表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

第28話「月と剣、真なる契約」

「……月竜殿からの御召しです」


その報せを受けたとき、私は言葉を失った。


月竜から“直接呼ばれる”など、滅多にあることではない。

ましてや、私のような存在が──


けれど、私はすぐに答えた。


「参りましょう。今夜こそ、すべてに“誓い”を捧げます」


* * *


案内されたのは、王宮の奥、月の塔と呼ばれる高所。

月光が差し込む特別な祭壇が、そこにはあった。


天井のない、半円形の空間。

空を覆う雲が晴れ、月がくっきりと姿を現している。


「よく来たな、リセリア・ヴァンブローズ」


響いたのは、人の声ではなかった。

それは、意識の内側に直接響くような──


けれど、確かに“声”として感じられるもの。


「これより、お前に“真なる契約”を授けよう。

月の剣を継ぐ者として、汝が本当にふさわしいか、今一度問う」


「……応じます。

私は、この国と、人々と、そしてこの剣に誓いを立てます」


私は、手を差し出した。


すると、月の光が一筋、私の手のひらへと落ちてきた。


「誓約の証として、汝の“真名”を示せ。

──汝が、己のすべてを賭してこの剣を継ぐと、示すために」


“真名”──それは、この世界における最も強い“言霊”。


誰にも明かすことのない名を捧げることは、

契約の中でも、最上級の“縛り”である。


私は、胸の奥に刻まれているその名を、静かに心の中で唱えた。


「我が名は、リセリア・ヴァンブローズ。

すべてを継ぎ、すべてを断つ者。

この命にかけて、月の剣に“誓い”を」


瞬間、光が爆ぜた。


眩い月光が私の周囲を包み込み、空間が揺らいだように感じた。


そして、光の中心から──

一本の剣が現れた。


それは、かつての“演武”で応じた剣とは異なる。


より研ぎ澄まされ、重く、そして──美しかった。


「これこそが、真なる契約の証。“月光の聖剣”なり。

リセリア・ヴァンブローズよ。

汝は、今より“正統なる剣姫”として、この国を導く存在となる」


私は、その剣を両手で受け取った。


重みが、確かだった。

責任の重さでもある。

でも、私は決して、その重さに怯まない。


「誓いは、果たされました。

この剣とともに、私は歩みます。どこまでも」


「──リセリア!」


* * *


背後から、声がかかった。


振り返ると、そこにいたのはノエインだった。


「終わったのか?」


「ええ。

すべて、受け取ってきたわ。“剣姫”としての証を」


私は、剣を見せる。


ノエインは目を細めて、それを見つめた。


「綺麗だな。まるで……夜空そのものを切り取ったみたいだ」


「ふふ、詩人みたいね」


「いや、学者だから。比喩は得意だよ」


軽口を交わしながらも、

私は、彼の目に“敬意”が宿っているのを見逃さなかった。


「で? これからどうするんだ、“剣姫”殿?」


「まずは──明日、国王陛下に正式な報告を。

それから、クロエとリオネルの一件について、“聖堂の決定”を確認するわ」


「うん、動き出すのか。いよいよ本当に、国を背負うつもりなんだな」


私は黙って頷いた。


もう、“悪役令嬢”と呼ばれていた頃の私じゃない。


誰かの脚本に従って動く“駒”でもない。


私は、自分の手でこの国を見つめて、考えて、選ぶ。


それが、“剣姫”としての道──

そして、リセリア・ヴァンブローズという人間の、誇りだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ