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 博物館へ来る子供の疑問には、用意した答えだけでは間に合わないことがある。

「お兄ちゃん、あれは何の骨?」

少年が指したのは、天井から吊るされたミンク鯨の骨格だ。

比較標本として、現代の生き物の標本も展示してある。

「あぁ、鯨だよ。」

「お兄ちゃん、でもこれ手があるよ?」

そう言って胸ビレを指して言う。

「あぁ、それは胸ビレだよ。」

「なんで、指があるの?ヒレは手なの?」

彼には胸ビレが手の平に見えたのだろう。

実際、いくつも小さな骨が集まり指の関節を想像させる。

「う~ん・・・。」

返答に困り、展示パネルにヒントがないか探していると、

「いいところに、気がつきましたね。」

にっこり笑いながら鷹野が近づいてきた。

海斗はほっとした。助かった。

「鯨の胸ビレも魚の胸ビレも同じ物。一緒の器官なんですよ。器官は解りますか?」

少年はコクコクと頷いて、目は真剣な顔で鷹野を見ている。

「では、鯨の胸ビレは、なぜ指のような形をしているのか?ですね。君は脊椎動物は、知っていますか?」

「分かるよ。」

鷹野も少年に頷くと続けた。

「脊椎動物とは背骨がある生き物の事で、魚が最初に誕生しました。私たちの祖先は大きく言ってしまうと魚から長い年月を掛けて進化したのです。」

「知ってる。魚類、両生類、爬虫類、二つに分かれて鳥類と哺乳類だよね。」

鷹野は、ちょっとびっくりしたような嬉しそうな顔をしてニッコリ笑った。

「そこまでご存知なら話が早いです。鯨の祖先は陸にいた哺乳類なのです。指の様に見えるのは、その時の4足歩行の名残だと言われています。陸に上がった生き物が逆に水中に戻っていく。これには似たような標本が他にもあります。魚竜のイクチオサウルスが、斜め前方に展示してあります。体型はイルカに似ていて水中を棲家としてました。」

「あ!ほんとだ!手がある!あ、胸ビレかぁ。」

「鯨とよく似ていますね。ちなみに魚竜は爬虫類ですが、卵を産まず出産をしていたのではないかと言われています。」※1

「へぇ~。」

海斗は、思わず感心した声を漏らした。

「これで疑問は解けましたか?」

「うん!」

「では、次にご案内しましょう。」

そう言って鷹野は少年の手を取り、少し振り返ると小さく頷き海斗に目で合図をした。

“この子のガイドは、俺が代わるからいいよ”

そう言っていた。

海斗は、はぁ~と今度は大きな溜息を出した。

当然にわかガイドなんかより、恐竜や古代に詳しいちびっ子共も来る。

「敵わないな。」

そのちびっ子達のさらに上手をいく鷹野はどれほどの知識を学んできたのだろう。

“鷹野さんは、すごいな。それに、ここでは俺の知らない事が、まだまだありそうだ”

鷹野は、毎年、自習室で勉強を教えていると言っていた。

当初は何の勉強なのかと思っていたが、その意味がわかった気がした。

せめて、ここに来るちび共達より博識でいたいな・・・。

イクチオサウルを見上げながら、その遠い遠い遥か昔を思わずにはいられなかった。


※1 卵胎生:卵を腹の中で孵化させて、ある程度成長させてから出産。サメ。シーラカンス等も卵胎生である。

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