃぁ、オーダー取るよ~」

店の中は、美味しそうなお好み焼きの匂いと、高校生たちの楽しそうな笑い声でいっぱいだった。

海斗は、ずっと携帯を気にしていた。

触っていると、いきなり着信音が鳴りだしたので、びっくしりた。

“蓮!?”

と一瞬期待したものの、かけてきたのは『北山』と表示が出ていてがっかりした。

「はい、どうした?」

「よ~、海斗!楽しんでるか?」

陽気な北山の声が聞こえてきた。

「うん、まぁ。ボチボチ」

「はっははは。謙遜しちゃってさ。ところで今、蓮と一緒だろ?お前らに明日の部活の連絡事項だ。」

「蓮は一緒じゃねぇよ。」

痛いところを突かれて、声が荒くなる。

「えっ?今日はライヴじゃねえの?蓮、お前らの好きなバンドのチケット持ってたぜ?」

「え・・・・」

海斗は、一瞬呼吸が止まった。

もしかして・・・蓮は・・・・

胸がぎゅっと苦しくなった。

「それ、どこっ?」

声が必死になる。

「マリンライヴハウス・・・だったと思うけど」

「何時からか、分かるか?」

「ライヴだから、6時半開場7時から開演なんじゃねぇの?詳しくわかんねぇ。」

それだけ聞くと海斗は立ち上がった。

「おい。海斗ぉ!」

「悪い!急用できたから帰るわ!店長、真田、ご馳走様!先生、ありがとうございましたぁ!」

そう言うと、海斗は店を出て駆け出した。


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