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08『観測船より』

 その船は、世界の端を慎重に進んでいました。


「いやぁ、やばいっすね。これ、落ちたらどうなるんすかね」

下宇宙(したうちゅう)には、なにもないと聞く」

「なにもない? 海が落っこちてるのに?」

「それが、カオスだ」

「船長、絶対適当言ってますよね?」


 観測船ラナンキュラス。オレンジ色に塗られたその船は、絶滅寸前の人類の数少ない希望でもありました。

 複数回の航海で明らかになった事実は、平面化した地球の外周、要するに、海が落下していく世界の端から見て五百メートル以内であれば肉体の蝋化が起きないということ。一キロメートル以内であれば蝋化の進行が極めて遅くなるということ。二キロメートル以内であれば、通常の進行速度の三分の一程度で済むということ。そして、海の上で人が生きていくことが、とても、とても難しいということ。


「しかし、この旅も終わりだな」

「それは助かりますわ。正直、両腕なしで海はしんどいっす」


 船員は皆、手足のどれかを最低一本以上なくしていました。これは、世界を救う者だからこそ施された高級技術の結果。優先的に手足が蝋化するよう仕向けることで、脳と臓腑が稼働する時間を稼ぐ加工を受けた者たちが、この船に乗っているのです。

 蝋になってしまった部位はすぐに切除する。そうすることで寿命が延びるというジンクスから、彼らは自分自身で、時に仲間同士で手足を削りあい世界の果てまでやってきました。


「もう、舵輪を回せるのは俺だけだからなぁ」


 船長以外は皆、仰向けで空を見上げていました。船が、もう引き返せないところまで来たことを察していたからです。


「ヨーソロー!」

「船長、それ、どういう意味です」

「もうわからん、多分、俺の脳は、もう、半分くらい蝋になっているのだろう」

「ははは、船長が頭使ってもの考えたことありましたっけ?」

「ねぇな」


 世界の端から船が一隻、奈落の闇へと落ちていきました。

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