16 回想 夏の記憶 7
蓮は自分の“ラッキー”が信じられなかった。
手元にあるのは、7月7日に開催される某バンドのライヴチケットが2枚。
それは海斗が好きなバンドで、蓮も感化されて聞くようになったのだが、今では彼もすっかりファンでCDはすべて網羅してある。
いつか一緒にライヴを見に行ってみたいねと、言い合ってたのは恋人関係になる遥か昔の中学の頃からだ。
だが、年々人気が増していくこのバンドのチケットは、なかなか取ることが出来ず、いつも即日完売だった。
今回はダメで元々と先行予約をしたところ、抽選で当たってしまった。
「まじか~~!!!!」
蓮は自室で子供のようにはしゃいで転げ回った。
“明日、海斗になんと言おう?きっと海斗も一緒に喜んでくれるよな。”
蓮は見つめていた小さなチケットを胸に抱き締めた。
その日の夜は、嬉しくて嬉しくてなかなか寝付けなかった。
「雪宮、7月7日はジュウジュウ亭で打ち上げだから、予定空けといて。」
休み時間に、クラス委員長の井町から口頭で伝えられた。
「打ち上げ?」
海斗が何の事かと首を傾げていると、
「6月にあったクラス対抗の球技大会の打ち上げよ。期末が終わった後、みんなでハメ外そうって、なってたでょ。あれ、7日に決まったから。」
「あぁ。」
この学校では、秋の体育祭の他に6月には球技大会が行われる。
野球は男子、ソフトボールは女子だけだが、その他に、男女それぞれバレー、バスケ、卓球、テニスで競う。その様子は、体育祭と同じくらいの盛り上がりをみせる。
独特のルールがあって、所属する部活と同じ競技には出ることが出来ず、他の種目を選ばなくてはならない。
例えると、海斗はバスケ以外の競技を選択せねばならないのだ。結局、海斗はバレーに出場した。
そして運良く勝ってしまった。他の競技でもいくつか海斗のクラスは勝利した。
結局、海斗のクラスが総合優勝したので、お祝いをしようと企画が上がった。
だが、その翌日から期末テスト前2週間となる為、騒ぐ事は禁止されていたので、期末明けとずれ込んでしまった。
なぜ、この決まりを律儀に守っているかというと、スポンサー(先生)も参加するからだ。
「雪宮、あんたは英雄の一人なんだからね。ちゃんと来てね。」
そう言って、委員長は笑うと、他の子の所へ行ってしまった。
「7月7日。七夕か・・・」
“返事。・・してなかったけど、あの様子じゃ、決定事項だな・・・”
海斗は、ふっと肩をすぼめた。
放課後、蓮が部室へ行くと、海斗と真田が着いていて着替えをしている最中だった。
「よっ!」
真田が蓮に気づいて声を掛けた。
「おう!」
蓮は機嫌がいいようだ。ニッカと笑って手を挙げた。
「おっ?蓮、なんかいい事あったのか?」
真田がすかさず聞く。
「ふふん。まぁね!」
「ふ~ん。」
海斗はその気がないような生返事だ。どうせくだらない事だと思っているのだろう。
“なっ、お前にも関することなのに!”
蓮は少しムッとした。
真田が思い出したように海斗に聞いた。
「そうだ、海斗。お前んとこのクラスの打ち上げ、7日だろ?」
「あぁ。なんで知ってんの?」
「いやね、お好み焼き屋のジュウジュウ亭さ、俺バイト行っててな。お前のクラスの委員長から、クラスの人数分くらい店に入れるか聞かれたんだよ。」
「へぇー。真田、ジュウジュウ亭でバイトしてんの?それじゃ行くの楽しみだな。」
「ははっ、店長に言ってなんかサービスしてもらえるように掛け合っとくよ。」
「でもさ、そんなに入ったら貸切になるんじゃね?」
「う~ん。俺的にはその方が楽だけどな。」
蓮は、海斗と真田が二人で話が盛り上がっているのが気に食わない。
“クラスの打ち上げあるんだったら、俺にも一言相談してくれよ!!しかもライヴの日にちと被ってるし!”
蓮はさらにイライラした。
「あれ?蓮どうした?」
真田が蓮の異変に気がついて聞いてきた。
蓮はむっとした顔で答えた。
「何でもねぇ、教室に忘れ物したから取り行くわ。」
蓮はその場にいたくなくて、部室を出た。
蓮は教室へと続く渡り廊下で空を見上げた。
“あ~・・・ライヴの件、海斗に言いそびれた。”
それだけじゃない。
“俺の好きと、あいつの好きは温度差が大きい気がするんだよな・・・”
空回りしている自分が無性に寂しく、そして切なかった。




