詐欺
(着信音が鳴った)
もしもし
「あーもしもし? オレだよ、オレオレ」
オレオレ詐欺ですか?
「あ……いきなりバレた?」
自分で『オレオレ』って言いましたよ
「え? 言ってた? どうりで誰も釣れねぇわけか……」
もう切りますね
「あ~ちょっと待って」
何ですか?
「どーやったらもっと上手く騙せるんかな?」
それ俺に聞きますか?
「いややっぱりやられる側の意見も聞かないと。それに……」
それに?
「今月のノルマがまだ残ってんだよ」
会社かなんかですか?
「『ワカサギ株式会社』っていうんだ」
しっかり会社名に『サギ』って入ってますね
「オレまだ入社したばっかの新入社員ってやつ? まだ上も下も分かんねぇんだよね」
右も左も、じゃなく?
「先輩に聞こうとしてもさ、オレ話すの苦手なんだよ」
なんでその仕事に就いたんですか?
「んでさ、仕事してる時も色々トチっちゃうんだよなぁ」
そうなんですか
「さっきみたいに『オレオレ』って言っちゃったり」
そのまんまですね
「子供がいない家の息子のなりすましをしたりとか」
夫婦問題になりますね
「前日に亡くなったお爺さんのフリをしたりとか」
先週の本怖に出てましたね
「先週一件上手くいってね」
成功したんですか
「まぁその人、上司の親友だったんだよね」
物凄く気まずいですね
「余計先輩に聞けなくなったよ」
それでもうヤケクソで俺に聞いてるんですか
「そう。どうしたらもっと上手く出来るんだ?」
そうですね。とりあえず、もっと騙す人のことを調べたらどうですか?
「調べる?」
そしたらさっき言ってた失敗は防げますよ
「あ~、確かにそだね」
それに、得た情報に応じて騙し方を変えてみたりとか
「おぉ! なるほどなるほど、イイネ!」
あとは練習あるのみだと思います
「確かに……。いつもぶっつけ本番でやってたなぁ」
よく考えたらこれって犯罪の手助けになってるんじゃ……
「細かいことは気にするな」
それじゃあ今日の授業料はしっかり振り込んでくだいね
「あぁ、金のことは心配すんな。明日にでも振り込むよ」
あと、誰にも言わないでくださいよ
「大丈夫だ。上司にバレたらそれはそれでめんどいしな」
それでは。二度と電話しないでください
「あぁ、また明日な」
…………。そろそろ新しい機種に変えようかな
「いや、先生! オレはまだ未熟だからもっと色々教え
(只今の通話時間は、2分、31秒、です)
作品に出てくる会社は実際には存在しないハズです。実際にあったとしたらそれは本作品とは無関係、もしくは電話の人が嘘をついていたということです。詐欺ですから嘘もつきます。