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君といつまでも  作者: 中島 沙綾
第1章
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春休みは二人で 2

 「さっきから、誰かに似てると思ってたのよねー。

  君、スカウトされた頃の”たっくん”にそっくりよ。」


 雑誌Soreaの「はな」さんという記者が興奮気味に話しながら、汐里にも雑誌を見せている。


 汐里は「そうかなぁ?」と首をかしげて、興味なさげにそのページを見ているので、面倒なことにならないうちに退散することにした。


 「すみません、時間がないので。 汐里、行くよ。」


 汐里の肩を抱いて方向転換し、「はな」さんには頭だけ下げて、さっさと歩き出す。


 「あ、ちょっと!」と後ろから声が聞こえたが、振り向く余裕はなかった。勢いで肩を抱いたのはいいが、近すぎる汐里の感触に体中の神経が反応していた。手の平におさまるほどのきゃしゃな肩。ちょうど俺の肩のところに寄せられているまろやかな頬。早くこの場を去りたいという俺の意図に気づいて、最初は戸惑いながらも寄り添って歩き始めてくれた汐里に、もうたまらない思いがわきあがった。


 つん、と上着がひっぱられ、やっと歩みをゆるめる。


 「裕也、映画館通りすぎちゃうよ?」


 汐里に言われて、はじめて周りの景色が目に入った。どれだけ余裕なかったんだ。


 「もう中に入っちゃう? あ、パンフレット買おうかな。」


 俺の態度がおかしかったことに、汐里も気づいていたはずだが、何も言わない。そのまま映画館の中に入ってしまった俺たちは、知らなかった。置き去りにした雑誌の人(もう名前も忘れた)が、「そこで肩を抱くって、やっぱり姉弟じゃありえないでしょうが!!」と叫んでいたことを。



 

 俺は、北原の家の、本当の子供ではない。


 それは物心ついたときから知っていた。というか、実の親兄弟が暮らしている東条の家にも小さな頃から頻繁に出入りしていて、自分の家族が二つあることに、たいした疑問も持たず大きくなった。


 北原の家では、三姉妹の下の末っ子長男として。東条の家では三人の兄がいる4番目の弟として。どちらも末っ子という点はおもしろくないが、どちらの家でもかわいがってもらった。


 北原と東条の間にどういう話があってこうなったのかははっきり聞いていないが、東条の4番目・・・つまり俺が男子だったら、男子が生まれなかった北原の家に入ることは最初から決まっていたのだろうと思う。実際生まれたばかりの俺が、両方の母と一緒に写っている写真があるくらいだ。


 雑誌に載っていた”たっくん”・・・東条匠は、東条の三男で、俺と血のつながったすぐ上の兄だ。兄弟の中でも一番似ていると言われ、今でこそ金髪に近い明るい髪色をしているが、黒髪の頃は双子と間違えられたこともある。


 汐里は、東条のことを知らない。年に何回か俺が北原の家からいなくなるので、生家に行っていることは判っているが、東条がどんな家か、俺に実の兄弟がいることも、たぶん知らない。


 俺が東条から帰ってくると、汐里がほっとした顔で「おかえり、裕也。」って笑うんだ。そうすると東条であったことが全部・・・おいしいものを食べてきたことも、男兄弟と遊んで楽しかったことも、どうでも良くなる。汐里を置いていったことに対する罪悪感さえ生まれるのだ。だから東条のことは、汐里には何も話していない。


 俺が帰るところは、汐里がいるここだから。


 君の隣りに、一番近くにずっといるんだ。


 それが、姉弟のままではかなわない願いだということに、やがて嫌でも気づくことになるのだが。


 今は映画に集中しないと、あとで汐里と話があわなくなる。1作目のDVDを一緒に見たときも、汐里の表情がころころかわって惹きつけられた。2作目はどんな顔を見せてくれるのか、自分も楽しみにしてきたのだ。隣りでは、すでに汐里が両手を握りしめてスクリーンを見つめている。これは見逃せないなと口元だけで笑って隣りを見つめた。

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