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コミックス②巻発売記念・リベンジ!バレンタイン!

以前書いたバレンタインネタの続編です。

殿下→卒業、クラウディア→三年生くらいまで時が進んでいますが、もし次にSSや番外編を書くときは多分しれっと時間が巻き戻っていると思いますので何卒よろしくお願いします。

 かつて学園の存在していた超ド級のモテ男、ヴァレンタイン・ノヴァ。


 彼にまつわるモテ伝説は尽きないが、ここでは省略する。


 彼が制定した『二月十四日だけ贈り物を受け取ろう』というルールは時代を経て、『二月十四日に好きな人に贈り物をする』という慣習になり、今の世に定着した。


 本日は、そう、二月十四日。『バレンタインデー』。


 私、クラウディアは今日の日にリベンジを誓っていた。


 ◆


「……そんなわけで、殿下! 今年こそ! 食べられるチョコを作ったつもりです!」

「ほう、去年のリベンジか」

「そういうわけです!」


 去年――私は殿下に、手作りチョコを贈った。


 が、しかし、そのチョコには私の無意識の魅了魔法が練りこまれており……殿下に口に入ることは叶わなかったのである。

 なぜか殿下に「あーん」して食べさせてもらって、味の感想を執拗に聞かれるという辱めを受けたのが去年のバレンタインだった。


 ものすごい、恥ずかしかった。

 今年こそは絶対に、普通に殿下に食べてもらって、普通に「おいしい」って言ってもらうぞと誓い、私は製菓部の友達に訓練を受けてお菓子つくりのスキルアップに励んでいた。


 去年は殿下に対する想いを溢れさせ過ぎて失敗したのだと思う。

 今年はとにかくチョコのクオリティを追及した。職人魂が恋心を凌駕するレベルで研ぎ澄まされていれば、私の私情(魅了魔法)は入り込まないはずだ、と信じて。


 好きな思いをチョコに込めるのではなくて、好きな人に最高のチョコを食べてもらうために。

 そうやって気持ちを切り替えて、私は一人の職人としてチョコレートを作り上げた。


「最高の……いえ、至高のチョコに至ったと自負しています! どうかご賞味ください!」

「その気迫、顔つき……。正直、そっちの方向にいったか、という気がしなくもないが、お前の本気は受け止めた。ありがたく受け取ろう」

「はい! お願いします!」


 ちなみに、殿下はすでに学園を卒業済みである。


 魔術学園は十二月に卒業式があって、次の一月に新入生を迎える。

 殿下は十二月に魔術学園を卒業し、私、クラウディアは一月に進級して三年生になった。

 今日は私が魔術学園に殿下をわざわざ呼び出したのだ。

 私たちの思い出が詰まった、例の第二校舎裏に。


 私は学園の制服姿だけど、殿下はなんだかシックなコートを着ていて大人っぽく見えてドキドキする。

 思わずぽーっとする気持ちを抑えて、「私は職人」と言い聞かせて気持ちを引き締める。


(魔術学園の最高学年にもなったわけだし! 魅了魔法のコントロールくらい、ちゃんとできてるようになってなくちゃ……!)


 卒業したら、本格的に殿下のお嫁さんとして妃教育も始まると聞いている。そのときに、魅了魔法のコントロール、まだ微妙なんですよね、なんてことは言えない。

 そういう意味でも、ここでは絶対に、負けられない。そう思っていた。


 緊張感の漂う第二校舎裏。まだまだ健在のちょうどいい感じの切り株に腰かけた殿下と、その手に持たれたチョコの一粒を、固唾を呑んで見守る。


 しばらく静寂が流れた。


 そして、ゆっくりと殿下の口が開かれて――


「食えん!!」

「ま……またかー!!!」


「"またか"はこっちの台詞だ! 去年あんなにいい感じに次に期待してるぞ、って締めくくったのにまんま同じものが出てきたが!?」

「ええええ、全く同じってことはないでしょう!? 私、あんなに修行したんですよ、チョコ修行!」

「チョコのクオリティは上がってるかもわからんが、魅了魔法については変わっとらん! 一緒だ!!」

「嘘! わ、私、今年は私情を捨てて職人として……」


 はー、とゆっくりため息をつき、殿下はかぶりを振った。


「酷なことを言うが、まだ貴様はその域には達しておらん」

「そ、そんな……」

「一年かそこらで『職人』を名乗れるほど、道は易しくないのだ。破邪の守り工房の職人たちのことはよく知っているだろう。彼らは王家の破邪の守りを作るためだけに、十年も何十年も日々技巧を高め続けている。一日でも休むと腕が鈍ると、毎日毎日同じことを途方もなく繰り返しているのだ」

「……ッ!」

「お前なりに頑張ったことはよくわかる。だからこそ……俺が言う意味もわかるだろう?」

「……はい、殿下……」


 悔しいけど、わかる。

 一年やそこらでは到底到達しえない高みであること。そして、私は魔術学園の課題もあるなか、どうしても密度の濃い修行を毎日はできなかった。言ってしまえば、片手間に、できる範囲で、におさまってしまっていた自覚がある。


 がっくりと私は肩を落とす。


「私、慢心していました……っ。一年という時間制限があるなかで、私がすべきアプローチは、ここではなかったんですね……」

「そうだな……。まさか一年間、魅了魔法じゃなくてチョコつくり修行に根を詰めていたとは俺も予想できなかった……」

「いえ!? 魅了魔法の修行をサボっていたわけでは!?」


 慌てて顔を上げる、と、殿下がひとつまみ掴んでいたチョコを一粒私の唇に押し当ててきていた。


「まあ落ち着け、ほら、今年も食わせてやるから」

「ううっ……屈辱……」

「去年ほど恥ずかしがらんな、つまらん」

「悔しさが凌駕してるんです~」


 フッ、と殿下は気障に笑う。

 悔しいけどカッコイイ顔してるなあ、相変わらず。


「仕方がない、今年はもう少し付き合ってやろう」

「え?」


「どーしても俺にチョコを食わせたいんだろう! ならば、この俺が! 貴様のチョコ作りを手伝ってやろう!」

「え……ええー!?」


 そ、そんなの……アリ!? と思いつつ、フハハハ! と楽しそうに高笑いする殿下の後ろを小走りでくっついていくしか私には選択肢がないのだった。

 ちなみに、殿下は私服でもマントをつけててジャラジャラいってた。


 ◆


 製菓クラブの顧問に事情を話し、特別に製菓室を借りて、私と殿下は二人でチョコ作りをすることになった。


 殿下は厳しかった。


 緊張感漂う製菓室に、パァンというお馴染みの音が響く。


「――そこ、魅了魔法が練りこまれてる」

「えっ、ええっ、はやっ」


 製菓用チョコを細かく刻んでいる最中、早々に殿下に指摘される。


「やり直しだな、完成直前にやり直しをするよりかはいいだろう」

「ううっ、それはそうなんですけどぉ……」


 さっき、転移魔法の使い手であるジェラルドさんが殿下にパシられて大量に製菓用のチョコの塊と生クリームを持ち込んできてくれた。

 こんなにいる? と思ったけれど、案外とこれくらいはアッサリ使ってしまいそうで怖い。


「いやー、殿下とクラウディアちゃんは泥臭いスポ根みたいなの似合うよね~」


 とか言いながらジェラルドさんは爆笑していた。

 足りなくなったらまた呼んでね~と言って、転移魔法ですぐに帰っていったけど、これが足りなくなることはあんまり考えたくない。


「俺がいれば魅了魔法が漏れたらすぐにわかるからな」


 殿下は偉そうな顔でマントをジャラジャラさせる。


「破邪グッズの使い方、それでいいんですか!?」

「学園を卒業してたらむしろ工房連中がソワソワしていてな……試作品も試したがっていたからちょうどいい」


 接触機会の減少に伴う破邪グッズ需要の低下が……。

 それなら、いい……のかな?


(とにかく、魅了魔法が漏れないように、頑張ろう! 材料と破邪グッズを無駄にしないように!)


 でも、失敗したチョコは私があとで全部おいしくいただく予定である。

 チョコ、おいしいから、よかった。


 何度か私は殿下の破邪グッズを爆散させるのを繰り返しつつも、なんとかチョコを刻むターンをくりぬける。


(よし、チョコを刻むのはクリア! 次は生クリームを……)


 パァン!


「ああっ、加熱したばかりで!」

「どうも作業の入りで魅了魔法が漏れやすいな、気をつけろ」

「うう……」


「いままで、『職人』のつもりで頑張ってきたんだろ? それくらいの集中力でもう一度やってみろ。魅了魔法が漏れたら俺が教えてやるから、一度魅了魔法のことも忘れて、目の前のチョコ作りだけに集中するんだ」

「殿下……」


 パンパンと破邪グッズが爆散する音がする。いつだって、私に手を差し伸べてくれる殿下は最高にカッコイイ。


 やっぱり私、こういう優しくてカッコいい殿下が好き。


「ありがとうございます、私、頑張ります……!」


 ふ、と殿下が目を細めて微笑む。

 ……ここで、破邪グッズがまた破裂したのは、ご愛敬ということで……。


 気を取り直して、集中する。


 それからも、私は何度か破邪グッズをパァンさせつつも、とっぷりと日が沈むころには、ようやく魅了魔法に汚染されていないチョコを作り上げることに成功したのだった――!


 ◆


「えへへ、殿下、できましたよ。さあどうぞ」

「ああ、よく頑張ったな」


 製菓室の椅子に座って二人、出来上がったばかりのチョコを眺める。

 仕上げのココアパウダーまでばっちりだ。


「どうですか!? 殿下、私の修行の成果は!」


 結局、チョコ職人として殿下への私情を捨て去ることに徹することは叶わなかったけど、純粋にチョコ作りの腕自体は去年に比べて上がっているはずだ。

 私もいままでなんども試食してきたけど、私が作るトリュフチョコはなかなかのおいしさのはず。


「……おいしいよ」


 一粒、口にくわえて、ゆっくりと味わったのちに殿下は微笑みながら答える。


「や――やった……!」

「そんなに嬉しいか」

「だって、私の一年の悲願が達成されたんですよ! 嬉しいに決まってます!」


 腕を高く掲げて万歳する私に殿下は苦笑する。


「全く……最初から俺を頼っていればよいものを」

「うっ……だって、ビックリさせたいじゃないですか……」


 そのときは本気で「これだ! これしかない!」と思っていたのである。

 照れ隠しで魅了魔法が入り込んでしまった失敗チョコをもごもご食べる。こっちも味はおいしい。


「結局巻き込んじゃいましたけど、久々に殿下と一緒に特訓していたときのこと、ちょっと思い出して楽しかったです」

「そうか」


 へへ、とはにかむと、殿下もまんざらでもなさそうに目を細めていて、ますます照れくさい気分になる。

 てれてれしている私を、ふと殿下は真面目な顔を作ってじっと見つめてきた。


「クラウディア。お前なら心配いらんとは思っているが、何かあればすぐに俺に言え。いつでも助けてやるから」

「えっ……」

「頑張り屋なのはよく知っているが、あまり一人で突っ走るなよ」

「……はい」


 こくんと頷く。

 殿下は卒業してしまって、いつも一緒ではなくなってしまったけれど……。


(いつでも助けてくれる気でいるんだ……)


 そう思えると、すごいうれしいし、安心する。


「来年も、リベンジするか?」

「……来年は、一緒に作りましょうか。殿下も」


 今年は私のリベンジに付き合ってもらっちゃったけど、殿下となら一緒に作るのも楽しそうだ。


「ふん、言ったな? 俺は菓子作りでも手を抜かんからな」

「うっ……ま、負けそう」

「まだ一年あるだろう? その間さらなる研鑽を積むことだな」


 フハハハ、と殿下はいつもの調子で偉そうに高笑いした。

 これは私の想像だけど、殿下は、ものすごい緻密な彫り細工のデザートタワーとか作れそうだな……とか思ってしまう。なんでもできる人だから……。


 チョコレートの甘い香りがたちこめる製菓室で殿下と二人、笑い合う時間を過ごす。そんなバレンタインの一日なのであった。


コミックス②巻発売、しました…!

完結さびしいのですがほんっとうに美琴先生が素晴らしく最後まで描き切ってくださっており…ありがたや……

ぜひぜひ多くの方に読んでほしいです~!


ジャラジャラのSS書くのは久しぶりですが、やっぱりジャラジャラ書くの楽しいのでまた機会見て書きたいです!

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加筆大変頑張りました!よろしければぜひお楽しみください。
― 新着の感想 ―
良かった!クラウディアちゃんの斜め上の頑張り、大好きです! 殿下は相変わらず殿下!!
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