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2次元が4次元になった結果

作者: チェリ姉

私はアニメや漫画が大好きだった。

中でも長く推しだった乙女ゲーム。

そんなゲームの世界に転生した私はそれはもう心踊った。貴族では無かったが、実家はそれなりに大きな商会。

平民の中でも恵まれた環境に居た私、エリンは物語の舞台である学園に通う為に、語学や魔法など勉強をとにかく頑張った。


 「ついにこの日が来た…!」


ドクンドクンと高鳴る胸を押さえつつ聖地巡礼のごとく、学園の門を目に焼き付けた。


この物語のヒロインは穏やかな母と豪快な父を親に持つ、明るく心優しい少しお転婆な平民の女の子だ。稀少な光属性の魔力をもつ彼女は学園の中でも注視されている存在だ。そんな彼女と過ごすうちに心惹かれていく攻略対象者達。

中でも人気が高かったのは不動の王子様であるメインヒーローのルーク。

異世界なのに桜が降り注ぐ中出会うヒロインとルーク。そのスチルはとても綺麗で、告白シーンに次ぐ人気の場面だった。1番の推しはルークではなかったけれど私も好きなスチルで、クリア後新しくシナリオを始める度にときめいたものだ。


そんなシーンを見る事が出来るという機会をいちファンである私は逃すまいと、早朝から映像保存装置を設置し、自身も身を隠した。


「わぁ、綺麗…!」


少し跳ねるように。くるくると踊るように。ヒロインは桜のトンネルを歩いて行く。

ザァッと一際強く風が吹き、ヒロインの髪をぶわりと乱す。片手で耳に髪をかけつつ直し、ふと目を開けると少し離れたところに1人の男の人が木を見上げ立っていた。

ヒロインの視線に気がついたのか、静かに視線を下げる。


パチリと2人の視線が合い、世界から一瞬音が消えるーーー。






そんなゲーム内では幻想的だったシーンを見ながら思った。


(萎えた‥)


ウソだと言ってほしい。

あんなに好きだったシーンで、

あんなにリピートしたシーンで、

あんなに釘付けになったシーンで、

…萎えてしまった。


ヒロインは文句なく前世のテレビに出てても全く問題ないくらい可愛い。

ただ、ここは2次元では無く4次元なのだ。ヒロインはヒロインってわかるし、面影もあるんだけど、やっぱり自分と同じ次元の人間だった。


(まじか…)


同じ次元のヒロイン達に会える事にあれだけ楽しみにしていたのに。


(まじかぁ…)


同じ次元になった途端、興味を失ってしまった。

推しにまだ出会っていないのは幸か不幸か。2人が居なくなるのを待ってから映像保存装置を回収し、肩を落として入学式会場へと向かうのだった。







あの衝撃の入学式の日から早2年半。

私は最高学年となり、自身の進路を決める時期がやってきていた。


 「エリンは卒業したらどうするんだ?」


私の目の前で少し首を傾げて問いかけてくるのはアルフィー。

このゲームには攻略対象達にもサポート役が存在する。サポート役というか、尻拭い役である。

例えばデートの遅刻イベント。各キャラ好感度の高さに関係なく起きる事があるのだが、その時にたまたま通りかかった彼が不安そうな顔をしたヒロインに声を掛け、ヒーローが来るまでの時間話し相手になってくれるのだ。


 「実家に帰って商会で働くつもり」

 「そっか」


何を隠そう、私の1番の推しである。

とりあえずメインヒーローを攻略した後、彼の攻略をネットで検索し、出来ないと知ってしばらく落ち込んだ。確かにパッケージに彼は居なかったけど。彼とのエンディングはノーマルエンドの時のみ。

デートに誘って彼が来るとガッツポーズをしたものだ。好感度は全員友情止まりの場合に起こるエンディングだ。


ただ、1年の初日にやる気を無くした私はアルフィーが推しである事に約1年気が付かなかった。

なぜなら、ゲームの中の彼には名前が無かったからだ。『クラスメイトの…』というセリフで終わる。クラスメイトの誰だよ!名前教えろよ!と叫んだのは一度ではない。


 「アルフィーは?」


そんなただのクラスメイトにも神対応ができる彼は、それはもう敏腕だった。

あの衝撃の入学式の日以降、それはもう気落ちして日々を過ごしていた私に、お節介にも声をかけて隣の席でもないのにしょっちゅう隣に座って、違和感なく私のテリトリーに入ってきた男である。

推しのくせに…!

2次元じゃない推しのくせに…!


 「俺は家には戻らないからなぁ」


アルフィーは伯爵家の三男である。以前、実家はすでに兄が継ぐ事が決まっており、わりと自由なのだと笑っていた。嫡男以外は騎士や文官、魔法研究者などを目指す者も多い。

窓の外に顔を向けたままのアルフィーに視線をチラリと向ける。

アルフィーはどうするんだろう?


 「エリンは魔法具研究を続けるかと思ってたけどな」


楽しみが半減したこの世界で、目に見える前の世界との違いが魔法だった。入学式の日に使った映像保存装置は完全に私利私欲の為に作った魔法具だったけれど、前世の記憶がある私が欲しい、便利だと思う物はまだまだ沢山ある。アルフィーは魔法陣を主に研究していたが、魔法具作りに通ずるところも多々あり、私の研究内容もよく把握していた。


 「うん、一応続けるつもりではいるよ。魔法具専門の店とかもアリだと思うんだよね」


まぁ、祖父母と両親の許可が出れば、だが。

我が家では祖父母、両親それぞれに違う商売をしている。革製品に始まり、衣服やアクセサリー、食事処などさまざまな業態に進出している。商売については私はまだまだ素人だからこれから更に学んでいかなければいけないので、実際に新たな店を出すとなると大分先の話だけれど。


 「ただ、ずっと続ける事ができるかは分からないけど…」

 「エリンなら大丈夫だよ」

 「うーん、結婚相手次第じゃない?」


そう、私もいずれは結婚しなければならないのだ。この学園に通う事にしたのも殆どはキャラに会うためだったけれど、ほんの数パーセントは結婚相手を探すという名目もあった。家族は気にするなと言ってくれるけれど、多くの同世代が集まるのはこの国では学園が1番だから。


 「結婚?」

 「え、そりゃそうでしょ」

 「……エリンはそういうの興味ないと思ってた」


まぁ、興味があるかないかでいえばないかもしれない。燃えるような恋をしたこともなければする予定もなく、何となく気が合った人と結婚して穏やかに暮らしていくんだろうなと漠然とと思っているから。


 「じゃあ、俺にしときなよ」

 「え?なにを?」


よく分からない切り返しにきょとんとして聞き返す。


 「結婚するなら、俺にしときなよ」


…え?

聞き返してもニコリとだけ笑い、握手をするように手を伸ばしてきたアルフィー。


手と顔を何度も見比べる私のことを、いつの間にか熟知していたこの敏腕な元推しにそのまま流されるように手を伸ばすのは数秒後。


 「気付いてないとは思ってたけど、1年の時から好きだよ」


2次元から4次元になっても私の推しはやっぱり彼だった。

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