Prologue
世界で最初に誕生した種族、リウォード。
平和を好み、自然を愛し、知恵に富んだ種族である彼らは、持って生まれたその知恵を己の極限まで高め、世界を発展させていった。
他の種族と交友関係を築き、それぞれの種族の特徴を認め、それぞれにあった環境を創り、与える。
それが彼らの生き様であり、多くの種族は彼らを尊敬し、称えた。
どの種族も争うことなく、自然と生物が共存する世界。
彼らはその穏やかな世界を平和な都市と名付けた。そして彼らを、世界は「王」と呼んだ。
〝王〟の統治時代。静かな時代が、楽園に流れていく。
誰もその平和過ぎる世界を、危惧する者などいなかった。
誰もその平和すぎる世界が、終りを迎えるなど、考えもしなかった――……
崩壊に、足音はない。
平和な楽園は、突如として消え失せた。一夜にして〝王〟が消えたのだ。
――何故。何処へ。
その答えを、知る者はいない。
何の前触れもなく、世界中で〝王〟と称えられた種族は、その姿を消した。それだけが事実。
世界は〝王〟が消えたと同時に、〝平和〟を失った。
〝王〟という核を失った世界は混乱の渦に呑まれ、荒廃していく。
代わりに産まれたものは、王座を巡る戦。勝者は王、敗者は奴隷。
世界中を巻き込む戦いが、人々の運命を無情に突き付けていった。
敗者には、逃げるしか生き延びる道は、ない。
だが。
――逃げ切ることができるのか?
――仮に逃げ切れたとしても、生き延びることができるのか……?
安全の保証など、何処にもなかった。
一生奴隷の果てで息絶えるか、可能性を信じて命を賭すか。絶望と希望を天秤に掛ける。
運命は、押し付けられるものではない。
――例え、力尽きようとも
選ぶは、人として生きられる道。
彼らは逃げ出した。遙か南にあるノウティス大陸を目指して。
当然、王がそれを許すはずもない。決して安易なものではなかった。
それでも彼らは、穏やかな暮らし、自由な暮らしを求めて、荒れ狂う海原へ身を投じる。
彼らに場所を選ぶ権利など、初めから欠片も存在しない。
大陸と島々が密集している北の地では、何処へ行こうとも王の手中に変りはないのだ。
太古の幻として語り継がれた南の地は、王から逃れるためのたった一つの術。
それと同時に、彼らにとってノウティス大陸は唯一の希望だった。
――もしかしたら、この地に〝王〟が、リウォード族がいるかもしれない……
そんな願いを、抱いていたからである。
未知なる大陸、ノウティス大陸。
生物も、植物も、独自の進化を遂げている姿がそこに在った。
獰猛な生き物がいるかもしれない。猛毒や、伝染病が蔓延している可能性もある。
常に危険と隣り合わせの生活に、他の種族に関わる余裕など、彼らは持ち合わせていなかった。
王は、不要だ。
彼らにとって、王は、〝王〟しかあり得ない。
争いはない。だが平和でもない。
不安定な時代が、時の止まった空間が、其処には存在していた。
世界から欠け落ちたその空間を、世界はこう呼んだ。
――欠落の虚園、ディザード
〝王〟の消失から一千年の時を経て、まるで失った欠片を取り戻すかのように、ディザードでは戦争が勃発する。
――王座を巡って