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06『フランク・シナトラを聴いて』

 その女は、世界で最も賢い人間は自分であると理解していました。同時に最も賢いことと、最も優れていることがイコールではないこともよくわかっていました。


 ドクターストライプこと、ルールー・ララトアレ。


 ドードー再生プロジェクトの一員でもあった彼女に最初につけられたあだ名は、ドクタートランプというものでした。あだ名の由来は、不思議の国のアリスのキャラクターのトランプ兵から。地球がまだ丸かったころに、ルールーにポーカーでしこたま負けた同僚が、悔し紛れにつけたあだ名です。


「いくらなんでも、安直すぎるだろう」


 ルールーはトランプというあだ名を嫌がり、トランプとよく似た響きを持つ言葉であるストライプを自身のあだ名にするよう周囲の者に言って聞かせたのです。それもまあ、安直ですけどね。


「ねぇルールー。あなたは今、なにを考えているのかしら?」

「ああ、昔のあだ名のことだよ。もう、誰にも呼ばれなくなってしまったからね」


 ドードーを復活させたときのメンバーは、もう誰一人いません。皆、死んでしまったからです。


「なんてあだ名なの?」

「この世界に必要なものはなんだと思う」

「話を逸らすということは、聞かれたくないあだ名なのね」

「ほう、なかなか気を使えるじゃないか、アリス」


 アリスと呼ばれたのは、金髪碧眼の少女でした。エプロンドレスに身を包んだ姿は、不思議の国のアリスの主人公、アリス、そのものです。


「私は思うんだ。世界を救うのはいつだって純粋さだと」

「それじゃあルールーは、世界を救えないわね。だって、話題をころころ変えて、私との会話を楽しむことを放棄しているもの。邪悪だわ。まるでジャバウォックよ」

「辛辣だね。まあ、間違ってはいないが……なんせ、マイ・ウェイがシド・ヴィシャスのオリジナルソングだと信じていた私は、とっくの昔に死んでしまったからね」

「今日は誰の歌を聴かせてくれるのかしら?」


 アリスはできるだけ話を広げないことにしました。ルールーと話すのが、面倒になってきてしまったのです。


「そうだな、アレッサンドロ・モレスキはどうだ。君は、美しい音が好きだろう」

「音以外も好きよ、美しければ」


 ルールーが指をパチンと鳴らすと、デジタル化された古い蓄音機が聖歌を奏でます。


「モレスキはいつ聞いてもいいな……ああ、そうか。純粋さの消失とは、ワイヤーアクションが発明されてアクション映画がダサくなったことによく似たものか。それとも、インターネットのせいでロックが死んだことか?」

「ルールー。あなたはいったい、なにが言いたいのかしら? 会話を成立させる気はある?」

「残念ながら、私が一番得意なコミュニケーションは論文だ」

「あなたは、馬鹿ね」


 そうかもしれないなと、天才科学者は笑います。嬉しそうに、嬉しそうな顔で。

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