義妹の言い分
虐げものでありがちな義妹の言い分
貴方たちなんで怒っているんですの?
私はお父様の言うとおりにしただけですわ。
貴方達だってあの人が邪悪だって言っていらしたではありませんか?
強欲で、汚らしくって、乱暴だって
だからお父様はあの人を離れに閉じ込めていたんですから
お父様は愛するお母様と別れさせられて無理やり結婚させられて生まれたのがあの人です。あの人は生まれる時に産声を上げた後は一切泣かなかったそうです。ちなみにあの人を産んだ女は産褥で死んだそうです。
であの人を不気味に思ったお父様はあの人を乳母に任せて離れに閉じ込めてしまいました。喪が開けてから私のお母様と結婚したんです。生まれたのが私です。
私は気持ちが通い合った両親から産まれたのです。
これは私の誇りです。
お父様はあの人を親類に養子に出して我が家から追い出すつもりでした。
望まれない婚姻から産まれた存在なんですから当然です。
しかし、教会の審査により高魔力だと言うことが分かりました。通常の十倍の量の魔力だそうです。
あの人は国の資産になる存在になってしまいました。
お父様はあの人を教会に差し出そうとしていましたが、断られてしまいました。なんでも私たちが裕福で子供の養育に問題無いからだそうです。
ここで教会があの人を引き取ってくれたら良かったのにと思います。
お父様はあの人が成人する年齢、十七歳まで我が家で育てなければならなくなりました。
お父様はあの人を再び離れに閉じ込めました。
世話をする使用人は必要最低限しか付けておりません、教会からの家庭教師が来るときだけ屋敷に来させます。
人前に出すのですから、風呂に入れ、歯を磨かせ、髪はブラシをかけて、服にはシワもなく清潔なものを用意しているはずなのですが、どことなく汚らしく陰気で姿を見る度に気が滅入りました。
家庭教師から虐待の疑いをかけられたのも一度や二度ではありません
あの人は無表情で謝罪どころか何も言いませんし何もしませんでした。
あの人は我が家の恥でした。今でもですね。
使用人も定着せず交代であの人の世話をさせていました。どうやら使用人の間ではあの人の世話をするのは罰になっていたみたいです。そりゃ陰気ですもの
私ですか?私は屋敷で一流の教育を受け、私専任の使用人も多数おります。ドレスも香料も最高のものをお父様が用意してくださいました。
容姿もお父様譲りの黄金の髪にサファイヤの瞳に薔薇色の頬と素晴らしいものです。泥の様な髪に沼の様な目で蝋の肌の痩せこけた容貌のあの人とは比べるまでもありません。
私は家の希望とお父様がおっしゃっておりました。
学園に通う年齢になりますとあの人を学園の寮に入れようとしたのですが、またも家が近いからと断られました。お父様はこれを機に家から出したかったのですが、
この頃になるとあの人は高魔力なのを良いことに魔力を見せつけていました。
手を触れずにものを動かし、水差しもないのに部屋を水浸しにし、暖炉もないのに焦げ目を作り、部屋の中で風を起こし周囲をめちゃくちゃにしていました。
使用人達が「部屋が片付かないし、掃除が大変」と漏らしていたのでだったらあの人自身に片づけさせれば良いと命じ、以降は離れの掃除はあの人にやらせるようになりました。
そのせいであの人はますます汚らしくなってゆきました。
私は家庭教師から「魔術より魔力制御だ」と教えられ、日々魔力の制御に励んでおりました。
早く学園で魔術を使いたかったです。
学園に入るとあの人は教会から期待されたような力を発揮出来なかったようです。
学業の成績はそこそこ、運動もそこそこで特筆するところが無く、肝心の高魔力は制御が上手くいかず、無茶苦茶になっているみたいです。
やっぱりダメな人は何をやらせてもダメだとお父様がおっしゃっていました。
友人も出来ずにいつも一人で居るようで、図書館では「本に焦げを作るから」出入り禁止にされ、庭園は「水浸しにするから」立ち入り禁止にされていますので、裏庭でぼーっとしているみたいでした。
私は学業の成績優秀、魔術も優秀で繊細かつ才色兼備と謳われ学園の花と呼ばれ、お父様からも鼻が高いとお褒めの言葉をいただきました。
ただ一つあの人の妹で無ければ・・・と
全てが変わったのは学園に皇国の王子が留学して来てからでした。
皇子様は殿下は我が国では見たことのない月の光を集めた様な銀色の髪に紫水晶の瞳の美しい方で、豊かな知性を感じさせる会話に学園の教師達をも感嘆させる頭脳、鋭さを感じさせる武術と文武両道で私たちは憧れました。
なんとかしてお近づきになろうと詰めかけるもの達で周囲はいっぱいでした。
恥ずかしながら私もその一人です。
ですが殿下はお一人でいられるのが好きらしく、授業以外はお供も連れずにお一人で過ごしており、護衛の方も視界に入らない様にして居ました。
そんな優美な方が、何を思ったのかあの人をそばに置く様になったのです!
殿下が学内を案内してほしいと頼んだのがきっかけだそうで、教室移動の度に一緒に行動する様になり気がつけば食事や勉強も一緒にする様になって居たのです!
どんな穢らわしい手段を使って近づいたのでしょう!
殿下の優しさに付け込んだに違いありません!
あの人は相応しくない!あの人は汚れている!あの人は何もできない!殿下にとって有益な存在ではない!
私たちはことあるごとに進言しましたが、聞き入れてくださいませんでした。
私達は殿下の目を覚まさせようと、あの人の今までの所業を訴えました。魔力の制御が出来ないこと、不潔であること、部屋を魔力で散らかすどころか破壊すること、望まれて産まれて来たのでは無かったこと
殿下はあの人から離れるどころかよりいっそう側に寄り添う様になりました。
勉強も武術もあの人に教えているようです。
これは、あの人が殿下に魅了の呪いでもかけているに違いない!と!
あの人には魔術も!美しい容姿も!頭脳も!何もないと言うのに!!!
私は殿下をあの人の魔の手から救い出そうと、あの人が殿下に近づくのを阻止しようとしました。
あの人が提出したレポートを教師が確かめる前に処分し(字が汚かったです)、護身術の授業では足を引っ掛け、わざと壊れた器具を渡したり、(そもそもノロマな動きしかできないのであんまり意味無かったです)教科書を処分したり(ヨレヨレでした)しましたが、効果は無く教師に厳重注意されました。
かえって殿下があの人から離れなくなりました。
私はお父様に相談しました。何とかして殿下の目を覚まさせたいと!
お父様はこうおっしゃいました。
「あれの魔力を暴走させれば良い」と
私は学園祭で行われる「魔術披露大会」でこれは皆さん知っての通り学園の生徒が魔術を披露する大会です。
そこで私は皆さんの力を借りてあの人が魔術を披露するときに使われる舞台に魔力に反応して爆発するような仕掛けをして爆発事故が起こる様にしました。
側から見ればあの人が魔力制御に失敗して事故が起こる様にしたのです。
あわよくばあの人の命をも、と・・・
しかし爆発は起きたものの、あの人を傷つけるまでにはならず、それどころかこの策が殿下にバレてしまい衆目の元にさらされたのです!
「よくペラペラと喋るな」って皆さん協力してくれたではありませんか?
「ここまでのことになるなんて思ってもみなかった」と?ここまでしなきゃあの人が殿下から離れないでしょう?
「よくも巻き込んだな!」なんて!貴方たちあの人を嫌っていたではありませんか!
そこの貴方は本を濡らされた!とそこの貴方はノートを燃やされたと!貴方はレポートを風に飛ばされて書き直さなければならなかったと!皆さんあの人なんか居なくなれ!とおっしゃっていたではありませんか!
私にばかり!私にばかり!押し付けて!あんまりじゃ無いですか!
しかもお父様を逮捕するなんて!お父様はあの人に苦しめられたのですよ!
教会だって!何もしてくれなかったではありませんか!さっさとあの人を引き取ってくれればこんなことにはならなかったはずです!
「自業自得だ」って?殿下?なんであの人に構うのですか?何もできない何も言わない、笑いもしない、他人より優れて居るのは魔力量だけ!その魔力だって暴走させ周囲に迷惑をかけるあの人を!
「愛しているからだ!」
・・・って殿下?あの人は男ですよ?殿下と同じく?子供だって出来やしません。
「性別など関係ない!同じ孤独を分かち合える存在だと思ったからだ!私は彼を国へ連れて帰り共に生涯を送ろうと考えて居る!」
・・・孤独って、あの人が誰かと何かを分かち合えるとは思えません・・・!ってあの人の高魔力目当てですね!それしか考えられません!
「例え彼に魔力が無くとも私は彼を愛している!」
・・・・殿下あの人に愛を求めるのはおやめくださいませ。
あの人には愛を感じる心が無いのです。
その証拠にあの人は殿下に微笑みかけたり感謝したりしないでは無いですか。
今この瞬間でもずっと睨んでいるではありませんか!
「それはお前達が虐げて来たからだろう!これからは私が彼に愛を注ごう!そうすれば必ず!」
虐げて来たって!私達はあの人を遠ざけて関わらない様にして来たかったのに!何度も何度も!私どもの目に届かないところで何をしていようが野垂れ死のうがどうでも良かったのに!でもでも周囲が押し付けて来たんですわ!血を分けた家族だから!兄妹だからって私たちに押し付けて来たくせに!!!!
お父様から聞いたのですが、あの人の乳母はあの人を笑わせようとしたのですが、笑わず無表情だったそうです。使用人達だって世話をしてもそれこそ食事を食べさせたり、髪を梳いたり、体を洗ってやっても、無表情で睨むばかりで、成長して自分で身の回りの事はできる様になったら体に触れられるのを嫌がり、全てを拒絶するんだそうです。
殿下私にはあの人は殿下を憎んでいる様に・・・いえ全てを全ての人々物事を憎んでいる様に見えます
全てをずうっとずうっとねえ。
最後ボーイズラブ風味