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うちの嫁は何も知らない

作者: やまおか

 うちの嫁は何も知らない。

 

 大学で付き合い始めてから卒業と同時に結婚した。

 新しい家、新しい生活、初めての結婚生活。この生活を支えようとがんばろうとした矢先のことだった。彼女のことを何もしらなかったのだと思い知らされる。


「今日、寒いね」

 

 部屋が寒いというのでファンヒーターつけたらというと


「え? どうやるの?」


「電源ボタン押すだけだよ。設定温度はそのままでいいから」


「ごめん。わからないから教えて」


 申し訳なさそうにする彼女は、からかってるというわけではなさそうだった。

 その他にも料理もできないし、掃除機の使い方もしらない。お風呂にお湯を張ることもできない。


 彼女がお嬢様育ちだということは知っていたが、ここまでとは知らなかった。勢いで結婚したせいか同棲期間はなかった。

 驚きはしたが、ゼロから二人の生活を造り上げた。彼女も素直な性格なので教えるのは楽しかった。

 


 今日は彼女にバスの乗り方を教えている。アプリに従えば乗り口も料金も一発でわかると教えると、彼女はまるで未来人を見るように驚いていた。


「すごいね。これなら私でも大丈夫そう」


 アプリに打ち込んだ目的地は病院だった。

 この間会社で受けた健康診断で引っかかった箇所があったので、再検査のためといっていた。

 

「本当に送らなくて大丈夫?」

 

「仕事を休んでまですることじゃないでしょ。まだ新人なのに目をつけられちゃうよ」

 

 一緒に家を出てバス停前で別れた。

 紹介されたのは大きな病院なので迷うこともないだろう。

 

 

 仕事が終わり玄関を開けると、先に帰っていた彼女がおかえりと迎えてくれた。

 

「検査どうだった?」

 

「あー、うん……、何にもなかったよ」

 

 彼女からは初めての病院の様子を身振り手振りで説明する。

 

「横になったらこんなふうにるんぐるん回りだしてね、すごかったんだから」

 

 楽しそうに話す彼女を見ながら口元がほころぶ。こうやって思い出と年を積み重ねていけたらいいと思った。だけど、それは気恥ずかしくて口にはできない。

 

 うちの嫁は何も知らない。

 

 *

 

 うちの夫は何も知らない。

 

 付き合い始めたころから、いろいろと秘密にしていることがあった。

 料理ができないこと。

 いまだに母に起こされないと朝起きれないことなど。

 

 そんな娘だから結婚について両親からは心配された。友人たちからも早いんじゃないかともいわれた。

 つきあってるときとは違う。環境ががらりと変われば好きという気持ちがなくなるという話も聞く。

 

 すでに結婚してから三年が経った。一般的にはすっかり落ち着く頃かと思うが、付き合っていたときよりも好きが増している。

 まったく生活力のない私に我慢強く付き合ってくれる優しさを知った。

 毎日見る、寝起きの姿も愛らしく感じる。

 外で待ち合わせしていると仕事帰りで雰囲気の違う彼にドキリとする。

 

 しかし、それを口にして言えばうっとうしいと思われるかもしれないので控えている。いきなり抱きついてみたりもしたいけれど、びっくりさせてしまうだろう。

 

「検査結果だけど、本当に大丈夫だったの?」

 

「もちろんだよ。大学病院で検査なんて大げさだよね~」

 

 夫が私を大事にしてくれているのはわかっている。

 だから、今日病院で出た検査結果。それも言えないでいる。

 

 

 

 うちの夫は何も知らない。

 

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