待ち合わせ
「拓、久しぶり!」
そう言いながら改札口から出てきたのは、中学からの友人である奈緒だ。
「本当、久しぶりだな」
「由紀子、来れなくて残念〜」
「奈緒によろしくって言ってたよ。そっちこそ、徹は来なかったのか?」
「…ちょっと別の用事があってね」
俺と徹、奈緒、由紀子は中学から大学まで一緒だった。
大学卒業後、俺は地元で家業の酒屋を継ぎ、由紀子も地元で小学校の教師に、徹と奈緒は東京で就職。
そんな俺たちの母校である中学校が廃校になってから十数年。
今月末に取り壊しが決まった。
「けど、急にこっちに来るって連絡があった時は驚いたよ」
「やっぱり、最後に私たちが通った中学校を見ておきたいじゃない?」
「徹と奈緒が付き合い始めた思い出の中学校だもんな。…結婚はまだなのか?」
「んー…結婚は…まだ先かなぁ…」
「ふーん」
「…でも学生時代が一番楽しかったな。徹と私、それぞれ違う仕事だから…。会う時間もなかなか都合つかなかったり…。それに社会に出ればそれぞれ付き合う人も違ってくるでしょ?」
「…まぁ…そうかもな…」
何となく…徹とうまく行っていないような空気を感じた。
俺はあたりさわりのない返事を返す。
そうこうしている内に、懐かしの母校に到着。
やはり門は閉まっていた。
門には立ち入り禁止の看板があった。
俺たちは裏門に向かい、途中で足を止めた。
フェンスとフェンスの境目のところを少し強く押すと、人ひとり通れるくらいのスペースができた。
「ずっと直さずにいたのか。やばいだろ」
「ふふ。遅刻したらよくここから入ったね」
奈緒は嬉しそうに中に入って行った。
授業をサボって四人で過ごした外階段。
昼食はよく屋上で食べていたっけ。
テスト前は図書館でお互いの得意科目を教えあったな。
忘れていた記憶が溢れるようにと蘇ってくる。
「…四人で来たかったな…」
奈緒が校舎を仰ぎながら呟く。
「また別の日に四人で会おうぜ」
「……」
奈緒は俺の言葉に何も言わず、ただ微笑む。
頭上にあった太陽が傾き始めた頃、俺たちは中学校を後にした。
「あ、ゲームセンター」
駅に向かう途中にあったゲームセンターへ入って行った奈緒。
そういえば学生の頃、よく寄って行ったな。
「拓、このぬいぐるみ取ってよ」
そう言いながら、クレーンゲームの中にあるぬいぐるみを指さした。
「えー、こんな大きいの無理だろっ」
「やる前から諦めない!拓なら取れる!」
妙な叱咤と声援に、やらない訳にはいかなくなった。
「わあっ、ありがとう」
「どういたしまして」
何度目かの挑戦でやっと取れた。
…普通に買った方が安いぞ。
「そういえば、あの頃もよく徹にぬいぐるみ取らせていたよな」
「…うん」
「あいつ、夢中になって、取れるまで諦めなかったな」
「そうだったね…でも…今は別の方に夢中になっているけど…」
「…どういう…」
「…じゃあ、私そろそろ行かなきゃ」
奈緒は俺の言葉を遮るように言った。
「え? 一緒に食事でもしようと思ってたんだけど…」
「ごめんっ 向こうで徹が待っているから。じゃあね」
そう言うとぬいぐるみを抱いて走り出した。
「あ、じゃあまた…っ」
俺の言葉をろくに聞かず、奈緒は行ってしまった。
「徹…東京で奈緒帰りを待っているのかな?」
(徹とうまく行っていないと思ったのは考えすぎだったか? けど…)
俺は妙な違和感を持ちながらも、奈緒が去った方に背を向けて歩き出した。
その時、ある事に気が付いた。
「あれ? あっちの方角は…おっと」
スマホの着信音に一旦思考を止める。
「よぉ! 久しぶりだな」
画面に表示された相手は由紀子だった。
「…た…拓…っ た、大変だよっ…」
いきなりの由紀子の言葉に俺は戸惑った。
それに何だか…涙声のような…
「え? 何? どうしたんだよ」
「と…徹君……な…亡くなったんだって…!…」
「……………は?」
「……こ、殺されたって!」
由紀子は泣きながら残酷な現実を俺に伝える。
「え? こ、殺されたって徹が?! どういう事だよ!」
「さ、さっき…警察が来て……警察は参考人として…な、奈緒を探しているみたいなの…っ わ、別れ話のもつれとかって…」
「な…っ!」
徹が死んだ…っ 殺された?!
警察が奈緒を探しているって…ま、まさか…!
俺の頭の中は混乱していた。
「ま、待ってくれっ 俺さっきまで奈緒と…っ」
その時、けたたましいサイレンを鳴らしながら、パトカーと救急車が目の前を走り去る。
そっちはさっき奈緒が走って行った方角だ。
俺たちの中学校がある…!
「拓? どうし…っ」
電話の向こうで由紀子が何か言っていたが、かまわず切ってパトカーを追いかけた。
そう…さっき奈緒が向かった先は中学校だ!
「はあ、はあ」
息を切らしながらついた中学校の周りには、多くの野次馬で溢れていた。
「すみません、通して下さい! すみません!」
俺は人だかりを掻き分け、中へと進んで行った。
いろいろな声が耳に入る度に、胸の鼓動が早くなっていく。
「飛び降りだって」
「そういえば、さっき若い女性が校舎に入っていくのが見えたわ」
「まさかあんなぬいぐるみをかかえて飛び降りるなんて思わないわよ」
門の外には警察官が立っており、黄色いテープが張り巡らされていた。
遠目で白い布が被された何かが見える。
その傍には、俺が取ったぬいぐるみが転がっていた……
「…うそ…だろう……」
俺の足はその場から崩れ落ちた。
「君っ どうしました? ……っ ……っ!」
警官が何か話しかけているが、何も聞こえない。
頭に浮かんだのは、ぬいぐるみを抱えて走り去る奈緒の後ろ姿。
…奈緒、最期になんて言ってたっけ?
『向こうで徹が待っているから』
【終】




