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私が消えてしまうのに

この物語は全てフィクションです。

空ちゃん。空ちゃん。

大好きだよ。


貴女のためなら何だってできるからね、私。貴女が行かない学校も、私が代わりに頑張って良い成績取ってくるよ。数学とかは……全然できるようにならないけど、もうちょっと待っててよ。びっくりする点数取ってくるんだから!部活も頑張るんだよ。時々嫌なこともあるけれど、大好きな合唱部。この前のコンクール、賞取ったんだ。来年は私、部長なんだよ。それからお金も頑張って稼ぐよ。まだ高校生だけど、それなりに上手くいってる方なんじゃないかな。今度ちょっと良いところでご飯食べに行こうよ。外食もしたいけど、また一緒にお家で作るのもありだよね。空ちゃんの作った和風パスタ美味しかったな。私のトマトソース味はちょっと濃すぎたんだっけ。でもいつも美味しそうに食べてくれる貴女が大好きだよ。作れるお料理がだんだん増えていくの。

うん。やっぱり、私は空ちゃんのためなら何でもできる。貴女がいれば何も怖くない。




2025/10/13

涼しい風の心地良い夜のことだった。2人で好きなアニメの映画を見に、隣の市まで足を運んだその帰り道。なかなか余韻が抜けなくて、遊び疲れた体にも気が付かず月夜の下語り合った。映画館の音響は一等素晴らしかったこと。絵の表現のこだわりを感じた部分。声優さんの演技。好きなキャラクターのカッコよかったシーン。コンビニで買ったおにぎりを頬張りながら、知らない街の夜道を歩く。貴女と食べるご飯なら、どんなディナーより特別なの。スマホの通知音に目をやると時刻は19時を超えていた。10月の夜も侮れない。すっかり暗い上に初めてのこの場所を1人で歩いたなら、どれ程暗い道だったろうか。今思えば、貴女と歩いた道はどこも明るかった。どこもかしこもカレットで舗装されていたのだろうか。

体の熱が夜に溶けてきた頃、何気ない会話の中で貴女はこう言った。「空、何にも頑張ったことない。」

どうして、そんなことを言うの。私は知っている。貴女の描く絵が、何年もの努力の結果であること。苦しかった時、優しい貴女は決して怒らず耐えていたこと。私が無理を言っても聞いてくれること。そう、私が苦しめている節もあるのだ。それでも小さな幸せを、いつも隣で必死に紡いでくれること。

だけど、その次に出てきた言葉で、もうダメだった。


……ああ、書けない。文章にしてしまいたくない。認めなくない。苦しい。

ただ、悔しいことに、空ちゃんは私に何を頑張っているかを聞いたのだった。決して、問い詰めるような物言いではなかった。ただ本当に、純粋に聞いただけなのだろう。悪意なんて感じない。私が何と答えるか、試したかっただけだったのかもしれない。


私は、明日まだ仄暗い時間に目を覚まし、貴女のいない学校に行き、数週間後のテストに向けて勉強をする。私は、貴女の関係ない委員会の仕事でゴミ収拾をし、その後は来月の発表に向けて部活で歌を練習し、貴女のいない当たり前の日常を生きる。貴女という非日常が、色のない日常からの逃げ場所である。セピアかモノクロかもわからない世界で、力尽くで貴女を思い出して空色の絵具をぶち撒ける。貴女は知らないのだ。私の世界を。知らなくて良い。知って欲しくもない。知らなくて良いけど、私が貴女を思って闘っていることくらい、知っていると思ってしまっていたのだった。惨めで仕方なかった。2人なら世界中がネバーランドのはずなのに。結局は、貴女と比べて優越感に浸っているだけなのか。私の思いは全て嘘なのかもしれない。頑張っていることなんて考えずとも山ほど浮かんだ。どれも貴女には縁のない単語ばかりだ。どれから口に出して貴女を苦しめてやろうか。「学校」と言って劣等感を抱かせてやっても良い。「仕事」と言って諦めた過去を思い出させても良い。「音楽」と言って私にしかできないものを強調しても良い。


なんて、貴女を傷つけようとする自分を横目に、できるだけこの夜に馴染んだ声で態とらしく唸ってみせた後 「生きること」 とだけ答えた。貴女にだって苦しいことがある事くらい理解している。私なんかより何倍も、苦しくないはずが無いのに。他でも無い私が貴女を1番大切にしていたいのに、貴女を抱きしめるはずだった私の両手は気がつけば貴女の首を絞めている。

すると貴女は何も知らないのか、私の思いを察しているのか、どちらとも取れない様子で「空、生きるのも頑張ってないな」と返事をした。なるほど、この問いに正解は無かったのか。それなら何でも良い。なんと答えようと少なからず傷つけたのだ。

でも、それほどに、世界中で貴女だけが認めてくれたなら私はそれだけで幸せなのに。





それは、冷たいワンルームの床の上、殺鼠剤を口に含んだまま呑み込めず泣いている愚かな少女の話。彼女にとっての星灯りを自称する私の話。

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