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はじまりのはじまり(ある人間が語る少女)

 


 これは、ある少女が行方不明になる前のお話。









 僕は、ある少女を教室に呼び出した。

 彼女は腰まである長い黒髪をポニーテールによくしていて、二重でぱっちりとした黒い瞳、唇はピンクで薄め、体格は小柄で細身だがスポーツをやっているだけあって女性ながらも鍛えられた身体を持つ少女だ。

 ちょこちょこと動くたびにポニーテールがゆれ、その姿は小動物のようで可愛い。

 話す声は少し高めで、笑うと教室全体に響き渡っていつも親友に注意されてしゅんとする姿が可愛い。

 注意された後に笑うときは、はっとして口を押さえながら、そしてくふくふ笑う姿が可愛い。

 気兼ねなく誰にでも平等に話しかける姿は素晴らしいし、うんうん頷いて話を聞く姿は可愛い。

 たまにやってくる後輩をからかう姿も可愛い、でもその相手が男の後輩なのは気に食わない。

 まあ、いろいろあげればキリがないのだが、とにかく可愛い。可愛いのだ。

 僕は、そんな可愛いと愛してやまない彼女に、ある日告白をすることにした。

 告白も実は突然思いついたわけではない、ちゃんと考えてこの日に告白をすることに決めたのだ。

 理由はひとつ。

 もうすぐ卒業があり、彼女と距離が離れてしまうからである。

 告白が実れば、卒業した後も可愛い彼女と一緒にすごすことができる。いつでも会うことができる。

 しかし、もしフラれたら正直同じ空間にいるのが苦しくて仕方がない。

 でも、卒業するこの節目なら、たとえフラれたら会わなくてすむ。

 そんな小さなアフターフォローがあるから、今回の告白に踏み切れたのである。

 そして、実は告白は初めてだ。

 こういっては何だが、僕はそれなりに告白されるほうである。

 だからまあ、顔も悪いほうではないんだな、と自分ながらに思ってはいる。

 それゆえ、告白をしたことはなく、告白された相手に流されるままに付き合うことが多かった。だって女の子は嫌いじゃないし、気持ちいいこと好きだし、面倒になったらなあなあにしていれば向こうから捨ててくれるし。

 そんな僕が、告白。

 流されずに自分から告白するのだ。女の子に。彼女に。

 ちょっとは脈があるかな、なんて思っているのは、学級最後の1年間、一緒に学級委員なんてものをやっていたからだ。かなり話したし、笑顔も見たから、彼女も多少は僕のことを意識しているんじゃないかなって。

 今日の放課後に話があるから、と言ったとき、ずいぶん不思議そうな顔をしていたけれども頷いてくれた。僕はちょっと別の女の子に呼ばれていたので、少し待たせることになってしまったけど。

 僕の運命を決める時間だ、と多少の不安と大きな期待を抱いて教室の扉を開く。


 そこには、夕日をバックにして窓辺に佇む彼女がいた。

 オレンジに染まるその身が、いつもの笑顔とは違ってうつむき顔の無表情が、ひどく神秘的に見えた。

 扉を開けた音で僕が入ってきたことに気づいた瞬間、その顔は笑顔になった。

「用事あったの?」

「うん、ちょっとね、呼び出しておいて遅れてごめん」

「いいよー。で、何?」

 即、用件に入られてしまった。

 あまりに急すぎて心の準備ができていない!

 不思議そうな目でじっと僕のことを見てくる彼女。

 しばらく沈黙が続く…

 

「好きだ」

「何が?」

 即答でそう来るか!?

 いまだ不思議そうな顔で見てくるので、本当に何だかわかっていない様子だ。

 というか、普通こういう場に呼び出されたら告白だとか思わないのだろうか…

 少々不安に思いつつも、その発言で気が抜けたのか、伝えたいことは案外簡単に出た。

「君のことが、好きなんだ」

「ごめん無理」

 即答かよ!しかも笑顔で言われた!

「…理由を聞いても?」

 そのあとに続いた言葉は、信じられない言葉だった。




「だって、私、あなたのこと知らないもん」




「僕、君と学級委員、一緒だったんだけど…」

「へえ、そうなんだ」

「部活も一緒だったんだけど」

「ふうん、そうなんだ」

「3年間!クラス一緒だったろ!?」

「そっか、ごめんねえ」

 にこにこと笑いながら、まるで初めて知りましたという風に答える彼女。

 他人事のように話す姿が、憎らしく見えて思わず怒鳴ってしまう。

「何でそんなこと言うんだよ!知らないわけないだろ!どれだけ一緒にいたと思ってるんだよ!!」

 彼女を好きという僕の気持ちが、踏みにじられたような気がした。

 こんなに好きなのに、どうして。断るにも他に言い方があるだろうし、まるでなかったもののように扱われるのは心外だ!どれだけ一緒にいたと思っているんだ、君を追って部活にも入ったというのに、クラスが一緒だったことがうれしくてたまらなかったのに、笑顔で話したこともあるというのに、どうしてそんな言葉が出てくるんだ!!

 ぐちゃぐちゃな思いで怒鳴った僕を見て、きょとんとした彼女は僕に向かってこう言った。




「だって、興味ないもん」

「興味ないものは知らない」

「知らないものは知らないとしか言えない」

「あなたの一緒と私の一緒は違うんじゃないかなあ」


「もう帰っていい?」


 何も返す言葉がなかった。

 一体、彼女の何が好きだったのかもわからなくなるくらいの衝撃。

 いつものようにニコニコと笑いながら、残酷な言葉を次々と吐く彼女が、その笑顔が、どうしようもなく気持ち悪くてたまらない…

 彼女は笑ってそして用件は済んだと言わんばかりに教室を出て行こうとしていた。

 その姿に、僕をこんなに打ちのめしていった彼女に一矢報いたくて、ひどい言葉を吐いた。

「君は、人でなしだ。人の気持ちがわからない、気持ち悪い、ひどいやつだ!」

 吐いた、つもりだった。

「じゃあ、バイバイ」

 まったく、話を聞いていないような、何も響いていないというような返答だった。



 僕の気持ちは、何だったんだろうか。

 誰もいなくなった教室で、僕は、ないた。


 



 あの後、卒業するまで彼女と会うことはなかった。

 卒業前に彼女と彼女の親友が行方不明になったらしい。

 どこに行ったのか、家出なのか、誘拐なのか、殺人なのか、それすらまったくわからないというくらい手がかりもなく、打つ手もないという状況らしい。

 ただし、今の僕にはまったく関係のないことであり、どうでもいいことなのだ。

 だって、彼女にとって僕は知らない人でしかないのだから。

 そう、最後まで彼女にとって、僕は他人以下の存在でしかなかったのだから。

 心がじくりと軋んだことを僕は気づかないふりをして、見ないふりをして、僕は、生きている。


 これが最初の告白で、最悪の失恋をした、僕の話。

 少女にとって、何でもない存在にしかなれなかった、僕の、話。



 









 これは彼をふった少女、神埼瑠奈が彼女の親友である森永愛理と共に、いわゆる異世界に召還されてしまう、わずか3日前の話である。

 それを彼が知ることは、永遠に来ない。

 なぜなら彼は、彼女の人生には関係ない人間だから。

 なぜなら少女、瑠奈にとって必要なのは、彼女の親友愛理という名のかみさまだけだから。


 

 そして今、彼女のかみさまと彼女は… 

 これはまた、別のお話。


 


神埼瑠奈が平等なのは、他人に興味がないからだ。

たった一人を除いて。

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