15 回想 夏の記憶 6
海斗は、いつもの路線バスに乗っていた。
博物館の昼の部のバイトへ行く為だ。
ぼんやりと外へ視線を向けたが、心はここにあらずといった風である。
“私もね、女の子しか愛せないの。同性愛者なんだ。”
ピクシーの言葉が蘇る。
僕らと同じタイプの人間。
そして、やはり海斗の心を揺さぶるっているのは、自分で言った、
“ー・・・・蓮は・・蓮は・愛してた・・・。”
違う・・・今でも心の大部分を占めてるんだ、蓮のことは・・・でも、心を閉ざさなければ・・・蓮を自分の心から封印しなければ・・・脆く、崩れてしまいそうだ・・・
海斗は唇を噛み締めた。
ー記憶は夏へ遡るー
「ねぇ、蓮。いつから俺の事、好きだったの?」
何故そのような事を聞いたのか覚えていない。
蓮の部屋で、期末テストの勉強をしていた時だったと思う。
「えーっ、今更聞くのか?そんな事?」
「重要なことだろ。」
「なんだよ。愛されてるのを確認したいのなら、チューでじゅうぶ・・・」
海斗は、英和辞典で蓮のキスを受け止め
「そうじゃなくてさ、ねぇ!」
海斗から好奇心が混ざった瞳で見つめられ、蓮は、はぁーと大きな溜息をついた。
どうあっても聞きたいようだ。
「俺さ、小学校の頃、私立の学校に通ってたんだよ。」
蓮がそう言いながら部屋にあったクッションを抱え込んだ。
「そういやぁ、小学校では見かけなかったな。」
「だろ、まぁ私立は親が行かせたかったんだろうな。大して面白い学校じゃなかったけどさ。」
蓮の父親は資産家でいくつかの会社を持っていた。
母親もホテル経営をしているとかで、かなり裕福だったようだ。
だが、忙しい両親は家を空けることが多く、家族としての絆は薄く感じられた。
両親不在の穴埋めは、数名のお手伝いさんがしていた。
実際、蓮は実の親より世話をしてくれる吉川さんに懐いたようだ。
吉川さんのことを“ばぁちゃん”と呼んでいたので、海斗が最初に彼女に会った時は、本当のお婆さんと間違えた程だ。
「小中高大とストレートの所だったからさ、親も楽だと考えて、そこを選んだんだろうな。」
「それと、俺とどう、関係があるんだよ。」
「フフ、せっかちだな海斗は。」
そう言うと蓮は、そっと海斗の髪にキスをした。
ムムッと耳まで真っ赤にした海斗が蓮に非難の目を向ける。
おっと、話を続けなければ!
「小学校まで遠くてね。その頃、自家用車で送迎されてたんだ。」
「げっ、そこまでセレブが、なんで中学高校と市立なんだ?」
「お前に会ったからだろう。」
「えっ?蓮に会ったのは中学に入学してからだよな?」
蓮は、口の端をニッと上げて笑っている。
海斗は記憶にない。中学で最初に会った時は、ものすごく印象的だったから、小学校で会えば覚えてないはずは無いのだが。
蓮は、少し懐かしそうな顔をしていた。
「6年生の秋の頃だったな。学校からの帰りにな、公園でお前を見かけたんだよ。俺は車から見てたんだけど、お前は友達が泣いてるのを一生懸命慰めてた。」
「・・・。」
「泣いてる友達が泣き止んで、そしてお前は友達と一緒に笑ったんだけど笑顔がな、多分、あれが最初だな。」
「最初?」
「一目惚れってやつ。ほんっと、お前って俺ばっかり言わすのな。」
「うっ。」
「毎日、車が公園を通る度にお前を探したんだ。毎日ほんの数分の楽しみのお陰で、学校から帰るのが待ち遠しかったよ。だけど、雨の日もそうだけど、晴れてても海斗がいないと、すっげーがっかりしてさ。ははは、その頃の俺も可愛いもんだな。」
「もしかして、俺に会う為に、市立の中学へ来たのか?」
「そうだよ。」
当然という顔で蓮は言う。
「丁度、俺たちの通った中学のバスケ部が全国大会へ行く程強かっただろう。だから、両親にバスケが強い市立の中学へ行きたいって言ったんだ。」
「へぇー」
中学校のバスケ部が強くなければ出会わなかったのだろうか?
いや、蓮の事だ。例え中学校自体に特色がなくても、あーだこーだと色々言って来ていたに違いない。
「そっか・・・。」
「これで充分?」
少し照れたように蓮が言う。
「あっ、あぁ・・・うん。」
海斗も自分で聞いておきながら、顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。
改めて思う。もしあの時、蓮が海斗に気が付いていなかったら、きっとそのまま出会わなかっただろう。
「蓮、俺のところに来てくれて、ありがとう。」
“見つけてくれて、ありがとう”
海斗は、そっと蓮の肩に甘えるように頭を乗せた。
「ところで、海斗。お前は、いつ頃俺の事、好きになったんだ?」
「ん・・・この前かな?初めて蓮を意識した。」
「はあぁぁぁぁぁ~」
切なげな悲鳴に似たような声があがる。
「くそぅ!こうなったら、夢中にさせてやる!!」
蓮は、海斗の頬を両手で挟むと、覆いかぶさるように唇を合わせた。
「れ・・・ん・・・べん・・・きょ・・・」
「もう、・・・・やんね・・・」
“っ・蓮・・蓮っ・・・れ・・・・・ん!!!・・・・”
思考が停止しそうになる程、二人は甘い時間を過ごした。




