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君といつまでも  作者: 中島 沙綾
第1章
6/32

春休みは二人で 1

裕也視点です。

 

 平日とはいえ、春休みの街中は人が多い。俺たちみたいな学生がほとんどだろうか、グループだったり二人連れだったりで楽しそうに行きかっている。


 「映画、楽しみだね!」


 隣りを歩く汐里しおりの足取りも、いつもより軽やかだ。3月半ばに始まった映画はシリーズ2作目で、1作目はすでにDVDで鑑賞済みだ。2作目は絶対映画館で見ようと約束して、今日は一緒に街に出た。


 今日の汐里は、肩までのびた髪をゆるく編んで、サイドでまとめている。膝丈のフレアースカートとショートブーツは今日初めておろしたらしい。玄関で「どうかな?」と聞かれて「似合ってる」とそっけなく答えたが、自分と出かける日にかわいい格好をしてくれることがうれしくて、口元がゆるむのをおさえていたら、そんな口調になってしまった。


 北原家の三姉妹は美人になる、という親戚連中のいい加減な予想は、極上の大当たりをしたようだ。家に遊びに来る友人が言うには、長女・明里あかりはグラビア系、次女・琴里ことりはクール系、三女・汐里は癒し系。姉ちゃん三人ともタイプが違う美人で、お前はなんてうらやましい奴だ!と言われたりする。けれど三姉妹の下の末っ子長男なんて、それほどいいものではない。年が離れた上の二人の姉からは、おもちゃ扱いされているのが現実だ。


 信号待ちの間、店の窓ガラスにうつる自分たちの姿が目に入る。4月から高校二年生になる自分と三年生になる汐里。身長差はもう20cm近くになるだろうか。汐里より大きくなりたいという切実な願いは、とうの昔にかなっていた。でももう一つの願いは、まだかなう兆しすらない。


 「映画までまだ時間あるから、ちょっとお店見に行ってもいい?」


 汐里がお気に入りの雑貨屋を指差して言う。うなずいてその店への道を行こうとしたところ、


 「こんにちはー。」


 後ろから聞こえた女性の声に汐里が振り返り、俺も一緒に足をとめた。


 「雑誌Soreaの”はな”と言います。街でみかけた素敵なカップルさんにお話聞いてるんですけど、今お時間いいですか?」


 営業スマイルのお姉さんがボイスレコーダーらしきものを片手ににっこり笑っている。え、という顔で固まってしまった汐里に向かって、そのお姉さんは自分のバッグから雑誌を取り出して見せた。


「Soreaって知らないかな?10代から20代の女の子向けの雑誌でね、本屋さんでもよく見ると思うんだけど・・・」


 お姉さんの説明は続いていたが、俺はまたかとうんざりしていた。いつの頃からか汐里と街に出ると、写真を撮らせてくれとか事務所に来てくれとか声をかけてくる輩が増えてきた。 


 「あの、すみませんが・・・」


と汐里の声がお姉さんの説明をさえぎった。その後に続くセリフに予想がついて、思わず顔をしかめる。


 「私達、姉弟きょうだいなんです。」


 予想通りのセリフなのに、汐里からこの言葉を聞くのは痛い。汐里の隣りを歩いていても、つりあいがとれるくらい背はのびた。恋人同士と間違えられるのも、これが初めてではない。誰より近いところにいるのに、同じ「北原」という名字を持つ姉弟という関係から、一歩も動けていない。


 「・・・きょうだい?」


 お姉さんが目を見開いて俺を見上げてくる。・・・今までにも間違えた人は何人かいたが、すぐすみませんって言って逃げたぞ。この人、なにげに失礼だ。俺を凝視していたお姉さんが何かに気づいたようにあわてて雑誌をめくり始めた。


 「君さぁ、”たっくん”って知らない? 君とすごく似てると思うんだけど。」


 お姉さんが指し示したページに、俺は驚愕した。そこにはよく知った人物の写真が載っていたからだ。

「Sorea Boys人気No.1!! たっくんに10の質問」という特集記事の頁、どこのアイドルかというくらいかっこつけたポーズの写真が何枚も記事の間を埋めている。最近忙しいとは聞いていたが、こんなことをしていたとは知らなかった。


・・・何やってるんだ、兄さん・・・。



 

 


 


 

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