四月の転入生 1
第三者(転入生)視点です。
転校生って、何割か増しで、かっこよく見えねぇ?
高校2年での転校なんて冗談じゃない!と思ったけれど、クラス全員の視線を集めている今は、けっこう良い気分だ。自己紹介しろと担任から言われて、今日一番の笑顔で一歩前に出る。
「西村圭吾です。よろしく。」
自分の見た目はよくわかっている。幼い頃からアイドル系と言われた顔と愛想の良さで、第一印象はばっちりだろう。ほら、女子なんかみんなため息ついて俺を見て・・・ないな。あれ?
「席は一番後ろ、隣りは・・・お、北原か。ちょうどお前学級委員だな、後で校内案内してやれ」
「はい」と返事をして立ち上がった男子生徒を見て、俺は目を見開いた。
何、こいつ、すっげぇイケメン。こんなの見慣れてれば、俺程度で女子がため息なんかつかねぇわ。
転校初日のスタートからいきなりつまづいて、俺のテンションは急降下した。
・・・と思ったが、転校生である俺の世話を押し付けられたクラス委員の北原裕也は、イケメンの割りにいい奴だった。放課後、校内の主だったところ-技術棟、体育館、部室棟を案内されている間も、あちこちから北原に向かって声がかかる。その度に転入生を案内中だと俺を紹介してくれ、転校初日と思えないほどこの学校になじんだ気がする。私立の中高一貫校で、しかもそこそこ名の知れた進学校とくれば、お高くとまった奴ばかりかと思っていたが、うれしい誤算だ。
「これでだいたい一回りしたかな。あとは・・・西村、どこか見ておきたいところ、ある?」
北原が学食のコーヒーを飲みながら言う。ここの学食は放課後も解放されているらしく、中庭に置かれたテーブル席でも、おしゃべりを楽しんでいるグループがいくつもあってにぎやかだ。
「そうだなぁ、あとは・・・」と周りを見渡したところ、女の子たちの視線がいくつもとんできていることに気づいた。転校生の俺が珍しいのもあるだろうが、もう勘違いはしない。彼女たちの視線の先にいるのは、間違いなく北原裕也だ。当の北原は、時折どこかへ視線をやりながら、涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。
180cmに届くかという恵まれた身長とすらりと長い手足、さらさらの黒髪に切れ長の二重の目はいかにも理知的で実際賢いんだろう、さきほどの案内も無駄がないルートでとてもわかりやすかった。これだけ見た目が整っていれば近寄りがたくなりそうだが、口を開けば気さくで、初対面の俺にも気をつかわせない気配りを持っている。
さっきは兄弟の話になり、同じ弟という立場で姉に虐げられていることがわかり、大いに盛り上がった。ちなみにうちは2歳上と5歳上の二人の姉がいて、幼い頃は着せ替え人形、今は便利なパシリとして顎で使われていると言ったら、うちもそんなもんだと大笑いされた。
「裕也んちも、上に二人くらいいるのか?」
もうこのあたりから話し方にも遠慮がなくなった。いつの間にか下の名前で呼びあっている。
「あー、うちは・・・三人?」
裕也が言いにくそうに言うから、余計におかしくって。この完璧すぎるイケメンが、姉ちゃんたちに頭が上がらないところを想像するだけで笑いが止まらない。きっと一人多い分、うちより恐ろしいことになっているんだろう。
と、そのとき。裕也の視線が一点で止まった。伸びをするように俺の向こうを見るので、知り合いでも見つけたかと後ろを振り返る。
一人の女子生徒が、こちらへ駆け寄ってきた。何か用事があるなら、もう十分案内してもらったことだし、俺は席をはずそうかと裕也に告げようとして、裕也の顔を見て俺は何も言えなくなった。
裕也は、もう俺なんか目に入っていなかった。
近づいてくる彼女だけを、目を細めて見つめていた。