「遠藤くん、触ってほしくなっちゃった」もう我慢の限界! 熱く交わる2人…
サッカー部の松本がまた、僕たちの教室にやって来た。
そして僕のもとに近づいてきた。そして僕の目をにらみつけて、
「遠藤、小泉さんを賭けて、俺と勝負しろ!」
と言う。
クラスのみんなは、ぽかんとしている。
松本が小泉さんを気にするのはわかる。でも、なぜ遠藤が関係あるのか? みんなはそう思っている。
なにしろ僕は、成績も運動も平均点以下、何かで目立つこともなく、クラスのなかでは最底辺男子で、しかも友達もいない「ぼっち」だ。
そんな男子が小泉さんと何の関係があるの? クラスのみんながそう思うのも当たり前だった。
しかし、これは後からわかったことだが、松本は小泉さんのことを調べまくって、僕の存在を突き止めていた。
Jリーガー候補生としてモテまくっている松本には女の子たちの親衛隊がいる。
彼女たちに「小泉さんがストーカーで困っている」と触れ回り、近づいている男がいないか探っていた。で、チラチラしていた僕の影が浮上したというわけだ。
松本は僕に宣言した。
「今日の放課後、マラソン勝負だ。第2運動場のサブグラウンドのトラックを2時間走って、何周できたかで勝ち負けを決めるぞ。負けたほうは、小泉さんから手を引くんだ」
ぽかんとしていたみんなだが、どうやらおもしろそうな勝負が始まりそうだということで、一気に盛り上がっている。
結局、僕も引くに引けなくなった。サッカー部のエース相手に勝てるわけのない勝負だが、逃げてしまうと明日からもうイジメの対象になって、転校でもしなければならなくなるのは確定だから。
放課後、第二グラウンドにはクラスのほとんどのメンバーが集まった。
松本と僕はスタートラインに立った。松本の親衛隊の女の子たちがスターターと周回カウントを務める。
位置について、スタート! 松本が僕に見せつけるように一気に前に出る。
僕は勝負が一気についてしまわぬよう、ゆっくりとスタートする。これも弱者の知恵だ。すぐにKOされてしまってはギャラリーが満足しない。せっかく見に来たのに、金返せ、となる。別に金はもらっていないのだけれど…。
松本はどんどん飛ばしていき、5周ほどするうちに、僕を周回遅れで抜いていった。開始20分くらいの時点だ。
クラスのみんなは、判官びいきで、明らかに負けている僕の方を応援する。
「遠藤、頑張ってついていけ〜!」
「骨は拾ってやる。死ぬ気でやれ〜」
中には珍しく、女子たちが声を合わせて、
「遠藤く〜ん!」
とコールしてくれる場面もあった。きっと面白がっているだけだけど。
ギャラリーの中に、小泉さんもいた。
彼女が僕を心配そうに見ているのが見える。ごめん、情けない男で…。
40分経過。
松本は僕を2周の周回差で引き離していた。
しかし僕も不思議とギブアップせずで走り続けていた。おそらく30分は持たずに諦めてしまうと思っていたのだけれど。
やがて、松本と僕の差が開かなくなってきた。1時間経過の時点である。
70分の時点、僕と松本の差が、徐々に詰まり始めた。
「遠藤くん、カッコいい〜!」
と黄色い声のコールが響いた。驚いて見ると、長野留美さんが顔の前で両手をメガホンの形にして、僕に応援を送ってくれている。
それを機に、女の子たちの声援が飛んでくる。
「遠藤くん、頑張って〜」
男たちも面白がって、
「松本なんてやっつけちゃえ〜!」
などと騒いでいる。
僕自身も、小泉さんのことを諦めたくはない。負けてもいいから最後まで走り切ろうと心に決めた。
90分、サッカーならタイムアップの時間だ。この時点で僕は松本の周回差を一周だけ抜き返した。松本は明らかに脚に負担がきている。毎日の厳しい練習の疲れの影響もあるのだろう。 しかし僕はなぜか平気だった。もしかして小泉さんへの気持ちが疲労を吹き飛ばしているのだろうか。
110分経過、僕は松本との差を10メートルに詰めていた。
ギャラリーの盛り上がりは最高潮。松本の親衛隊からは黄色い声援が響き、僕に対してはからかい半分の面白がる声援が響く。
残り30秒。松本がわずかに2メートルリード。
しかし最後の瞬発力ではおそらくサッカー部のほうが勝る。
勝てる確率は半々くらいだろう。
そのとき、僕に天の声が響いてきた。
何よりも大切な小泉さんの声が聞こえる。
「遠藤くん、私のために勝って!」
承知しました! 僕は人生でこれ以上ないというほど、気合を入れて体中のパワーを稼働した。腕を振り、脚を上げ、足の裏で思い切り地面をとらえて蹴った。
最後の瞬間、僕は松木をかわして抜け出た。
グラウンド中に響く歓声。
「よくやったぞ、遠藤!」
「松本く〜ん、ウソーッ!」
その声の多くは僕の勝利を前提にしたものだったが、松本の親衛隊の女の子たちからは物言いがついた。
「同着だったでしょ。タイムも同じだし」
ここにきて往生際が悪い気がする。しかしさすがに僕が負けたと言い張る声はなかった。
僕も何も主張する気はない。
松本は親衛隊たちの声に乗っかって
「今回は引き分けだ。しかし覚えてろよ」
と言い残して去っていった。
だが僕のクラスは「あの松本をクラスの応援で圧倒してやっつけた」という感じで盛り上がっていた。僕のことはもうそっちのけだ。
顔中汗だらけになって水道で顔を洗っている僕のところに、小泉さんがそっとやってきた。タオルを僕の首にかけながら、僕の手を握って校舎の裏に連れて行く。
誰もいない校舎裏、小泉さんは僕の顔をタオルで優しくぬぐう。
僕は自分の汗まみれの体が気になって、小泉さんに言う。
「僕は汗かいてるから体が臭いよ。そばにいると小泉さんに匂いが移っちゃうかもしれないし」
小泉さんは涙を浮かべながら言う。
「こんなときも遠藤くんは、相手を思いやってくれるのね。遠藤くんは変わらないね」
小泉さんは両方の手のひらを僕のほっぺに当てて、僕の顔を見つめる。
彼女の瞳からひとすじの涙が流れ落ちた。
僕は小泉さんに言う。
「僕は小泉さんを誰にも渡したくなかった」
彼女への気持ちがこみあげてくる。
「人生の中で初めて、死んでもいいからやりきろうという気持ちになれたんだ」
僕の目からもぽろぽろ涙が落ちていた。
僕と小泉さんは、どちらからということもなく、お互いを強く抱きしめ合った。
小泉さんが愛おしい、小泉さんを守りたい。
2人は強く抱きしめあったまま、泣いた――。
お互いの気持ちが少し落ち着いたあと、僕らは帰り支度をしようと校舎へ戻りかけた。
でも少し気持ちが収まらない。
そんな僕の気持ちがわかったのか、小泉さんはそっと僕に寄り添ってくる。
僕はまた、小泉さんの体をぎゅっと抱きしめてしまった。
いい匂いがする。甘くてやさしい香りだ。僕はその匂いに包まれて幸せになる。
小泉さんのおっぱいが僕のおなかにやわらかく押し付けられる。とても気持ちいい感触だ。
僕の下半身はたちまち元気になって、小泉さんのおなかあたりにグリグリと押し付いていってしまう。
「ごめん、僕は汗臭いのに…」
でも小泉さんは、目を閉じて美しいまつ毛を伏せながら、こうささやく。
「くっついていたい。遠藤君の匂い、とてもいい」
僕はもっと小泉さんをぎゅっとしてしまう。その勢いのまま小泉さんの髪に唇を押しつける。僕の唇は小泉さんをもっと欲しがる。彼女の抜けるように白い首筋にも熱くキスをし始めてしまい、彼女のうなじを唇がはい回る。
小泉さんが甘い吐息を漏らす。
「ああん、遠藤君ががほしい…」
僕もたまらなくなる。小泉さんに熱くなった下半身を押しつけ、首筋へのキスを続ける。
「ああッ…」
小泉さんが甘い声をもらしながら、
「なんだか体が熱いの」
とささやく。小泉さんはうるんだ目で僕を見つめながら、
「触ってほしくなっちゃった」
と言う。
「僕も、もっと小泉さんに触りたい」
と僕が言うと、
「でもいま触られちゃうと、私、もう自分を止められなくなっちゃう」
と、小泉さんが言った。彼女はこう続ける。
「学校の中だから。誰かに見られたら大変なことになっちゃう」
「ぼくはかまわない。もっと小泉さんに触りたい」
「だめだよ。だから今は、がまんしようね」
ようやく僕も冷静になり始めた。
僕はどうなってもかまわない。
小泉さんに迷惑をかけるわけにはいかない。
小泉さんもきっと僕のことを思いやってくれているのだろう。
僕はもう一度だけ、小泉さんを強く抱きしめた。
小泉さんもぼくの体に手を回して、手のひらで僕の体をなぐさめるように優しくなでた。
僕たちは夕焼けに照らされながら歩いていった。