表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DISERD  作者: 桜木 凪音
24/44

後夜*「第18記 古代魔法」

 静かに目を閉じ、坐禅を組む男がいる。辺りは水を打ったような静けさだった。

 恐らく族長は〝あの板〟に印を潜ませているだろう。

 右目だけを開く。

 ならば、もう渡されているはずだ。

 無音で立ち上がると、辺りを見渡した。だが、道場に金髪の青年の姿は見つからない。

「小僧、どこに行ったんだ……?」



 水の音が洞窟に反響していた。

 視界が明るくなり、目の先に水のカーテンが見えた。

「おれじっとしてられるたちじゃねぇんだよな」

 滝をくぐり抜け、アズウェルは薄暗い洞窟から脱出する。

 神社には人一人見当たらなかった。見えるものは、池と社と神木である一本桜のみ。

 神社と村を繋ぐ石段の方へ駆け寄る。遠くから騒音が聞こえてきた。

「みんな、今必死で村を守ってるんだ……。おれ、こんなところにいていいのか……?」

 足が自然と動き出す。

「待て」

 突然左腕を掴まれ、アズウェルの動きは止められた。

「る、ルーティング……」

「大人しくしていられない気持ちはわかるが、お前にはやることがあるんだ。道場へ戻るぞ」

 紅い瞳を見返すと、ルーティングも気持ちを抑えていることが読み取れた。

「結界を成したら、好きにしろ」

 ルーティングは握っていた腕を放し、身を翻す。一瞬、背後を顧みて、アズウェルも後を追った。

 今、成すべきことは。

――この村を結界で覆うこと



「いいか、本来この術は五人が村を囲むように立っていなければならない。だが、動きを制限されれば、当然敵と対峙できない。だからお前の力が必要なんだ」

 村の離れにアズウェルを連れて戻ったルーティングは、道場の前に立ち、術の説明を始めた。

 風に撫でられて、草がさわさわと鳴く。

「おれは何をすればいいんだ?」

 腕組みをしながらアズウェルは首を傾げた。

「お前、フレイテジアだろう。頭に構図を思い描け。村を囲むような五角形だ」

「正五角形か? まぁ、フレイトの図面に比べれば随分と楽だけど……」

「俺は術を唱える者だからその役目はできないんだ。五角形を頭に浮かべつつ、族長、まさ、マツザワ、アキラ、そして俺の気を均等にしろ」

 やればわかる、とルーティングは詠唱を始めた。

「俺もサポートはする。だが、あくまでサポートだ。俺に頼るな」

 いまいち感覚が掴めないが、確かにやってみればわかるだろう。印破りを始めた時も、最初はまったくわからなかったのだ。

 ルーティングは宙ではなく、大地に印を描いている。アズウェルはその動きに集中した。

 印が緑色の光を帯び、中心に立つアズウェルを軸に回転しながら浮き上がっていく。その速度が徐々に増し、遂にはアズウェルの周りに緑の輪ができた。

 光が地面にも投影し、足下で巨大な魔法陣が輝きを放つ。

「守れ、我らの友を……!」

 ルーティングは更に自分の前に印を描き、それを五角形で囲む。

 その時、ルーティングを含む五人から、緑の光線が空へ飛び出した。

「小僧、感じるか!?」

 風が強く吹いている。アズウェルを取り込むように、エメラルドの風が球状に渦巻いていた。

「あぁ……! 感じるぜ、マツザワたちの力!」

 アズウェルは肌でその強力な想いを感じていた。

 それぞれ僅かに波長は異なるが、芯の想いはただ一つ。


――ワツキを守る!


 先刻言われた通り、頭に五角形を思い浮かべる。その頂点に一人一人の力を配置する。

 唸りを上げ暴れていた風が、瞬く間にアズウェルの元へと収束していった。

「……流石、あの方の血を引く者だ」

 小さな呟きは、アズウェルには届かない。

 自然と笑みが零れたルーティングは、空を仰いだ。



      ◇   ◇   ◇



 突如緑色の光に囲まれ、ショウゴは頭をいた。

「いやぁ~、たっちゃん、派手にやってるねぇ~」

 これでは敵に場所を知らせているのに等しい。案の定、四方八方囲まれている。

「まぁ~、こっちから捜しに行かなくて便利だけどね~」

 不敵な微笑みを浮かべて、抜刀する。

「さて、キミたち。一瞬で終わるのと、苦しんで長らえるのとどっちがい~?」

 蒼焔が蒼い炎を帯びた。

「オレっち、手加減ってもん知らないからサァ。……ワツキを荒らす者には容赦しないよ」

 最後の一言は、陽気なショウゴの声とは思えないほど冷たいものだった。

 ショウゴをまとう光の輝きが、より一層明るさを増した。



      ◇   ◇   ◇



 疾走する彼女の軌跡が、エメラルドの道となって光り輝く。

 すれ違いざまに敵をなぎ倒しているマツザワは、自分が光を纏っているなど気付きもしなかった。

「あれが、由緒ある種族の次期族長……?」

 眼鏡を掛けた少年がにやりと口端を吊り上げる。

「緋色さん、デザートなんて言って見逃したんでしょうね。僕がいただいちゃいますよ」

 その眼鏡が怪しく光った。



      ◇   ◇   ◇



「アキラ……その光……」

 アキラは、ラキィの丸い深紅の目が自分に釘付けになっているのに気づいた。

「なんやろなぁ? 身に覚えがありまへんが……」

 上空から地上を覗くと、似たような光が他にもある。

「わいだけやあらへんなぁ」

「あんた、その光なんだかわかってる?」

 ラキィの意図が読み取れず、アキラは首を傾げた。

「それ、魔法の一種よ。しかもただの魔法じゃないわ……」

「この村に、魔法が使える者なんておりまへんがな」

 くるりと振り返ると、村から少し離れたところにも光が見えた。

 あの場所は、道場だ。

 アキラは眉をひそめる。

「アズウェルはん、魔法唱えられまっか?」

「アズウェルはできないわ。魔法は、唱えられない」

 つまり、アズウェルに修行をつけている者が唱えていることになる。

 二人は顔を一度見合わせ、道場から立ち上る光に目を向けた。



      ◇   ◇   ◇



 大分それぞれの力が均等に落ち着いてきた。

「小僧、歯を食いしばれ!」

 ルーティングの声に、アズウェルはただ頷く。

緑の塔(ライシャントゥワイス)!」

 ワツキを取り囲むようにして、五角形の柱が空へ昇る。

 アズウェルの身体に重圧が伸しかかった。

「く……まささんのが強すぎる!」

「あの馬鹿、闘志を剥き出しにしてるな。小僧、安定させられるか!?」

「やってる!!」

 叫び声に叫び返し、アズウェルは片手と片膝を大地につく。

「おれの、言うことを聞け!!」

 見開いたアズウェルの瞳は、ルーティングのエクストラを封じた時と同じ金色。

 凄まじい力がアズウェルから放たれた。

「この力は……魔力でもなければ、闘志でもない……」

 目を細め、ルーティングはその様子を見守る。

 五人の力が少しずつ、しかし確実に、アズウェルに制御されていった。



      ◇   ◇   ◇



 ディオウは目の前に現れた緑の壁を鋭く見つめている。

「これは、ただの魔法じゃない」

 背後の足音に顧みると、族長が立っていた。族長も壁と同じ色の光に包まれている。

「族長、この村に魔法を唱えられる者などいるのか?」

 ディオウの問いに沈黙をもって返す。

「……アズウェルに修行をつけている者の仕業だな」

「流石ディオウ殿。察しがよろしい」

「おれの勘だと、そいつはスワロウ族でクロウ族の奴だろう」

 不機嫌そうに目を細めるディオウに、族長は再び沈黙で答えた。

「今回ばかりは当たってほしくなかったがな」

 嘆息して空を見上げる。

「知らないだろうが、族長の息子が唱えているこの魔法は」

 一旦言葉を句切る。

失われし光(ロスト・ブリーズ)だ」

「古代魔法、と仰るのか」

「あぁ……恐らく、唱えているのは奴だが、制御しているのは……」

 ディオウはゆっくりと神社へ視線を送る。

 黙り込んでしまったディオウを、族長は真っ直ぐ見据えていた。

 やはり、千年前の聖獣。一目で古代魔法だと見破ったのは、かつて同じようなものを見たことがあるからだろう。

 役目を果たす時が来たのかもしれない。そして。

 族長も神社へ目を向ける。

 八年の間に、我が子に何があったというのだろうか。



      ◇   ◇   ◇



 アズウェルは問題児の力に悪戦苦闘していた。

「まささんの想いが強すぎる……!」

 他の四人と対等にならない。

「くっそ……!」

 意識を集めてみるが、その力は周りを呑み込むほど強かった。

「小僧に制御させるのも限界か……」

 ルーティングはショウゴがいるであろう方向を見やる。

 腰に帯びている二本の剣の内、一本を抜く。

「クエン、ソウエンに語りかけろ!」

 抜いた刀の刃が紅い炎を纏った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ