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DISERD  作者: 桜木 凪音
11/44

前夜*「第10記 不審な尾行者」

 日が沈む頃、アズウェルたちはロサリドに到着した。街の上空をディオウが旋回する。

「うわー、でけー」

「確かに……でかいな」

 アズウェルとディオウは、ロサリドの建物の数と規模の大きさに唖然としている。

 ロサリドはディザードで最も規模が大きい街だ。二人が驚くのも無理はない。

「あ~。なんて情けないの。もう! あんたたち田舎者丸出しよ!」

 ラキィが羽のような耳で頭を抱える。

「でっけぇもんはでっけぇんだって。さて……まずは」

「飯」

「だな!!」

 二人は意気投合しているが、ラキィがそれを許さない。

「何言ってるのよ! 街に着いたら、まず宿探しでしょ!?」

 この言葉の後、二人はラキィに叱咤され、宿探しをすることになった。



 宿探しを始めてたものの、動物連れ込み可能な宿はそう簡単に見つからない。ようやく見つかった頃には、日はとっぷりと暮れていた。

「ディオウ、入ってもいいぜ」

 アズウェルが闇に向かってささやく。

「おう」

 ディオウはふわりと二階の窓まで飛び上がり、アズウェルが開いた窓から侵入する。

「ふぅ~。人に見つからないように、お前らの後をついて行くのは骨が折れたぞ」

「お疲れさん」

 アズウェルが苦笑混じりに言った。

「おれも、疲れた。動物連れ込みオーケーで、部屋に鍵付きで、でっかい窓があって、安めのところってなかなか無いもんだなぁ」

「普通、そんなところ無いわよ。ある方が珍しいわ」

 とりあえずあってよかった。

 そう三人揃ってほっと一息つく。

「もーだめ、限界」

 アズウェルがどさりと床に倒れ込んだ。そのままぴくりとも動かずに、寝息を立てる。

「あ~ら、床で寝ちゃ風邪引くわ」

 ディオウがアズウェルの服をくわえ、ベッドに放り投げる。

 それでもアズウェルは起きない。文字通り、熟睡している。

「おれも疲れたぜ……」

 そう言い残すと、今度はディオウが床に倒れた。

「あら、二人とも寝ちゃったわ。さっきまで飯~って騒いでいたのに」

 ラキィは二人を呆れ顔で眺めてから机の上に飛び乗り、小さく体を丸めて静かに目を閉じた。



      ◇   ◇   ◇



 午前十時過ぎ。ロサリドのとある酒場。

 金髪の青年としゃべるトゥルーメンズという実に異様な光景に、酒場の客は唖然としている。

「ふぅ~。食った食った」

「アズウェル、あんた食べ過ぎよ」

 まぁまぁ、とアズウェルはラキィをなだめる。

「まったく、一人で五人分も食べて!!」

 今にも爆発しそうなラキィからそっと離れて、アズウェルは会計を済ませる。

「ラキィ、行こう」

 アズウェルは延々と文句を連ねるラキィの首根っこを掴むと、奇異の視線を向けられる酒場から逃げるようにして外へ出た。


 そんな彼らを黙々と観察していた青年がいる。

 頭に巻いている鉢巻を縛り直し、にやりと口端を吊り上げた。

「おっさん、ありがとうな。ほな、ここにお勘定置いておくで」

 青年は適当に銅貨をカウンターにばらまいて、席を立つ。

「ちょっと……お客さん足りませんよ!」

 金額を確認したマスターが慌てて呼び止めるが、青年の姿は何処にも見当たらなかった。



      ◇   ◇   ◇



 酒場の裏の路地に入ると、アズウェルは物陰に隠れているディオウに声をかけた。

「よ、ディオウ。飯食ったか?」

「やっときたな。おれは随分前に食い終わってたぞ」

 ディオウを連れて入るとあまりに目立ち過ぎるため、アズウェルは露店で買ってきた肉を渡したのだ。ラキィと二人でも十分目立っていたのに、ディオウまで連れて行けば厄介事に巻き込まれても不思議ではない。

「いや、それにしても、ここの味付けは最高だった。絶妙なスパイスと香ばしさがおれ好みだ」

「そりゃよかったね……」

 アズウェルは呆れ顔で相槌を打つ。

 どういうわけか、ディオウは生の肉を食べない。肉食動物であるのに、アズウェルたちと同じ食事を取るのだ。

 獣のくせに舌が肥えているのだから、手が焼ける。

 やれやれ、とアズウェルが肩を竦めた時、ディオウが叫んだ。

「走れっ!!」

「え? えぇ!?」

 突然のことに対処しきれず、アズウェルは思いっきり出遅れる。ラキィも首を傾げている。

「アズウェル、ラキィ、走れって!!」

 ディオウは頭でアズウェルの背中を押す。

 酒場の方から、「食い逃げだ!」という怒声が聞こえてきた。

「へ? おれちゃんと払ったぞ?」

「いいから、走れって!」

「え? えぇ?」

 訳が分からず混乱しながらもアズウェルは全力疾走する。

「も~!! 一体何なんだよ――!!」

 アズウェルの絶叫が街路地に響いた。

 

 程なくして、黒髪の青年が路地に現れた。既に酒場の裏はもぬけの殻だ。

 何も逃げることないのに。

 青年が頭を掻いていると、後方から怒号と足音が近づいてきた。

「追って、追われる……か」

 一瞬だけ顧みて、青年は駆け出した。



      ◇   ◇   ◇



「ここまで走れば……」

 ディオウが来た道を振り返る。

「一体どうしたって言うんだよ~」

「そうよ、何で急に走り出したの?」

 二人がたたみ掛けるようにディオウに訊く。

「あ~、それはだな……ってぇ!! おい、マジか!?」

 安堵しかけたディオウは、距離を縮めてくる気配に愕然とした。

「くそ、飛ぶぞ! アズウェル乗れ!!」

「へ?」

 ぼけっとしているアズウェルを、長い尾ではたいて催促する。

「後で説明するから、早くしろ!」

「え、あぁ、うん」

 とりあえずディオウに言われるがままに、アズウェルが騎乗する。

 ラキィが頭に乗ったことを確認すると、一目散にディオウはその場から飛び去った。

「ちょっと、落ちるわよ!」

「しっかり掴まっていろよ!!」

「ホント、ディオウ、ちょ、まっ――――!?」


 また一足遅かったようだ。

「う~ん……酷いなぁ……ホンマに酷いわぁ。けど、流石、ギアディス」

 さて、と青年は秘密兵器を取り出すと、黒いボタンを押した。



      ◇   ◇   ◇



 風の咆哮が耳をつんざき、髪をうねらせた。まともに前方を見据えることすらできない。

 必死にディオウの背にしがみつきながら、アズウェルは左手でラキィを抑える。力を少しでも抜けばこの小さな体躯は遥か後方へ飛ばされてしまうだろう。

「ディオウ飛ばしすぎだって!! ラキィが落ちる!」

「これくらい出さないと、振り切れん! 流石に、ここまで、飛べば、いくらなんでも……!」

 ディオウは徐々に速度を落とし、着地する。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「で、一体どうしたんだ?」

 肩で息をしながら、ディオウはアズウェルを見上げた。

「何か、怪しい、気配を、感じて……それが、しつこく、追って、来たんだ」

 途切れ途切れのディオウの言葉に、二人は首を傾げる。

「怪しい気配?」

「何それ? クロウ族なの?」

 いや、とディオウは首を振る。

「違う……と思う。殺気とかじゃない。何か、やばい気配がしたんだ。おれはそれに殺気より恐怖を感じた」

「殺気じゃなくて、クロウ族じゃなくてやばいって何だ? ディオウがそこまで感じる恐怖って……」

「う~ん、一体何やろなぁ~」

 アズウェルが言い差した台詞を、正体不明の者が繋いだ。

 アズウェルが顧みて、ラキィが瞠目し、ディオウが絶句した。

「な……な……何だよ、おまえ!?」

 いつの間にか真後ろにいた青年に、アズウェルが目をく。

 問われた不審者は、三人の様子を面白そうに眺めていた。



      ◇   ◇   ◇



 一人考え込んでいたマツザワは、ぐるぐると自室の中を歩き回っていた。

「あの阿呆を遣いに出したのはまずかっただろうか……」

 派遣したのが自分である以上、何か起きれば責任を取らねばなるまい。

「ディオウ殿に不興を買われなければいいが……」

 頭を抱えてしゃがみ込む。

 無理だ。いくら適当に見積もったとしても、彼が大人しくしているとは欠片も思えない。

 マツザワは深く、深く肩を落とし、嘆息した。



      ◇   ◇   ◇



 三対の目は不信感をあらわにしていた。

「何や、と? あんさんら目見えへんの?」

「悪いが、貴様が何を言っているんだか、よくわからん」

 ディオウが不審者を見据える。

「確かに少し変だけど……だいたいはわかるわよ」

「訛りが邪魔で意図が読み取れん」

「はぁ、しょうがないわね。私が訳すわ。えっと『あなたたち目が見えないの?』って聞いてるわ」

 溜息混じりにラキィが翻訳すると、ディオウは声を張り上げる。

「な……貴様、おれたちを馬鹿にしてるのか!? 見えるに決まってるだろうが!!」

「そんなら、なして『何だ』と言うんや? 見りゃわかるやろ。わいは人間やで」

 不審者は目をぱちくりさせながら、大袈裟に肩をすくめてみせる。

「『それなら、何で『何だ』と言うの? 見ればわかるでしょ? 私は人間よ』」

「違――――う!!」

 即、ディオウの怒号が轟く。

「おれが言いたいのはそこじゃな――――い!!」

「あのさ……」

 アズウェルが苦笑しながら口を挟む。

「ディオウ、ホントはあの人が何言っているんだかわかってるんだろ?」

「わかってない、知らない」

 ディオウは抑揚のない声で即答する。

「うん、わかってるんだな。ディオウ、余計に混乱するだけだからちゃんと会話しようぜ」

「む、何を言う。おれは真面目にやっているぞ。そこの不審者が真面目にやっていないだけの話だ」

 じろりと不審者を睥睨し、ディオウは尾を一振りする。

「不審者って……確かに怪しいけど、それはちょっと可哀相な気が……」

「不審者! 怪しい! 可哀相!!」

 いきなり破顔した不審者を見て、三人は咄嗟に後方へ飛び退いた。とても危険な香りがする。

 ごくり、とアズウェルは唾を飲んだ。

「ええわぁ~!! 最高やな!」

 予想外の反応に、三人は口を開けたまま固まった。

 拒絶オーラを放出しているディオウを気にも留めずに、不審者はアズウェルに歩み寄ると、その両手を取ってぶんぶんと上下に振った。

「ほんま、ナイスや、アズウェルはん!!」

 そこに、ディオウがすかさず吠える。

「この変態野郎!! アズウェルに触るなっ!!」

「変態、とな!?」

 不審者はアズウェルの手をぱっと放し、瞳をキラキラと輝かせた。

「極上やないか! 素晴らしい、ホンマ素晴らしい! 流石、ディオウはん、あっぱれや!!」

 間。

「じゃかぁし――――い!!」

「あなた、言葉の意味間違って捉えているわよ!?」

「ってか、何でおれたちの名前知ってんの?」

 三者三様の反応を見てから、不審者はアズウェルに笑いかけた。

「うん、うん。まずはそこに突っ込みいれなあかんなぁ。アズウェルはん、いい筋してまっせぇ~」

 それを聞いてディオウとラキィははっと顔を見合わせる。

 確かに。

 何故、名前を知っているのか。そして、一体何者――いや何物なのか。

「よし、振り出しにちゃぁんと戻ったなぁ。アズウェルはん、ナイスやったで!」

 ぐっと親指を立てて、不審者と呼ばれた青年は片目をつぶった。



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